生き残されし彼女たちの顛末 第0部(前日譚) 26)希望の大地
(火星授業記録その35)
みなさんといっしょに、20世紀以降の人類の歴史について戦争とインパクトを中心に振り返ってきました。みなさんから質問や意見をもらいました。それらを聞いていく中で、私は人類の未来に対して「希望」を持ちたいと強く思うようになりました。
人類がこれからどのような道を歩んでいくのかは、まだわかりません。月と火星を中心に生きていくことになるのか。それともインパクト後の地球に戻り、レフュージを再建し、さらにかつての環境を復元させて、多くの人が地球に戻るのか。
おそらく、あなたたちの世代が中心になって、そのことを考えていくことになるのだと思います。
だから言います。
戦争などを通じて命を失った多くの人々がいることをけっして忘れないでください。過去の歴史、人類が行ってきたことに対して、疑問をもち、「なぜ」という問いかけを続けてください。そのことが、これからの人類が進むべき道を考えていくために、大切なことだと思うのです。
――質問です。
Yさん、どうぞ。
――マオのインパクトに関することについても、疑問をもっていいんでしょうか。
そうです。もちろんです。ただし、あなたたちやあなたたちの親しい人たちの身の上に実際におこったことですから、まずはそのことを、そのまましっかりと受け止めてください。そのうえで、疑問をもち、「なぜ」という問いかけをしてください。
――わかりました。
過去を振り返り、疑問をもって問いかけをし、そして未来の進むべき道を考えること。みなさんにはそれができる、ということを、今日の授業を通じて確信することができました。
だから、「希望」ということばでこの授業を締めくくりたいと思います。
長い時間、おつかれさまでした。
これから1年間、みなさんのクラス担任として、いっしょにもっと多くのことを学んでいきたいと思います。
よろしくお願いします。
――よろしくお願いします。
~火星授業記録おわり~
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せっかくのヘアスタイルがくずれないように、慎重にシャワーを浴びる。お肌のケアもいつも通り。
フードストッカーのメディカルボックスに今日の分の睡眠剤と安定剤が届いている。取り出して安定剤を捨てる。
支給の精神安定剤は、カゲヒコがケアされた直後から服用をやめている。試しに2、3日飲むのをやめて、様子をみてみたら大丈夫だった。それから、飲むのは睡眠導入剤だけにしている。
寝る準備ができた。
BGMを流すのは寝る前だけ、と決めていた。仕事中も食事中も、家のことしてるときも休みの日の昼間くつろいでいるときも、BGMは流さなかった。
昨日は、マモルが1週間前に送信してくれたミユキちゃん演ずるショパンのト短調のバラードを聴きながら寝た。ミユキちゃんの家族のことはマモルに何度か聞いたけれど、最後まで教えてくれなかった。彼なりの気の遣い方だったんだろうな。
今日は、最近「はまって」いる、Oにしよう。20世紀後半から21世紀にかけて活動した女性ミュージシャンだ。
彼女の曲で特にお気に入りの2曲を最後のBGMに選んだ。野菜がまだ「生命の源たる大地」で育てられていた時代に作られた曲だ。
22時少し前、ふだんの4倍量支給された睡眠剤を一気に服用してベッドに入る。
すっかり眠りに落ちるまでBGMが続くよう、連続再生モードにする。
マモルにMATESを返す。
「安心しました。ママはもう寝ますね。おやすみなさい」
Oの一曲目が流れ出す...
髪を切りたくなったの、この曲の影響だったのかな。誰にもすれ違わなかったけど...
「MATES」の「A」が何の頭文字だったか…アカネに聞くの、忘れちゃった...
楽曲を2回繰り返し、3回目が始まる頃。徐々に眠気が訪れる......
Oの二曲目。「緑の大地」...そして「甘いキッスと目覚め」についての一節。
もう二度と......目覚める......ことの......ない..........
..........
..........
..........?
(おわり)