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生き残されし彼女たちの顛末 第0部(前日譚) 5)おじいちゃん

「これから話すことは、お前の両親は知っていることだが、お前にはいままで話せずにいた」
 おじいちゃんは一呼吸おいて言った。
「お前の実の祖父は、私ではない」
「...それって、どういうこと?」
 おじいちゃんは、一枚の写真を取り出した。わたしの手のひらの中におさまってしまうくらい小さな写真だった。その古びた写真に写っているのはおじいちゃんのように思えた。
「これは、おじいちゃんの若い頃...?」
「ちがう。これは私ではない。私の双子の兄、ミヤマ・マモルの写真だ。大陸で撮ったんだろう。国際連邦の調査隊でいっしょだった人が、帰還後にこの写真を持ってきて渡してくれたんだ」
 しばらくわたしは写真に見入った。
「たしか50年くらい前に、調査隊の隊員として中国大陸に渡って行方不明になったんだったっけ。おじいちゃんにほんとそっくりね」
「お前の本当の祖父は、ここに写っているミヤマ・マモルだ」
「えっ...」
 しばらく言葉が出なかった。

「...どうして今まで教えてくれなかったの?」
「悪気はない。ずっと機会を逃していただけだ。こんなことにならなければ、ずっと黙っていたかもしれない」
「......」
「申し訳ない」
「...それで、マモルおじいちゃんは、どうして行方不明になったの?」
「写真を持ってきた人に聞いてみた。しかし上海、ネオ・シャンハイの上海だが、そこから長江という大河に沿って内陸へ向かった、ということ以外は何も教えてもらえなかった」
「なぜ?」
「調査に関わる事項はすべて極秘で、『一切口外禁止』とされていたそうだ」

 写真をおじいちゃんに返そうとして、手元がすべって床に落ちた。
 写真の裏側が見えた。なにか数字が書いてある。
「あれ、『30115』って書いてある。これなんの数字だろう」
「この数字か。私も気になってたんだが、心当たりがない」
 おじいちゃんは写真を拾うとわたしに手渡して言った。
「お前にこの写真を託そうと思う」
「わたしでいいの?」
「お前でなければならないと思うんだ」
「わかった」

 わたしは「おじいちゃんっ子」だった。両親には話せなかったことも、「おじいちゃん」にはなんでも話せた。そしてわたしのコンピューターの師匠でもあった。
「おじいちゃん、大丈夫?」とわたし。
「うん。まあ、もうこの年だからな。じたばたしてもしょうがない。それよりマサヒロやカヨコさん、カゲヒコくん、そしてヒカリ、おまえたちのほうが大丈夫か、私は心配だ。私よりまだまだ若いからな」
「わたしはたぶん大丈夫。でも...」
「でも、なんだ?」
「お、おじいちゃんと...会えなくなっちゃうのは...ぜ、ぜったいにいやだよお...」
 わたしの目から大粒の涙がこぼれだした。
「よしよし、ヒカリ。そうやって私のために泣いてくれてうれしいよ。でもなあ、遅かれ早かれいずれくることなんだ」
「...うん」と鼻をすすりながら、わたし。
「こんなご時世だから、ちょっと変わった形でやってきたというだけのことだ」
「うん」
「こんな言い方すると酷かもしれんが...ヒカリ、残された人生を精一杯生きなさい」
「わかった。そうします」
 涙をぬぐってぎこちない笑顔を作るわたし。

 両親とカゲヒコ、息子のマモルが面会室に戻って、ふたたび四世代で迎えるお別れのとき。

 この面会の1週間後、「義理の祖父」であるミヤマ・マサルに「ケアが施された」という通知が家族のもとに届いた。

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(火星授業記録その9)

 ところでみなさん、国の名前といったらどんな名前が浮かびますか?

――ニッポン。

 そうですね。ネオ・トウキョウはニッポン国の首都だった場所にあります。

――統一コリア。

 ニッポンのとなり、北東アジアの半島の国ですね。

――中国。

 東アジアの大きな領域を占める大国です。ネオ・ティエンジンやネオ・シャンハイがあるところです。

――バンコク。

 バンコクは国の名前ではありませんね。タイという国の首都の名前です。

――アメリカ。

 そうですね。北アメリカ大陸の大国です。正式にはアメリカ合衆国といいます。

――ロシア。

 そう、ユーラシア大陸の東西にわたる大国です。正式にはロシア連邦といいます。

――フランス。

 フランスは昔は独立した国でしたが、ヨーロッパ連邦に加わりましたので、さきほどお話しした国家の定義からいうと、ヨーロッパ連邦が国であって、フランスは幅広い自治権を認められたその一地域ということになります。

――ギニア...連邦、でしたっけ。

 正確には、ギニア湾岸共和国連邦ですね。ナイジェリアを中心とするアフリカ中部の大きな国です。

 これぐらいにして、それではここで、いったん休憩をとりましょう。

(休憩)

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 わたしもちょっと休憩。ほとんど人気のないオフィスを抜けてパントリーへ行き、コーヒーメーカーであたたかいコーヒーをいれる。
 席へ戻りコーヒーを飲みながら、MATESをチェックする。テキスト、ボイス、ビデオ。
 テレワークのスタッフからの勤務報告を除けば、わずかに残った仕事仲間や旧友からの別れのメッセージばかり。ひとつひとつ目を通し、聴いて、見て返信する。
 どうぞよい残りの一日を...

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(つづく)


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