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星座の先のエピローグ ~生き残されし彼女たちの顛末 第6部~ 第97章 ボクの計画、ミユキの計画

 11月になった。
 ニシノ・アンナ先生から、「火星から地球に派遣される要員について決まった」という報せがあった。
 さっそく先生のところへ行ってお話を聞いた。
 まずは航宙士、連邦職員などがあるけれど、これらの場合必ず地球に行ける、ということにはならない。地球に行くことが前提で登用されるカテゴリには、「地球コミュニティー支援メンバー」か「地球調査ミッション」があった。いずれも「関連分野の修士号2つ取得」が条件だった。修士号を2つとろうとすると、アカデミー中期課程を修了する必要があるので、最低でも4年はアカデミーに通わなければならない。
「『調査ミッション』には例外規定がありますね」
「どんなのですか?」
「20歳未満でC級航宙士資格がある場合は、調査に関連する分野の学士号2つで可能だそうです」
 学士号2つなら、ハイスクールのうちから準備しておけば、アカデミー前期課程で、最短2年で取得できる。
「C級航宙士について教えてください」とボク。
「火星と月の間を副操縦士として乗務することができる資格です。惑星内では超小型のミニプレインを一人で操縦することもできます」
「どうすればなれるのですか」
「ハイスクール卒業以上で、標準の養成期間は1年間。しかし事前にハイスクールやアカデミーで指定科目を履修しておけば、最短6ヶ月で養成課程を修了できるそうです」
「わかりました。それを目標にしてみようと思います」
「では、『地球調査ミッション』とC級航宙士について、資料を送信しますね」
 先生に送っていただいた資料をよく読み、学位は地質学と気象学とすることに決めた。
 C級航宙士については、実技科目や演習科目以外は、ハイスクールやアカデミーで開講されている科目で充てることができ、養成校に入るまでに必要な単位の認定を受けておけば、最短6ヶ月で修了できることを確認した。
 その日の夕食のあと、ボクはミユキにボクの計画について話した。ボクが一通り話し終わると、ミユキが言った。
「地球に行ったら、ずっとそのまま地球にいるつもりなの?」
「それはまだわからない。ただ、一度は地球に行ってみたいんだ」
「それって…ママに会いたいから?」
「地球にいる人たちのため、地球の将来のために役に立つ仕事がしたい。けれど…ママに会いたいという気持ちがないと言えば、うそになる」
「そっか」
 しばらく間があってミユキが言った。
「わたしも…マモルのママに会いたいな」

 しばらくして、ミユキも将来についての計画を立てることになった。
 火星に居住する演奏家を対象とした、音楽コンクールが開催されることが決まった。第1回は2年後の2293年10月から11月にかけて開催され、それから2年に1度開催される。
 ミユキは、ピアノの先生と相談して。2295年に開催される第2回コンクールに挑戦することを目標にして、練習プランを立てた。4年後、彼女は15歳になっている計算だ。

 翌年、2292年の7月から、ボクはハイスクールに通うことになった。プライマリースクールとミドルスクールは、かつての「船」であった居住モジュールごとに設置されているけれど、ハイスクールは居住区に3校、いずれもコアの部分に設置されていた。ボクは1382居住区の第1ハイスクールに通うことになり、ミドルスクール1年になったミユキとは通学する場所が変わった。ボクは、集合学習と演習のある日は片道30分くらいかけて通った。ミユキも、土日のレッスンの時間が長くなった。一緒に過ごせる時間はますます短くなったけれど、できる限り食事は一緒にとり、食後に話をした。
 ミユキは土曜の夜のミニリサイタルを続けていた。音楽は素人のボクにも、回を重ねるごとに上達していることがわかった。

 ある日の夕食後、ボクはミユキに「ピアノ曲の勉強をしたい」と話した。
「じゃあ、モーツァルトとベートーベンのピアノソナタから始めますか」
 翌日、モーツァルト18曲とベートーベン32曲のピアノソナタの音源へのリンク先を、ミユキが送ってくれた。さっそく宿題や予習、復習のBGMに聴き始めた。「オーディション」で弾いたケッヘル570、パパに送ったケッヘル545、「悲愴」…
 全曲1回聴き終わったときには、1ヶ月経っていた。
「それで、マモルのお気に入りは?」とミユキ。
「うーん、選ぶのは難しいけれど、あえて言えばベートーベンの30番かな」
「ホ長調だね。初心者にしては、いいセンスしてる」
「チビっ子」に「初心者」と言われてしまったボク。事実だから仕方がない。
「じゃあ、他の作曲家の曲も紹介しようか?」
「とりあえずモーツァルトとベートーベンを繰り返し聴いて、あとは自分で探していくよ」
「了解。わかることなら教えてあげるよ」

 ボクらは、それぞれの計画に向けて準備を続けた。
 あっという間に2年が過ぎ、2294年の7月になった。前年に飛び級したミユキはハイスクールの1年になり、3年のボクと同じ第1ハイスクールに通うようになった。
 はじめて一緒に通学する日。自動運転カートに乗った。
「もうあと1年とちょっとだね。コンクールまで」とボク。
「うん。第1回のコンクールの本選の画像を観たけれど、今のわたしは、本選レベルにもう少し、というところかな」
「来年の10月と11月だよね」
「けれど予備選考のために、課題曲と自由曲の演奏画像を9月には送らなきゃならないの」
「そうすると、本当にあと少しだね」
「うん。何とか本選に進みたいから、がんばる」

(つづく)


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