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生き残されし彼女たちの顛末 第4部 第55章 みんな上海…

~周光立の業務日誌より~
 10月28日(月)
 艾総書記にお願いしていた2人の部長については、民生系はロシア系女性で第1自経団第5支団民政局局長のアンナ・ポロンスキー、そして技術系は男性で第9自経団第41支団技術局局長の林興建(リン・シンジェン)となった。
 唐総裁から上海真元銀行からの副部長の人選について連絡。二人とも男性で、財務部の副部長は蔡俊熙(ツァィ・ジュンシー)、システム系の副部長は王敏(ワン・ミン)。
 14時から総書記会。李香月副総書記候補も参加。
 相変わらず周光武は出てこない。代わりに第7自経団副書記兼第35支団書記でマレー人のイブラヒム・ビン・ハッサンが、周光武の委任状を携えて参加する。「マオ対策には協力する」という意思表示だろうか。本人に会って話がしたい。
 最初に、国際連邦への申し入れが連邦統治委員会で承認され、明日議会たる評議会で可決、協定として締結される運びとなったことを報告。付帯事項を説明し了承を得る。
 次に、自経団ごとに区長助理総会を開催し、協定およびシャンハイ・レフュージへの避難について上海自経団としての正式承認手続きをとることを諮る。異議なし。11月11日(月)の週に助理会を1日2回開催し、10の自経団すべてを終わらせることを提案。これも異議なし。招集権者たる自経団書記(第7自経団は副書記)の同意を得たことで、助理会の開催は正式決定された形。自経団ごとの開催日時決定は一任してもらった。
 さらに、上海マオ対策本部を常設機関として設立することの説明。本部長は艾総書記兼務、監察委員に蒋副総書記兼務、そして自分は副総書記兼務で副本部長となり、同時に第4自経団の書記は辞任することを報告。副総書記兼第4自経団書記の後任候補として李香月現副書記を推挙。異議なく承認される。
 対策本部の部長および副部長クラスの人事について、楊大地以下武漢メンバー、上海真元銀行からのメンバー、民間登用の非常勤メンバーも含めて説明。異議なし。連邦から派遣されるメンバーは人選がまだなので、これも一任。
 対策本部の設立に合わせて、総書記会の開催頻度を月2回に増やすことを提案。承認される。それに伴い定例プレスリリースも月2回に増える。次回は、2週間後がちょうど助理会の週にあたるので、助理会がすべて終わった後の11月16日(土)に開催となった。
 その他軽い議題ののち、16時少し前に散会。
 イブラヒム・ビン・ハッサンをつかまえて周光武の様子について聞く。オフィスには出ているようだが、ほとんど自室にこもり、用件のある人間と室内で面談する程度。もともと精悍な顔立ちが、表情が硬く、いつもなにか考え込んでいるような様子とのこと。変わったことに気づいたら教えてほしい、とお願いする。
 本日の議決事項を中心に定例プレスリリースの原稿を作成し、艾総書記の了承を得て長江新報と各通信社に送信する。長江新報の馮万会からはリリースの頻度を上げるようにとの申し入れ。週に2回をめどにリリースするよう努めると回答。

 10月29日(火)
 昨日承認された上海マオ対策本部の組織を整理しておく。正式の発令は11月1日付。
  本部長(上海総書記兼務)
   艾巧玉(アザヤ・ツォクト・オチル)
  副本部長(上海副総書記兼務)
   周光立
  監察委員(上海副総書記兼務)
   蒋霞子
  チーフ・リエゾンオフィサー(副本部長級 武漢自経団副書記、
  マオ委員会秘書處長兼務)
   楊大地(ミヤマ・ダイチ)
    リエゾンオフィサー(部長級 武昌支団副書記、民政局局長兼務)
     李薫(ヤマモト・カオル)
    リエゾンオフィサー(部長級 連邦派遣スタッフ) 
    (未定)
    連邦アドバイザー(副部長級 連邦派遣スタッフ)
    (未定)
  民生第一部
   担当:住民移動に関する事項(ロジスティクス含む)
    部長  周光立(副本部長兼務)
    副部長 張皓軒
    副部長 張子涵
    副部長 李勝文(非常勤)
    副部長 陳紅花(非常勤)
  民生第二部
   担当:住民移動を除く民政局担当事項
    部長  アンナ・ポロンスキー
    副部長 高儷
  技術第一部
   担当:システムに関する事項
    部長  アドラ・カプール
    副部長 ミヤマ・ヒカリ
    副部長 王敏
    副部長 劉俊豪(非常勤)

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~カオル(李薫)の独白~
 僕は上海の対策本部の「リエゾンオフィサー」に任命された。武昌副書記と民政局局長との掛け持ちになる。
 ダイチは副本部長級の「チーフ・リエゾンオフィサー」に就任するとともに、武漢副書記はそのままで武昌書記は辞任する。武昌書記の後任はグエンさんで、武漢副書記は彼女を含めて3人に増える。技術局・商務局の局長兼務は続ける。ヴァルマ財務局局長が兼務で後任の支団副書記に。
 ヒカリは専任の副部長になって上海へ。僕も…上海へ行けるようになりたい。

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~周光立の業務日誌より(つづき)~
  技術第二部
   担当:システム以外の技術局担当事項
    部長  林興建
    副部長 ジョン・スミス(ベルンハルト・ツィンマーマン)
  財務部
   担当:上海真元銀行関連事項、支団財務部との連携
    部長  周光立(副本部長兼務)
    副部長 蔡俊熙
  公安部
   担当:ネオ・シャンハイ公安活動、支団公安局との連携
    部長  周光立(副本部長兼務)  
  商務部
   担当:支団商務局、ビジネス界との連携
    部長  周光立(副本部長兼務)  
 財務部は、タイミングを見て蔡俊熙に部長に就任してもらうとともに、副部長を自経団から任命する予定、公安部と商務部については、ゆくゆくは専任の幹部を任命しなければならない。各部の実働スタッフは民間も含めて、順次任命、登用していく。特に公安部は、移動が本格的に始まれば、相当な数の本部専任スタッフを揃える必要がある。

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[で、「リエゾンオフィサー」ってのは、何をするんだい?]と張子涵がダイチに聞く。
 その日の午後、武昌支団のオフィスにて。高儷も含めた秘書處メンバーにダイチとカオルが加わって話をしている。
[軍隊の「連絡将校」のことらしい。外部の関係者との連絡や調整をする]
「外部っていうと、連邦?」と、高儷と「リンリンつながり」で「姉妹」になったヒカリ。
「連邦もそうだが、上海にとっては、武漢や重慶、成都も対象になる」とダイチ。
[「チーフ」の楊大地が全体を統括するのですかい]とジョン。
[まあ、組織上はそうなりますが、武漢とかについては李薫と手分けしてやっていきます]
[もう一人、連邦からのスタッフが「リエゾンオフィサー」になるんですよね]とカオル。
[だれが来るのかなあ]と陳春鈴。
[中国語の話せるミシェル・イーが適任じゃないですか]と高儷。
「そうね、こちらのこともよくわかってらっしゃるし」とヒカリ。
[アーウィン部長はどうするのかな?]とジョン。
[詳しくはお聞きしていないのですが、別のことを考えているとのお話でした]とダイチ。

[そうそうヒカリ、おまえさんのPITには、ネオ・シャンハイが丸ごと入ってるんだよな]とジョン。
「ええ。ネオ・トウキョウでダウンロードしましたから」
[インフラ系の情報をもらえないか? 予習して、上海に行ったらできるだけ早く動き始めたいから]
[ジョンは優等生だね。あたしは「学力より胆力」だから、あっちでキャラバン・コネクションの連中とかと面と向かってから考えるよ]と張子涵。

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~周光立の業務日誌より(つづき)~
 UTC9時から始まった国際連邦評議会の冒頭で、上海など4地域のAORとの協定案が上程され、マリア・ティマコワ総務担当委員からの趣旨説明、質疑を経て9時半を過ぎた頃に採決、全会一致で可決された。
 午前の評議会審議がUTC11時に終了。その直後、サラーマ・ラムズィ連邦統治委員会委員長とAORの交渉代理人たるアルバート・アーネスト・アーウィンが、協定に調印した。これでこちらの助理会の同意を得られれば正式に発効することになる。
 UTC12時、上海時間20時から、月と上海、武昌を結んでのPIT会議。連邦は「チーム・アーウィン+1」の7人、上海は自分と張皓軒、武昌は楊大地、李薫とマオ委員会秘書處メンバー5人。まずはアーウィン部長から協定締結の報告。メンバーから自然に拍手が湧き起こる。
 協定調印についてプレスリリース。
 次のステップは上海対策本部組織の立ち上げと助理会。
 先に助理会について。自経団創成期には頻繁に開催されたが、ここ10年以上実際に集会の形で開催されることはなかった。改めて参加メンバーに説明する。
 正式名称は「区長助理総会」。自経団全体の利害に関わる事項で、迅速な意思決定が求められる議案を審議するための機関。自経団書記または副書記が招集し、議決権をもつ区長助理の他、オブザーバーとして区長、副区長が参加できる。会場参加の他に、PITによるリモート参加も可能。
 参加権のあるメンバーには、原則として1週間以上前に議案の概要説明資料が渡される。さらに、議決権のあるメンバーで当日参加しない者は、事前に書面(PIT)投票ができる。3分の2以上の区長助理の賛成で可決された議案は、自経団員全体に効力が生じる。
 アーウィン部長から助理会採決の見通しについて質問。張皓軒から報告。各自経団を通じた情報とネット上の情報をもとに分析したところ、ネオ・シャンハイへの避難について9割以上が好意的な反応を示している。早々に開催すれば否決される可能性は低いと考えられる。具体的な説明を早期に望む声が高く、その点からも助理会の早期開催が重要。
 ミシェル・イーが助理会の開催時期について聞く。上海は11月11日(月)から15日(金)。その間に10自経団すべてについて開催する。上海以外についても同時期に開催することで調整中。
 次に上海マオ対策本部について。上海総書記会の同意を得た組織と幹部人事の概要を説明。未定となっている幹部2名について、連邦から、連絡調整役で部長級のリエゾンオフィサーと副部長級の実務アドバイザー、さらにシャンハイレフュージのミニプレインを操縦できるスタッフを派遣してほしい旨依頼。ヌワンコ・オビンナ局長から近日中に人選をして連絡するとのお話。
 次回打ち合わせは、11月1日(金)に、月とネオ・シャンハイをVRミーティングルームで結んでの開催とする予定。

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~陳春鈴の日記より~
 そうなんだ。みんな上海に行っちゃうんだよね。
 シカリ姉さん、高儷姉さん、張子涵、ジョン。
 ダイチとカオルはエアカーがあるから、いつだって行き来できるし。
 ああ、みんなが羨ましい。一緒に上海で…周光立の下で…
 こんなこと言ってちゃだめかな?
 …きょうは、もう寝よう。

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(つづく)


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