生き残されし彼女たちの顛末 第4部 第63章 連邦メンバー着任する
~11月18日(月)夕刻の上海マオ対策本部MATESグループ~
張子涵:で、登録ゲートの状況はどうなんだい?
林興建:100台のうち電源の入らないのが16台あったが、このうち5台は電源が入るようになった。
ジョン:残り11台は部品の取り換えが必要だ。3Dプリンターで作らなきゃならない。
カプール:電源の入る89台のうち75台がメニュー画面を呼び出せるようになりました。
ヒカリ:残り14台はプログラムの総入れ替えが必要です。明日から取りかかります。
高儷:75台のメニュー画面をテストしたところ、12台でエラーが確認されました。
ポロンスキー:現時点で正常に作動しているのは100台のうち63台ですね。
張子涵:全然足りてねえな。最終的にどうなりそうなんだい。
ヒカリ:全体の状況が判明するには、まだ2、3日はかかりそうね。
ジョン:ちゃんと動くのは最大9割くらいと見ておいたほうがいいかもしれない。
陳紅花:5月中に終わらすにはぎりぎりってところかね。
張皓軒:上海と他3地域の人流がぶつかることも想定すると、もっと余裕が必要ですね。
周光立:了解です。引き続きゲートの調整を進めるとともに、そちらが一段落ついたら、簡易登録アプリの開発にとりかかってください。
高儷:登録のテストをやっていて気づきました。現在は音声変換で氏名、生年月日などを登録する仕組みですけれど、PITと連携して登録スピードアップできないでしょうか。
ヒカリ:各自がPITに登録している自経団のIDを読ませて、登録情報を呼び出してくるというシステムです。
周光立:少しでも効率化するための仕組みは、ぜひ進めてください。
カプール:IDで連携できると簡易登録アプリも仕様がシンプルにできます。
張皓軒:そう言えば、簡易登録アプリで登録した人について、認証情報の登録とワクチン接種はどうするのですか。
高儷:認証情報登録機は使用予定の避難スペース内に合わせて10台あります。ワクチンは医療用ロボットに摂取させるのがよいかと。
カプール:接種記録を自動で収集できるよう、システム対応が必要ですね。
周光立:抜け漏れなくスムーズに進められるよう、引き続き民生第二部中心にプランを作ってください。
ポロンスキー:了解しました。
張子涵:輸送計画は、いずれにしても「ゲートフル稼働」を前提に進めるぜ。
陳紅花:ところでゲート前に待機できる登録待ちのキャパは?
ヒカリ:広さから見て、そうですね、最大2000人でしょうか。
林興建:携行品のことも考えると1000人くらいとみておくべきじゃないか?
張皓軒:一日あたり平均して5500人は処理しなければ追いつかないから、輸送のタイミングの調整が重要ですね。
張子涵:武漢とか3地域は正確な到着時刻が読めないところがあるから、上海については、しっかりと計画しておかないと。
周光立:引き続きよろしくお願いします。
ダイチ:3地域の輸送経費の概算はどんな具合かな。
張皓軒:武漢・シャンハイ間と重慶・シャンハイ間は、全人口を水運で対応する前提で積算しました。成都はすべて連邦のスペースプレインで対応、という前提でよろしいですか。
ダイチ:OK。それでいい。
張皓軒:了解しました。積算結果をあとでお送りします。
ダイチ:民生第一部の数字に各地域固有の予想経費を加えた所要経費予想をもとに、上海真元銀行に融資の申し込みを行う。
カオル:各地域の固有経費は、それぞれ現地と確認して、ほぼ積算できています。
ダイチ:周光立、面談をセッティングしてくれないか。
周光立:了解。木曜にアポをとる。水曜は夕刻に月と結んだ全体会をする。ダイチと李薫と一緒に、それまでに移動してくれないか。
ダイチ:助かる。よろしく。
カオル:了解です
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~周光立の業務日誌より~
11月18日(月)
19時(UTC11時)頃、アーウィンGMから大気圏突入を始めたとの連絡が入った。ネオ・シャンハイ着陸予定の21時に合わせて、出迎えに行く。アルトと連動するビークルの二隻仕立てで、ヒカリ、自分と警備の潘雪梅、潘雪蘭の4人でネオ・シャンハイのエアーターミナルへ。
予定通りMP1027号が到着。先にミシェル・イー、マルティネス、シリラック、ハバシュ、アーウィンGMの順で降りてくる。今日はリチャードソン船長と副操縦士も下船するので、スペースプレインのエンジン停止操作に少し時間がかかる。待つ間に5人と、ここまでの対応への労いの言葉を交わす。
航宙士2名が降り、全員で移動。アルトにヒカリとアーウィンGM、マルティネス、ハバシュ、潘雪蘭が乗船し、もう1隻にリチャードソン船長、副操縦士、ミシェル・イー、シリラック、自分と潘雪蘭が乗船する。22時過ぎに埠頭に接岸。高儷、張皓軒、李勝文と警務隊員が出迎え。李勝文のタクシー、張皓軒と自分の車の3台に分乗し、警務隊の車が前後につく5台の車列で周光来の屋敷に向かう。秘書の劉静とアシスタントの呂鈴玉が出迎え。手分けして7人を部屋に案内するのを見届けて、上海メンバー4人は帰宅した。
11月19日(火)
晴れ、しかし空気は一段と冷えてきた。今日は連邦メンバーは休養日。出掛けたいところがあれば、李勝文に相談するようにと話した。
助理会終了直後から劉俊豪が進めていた民間登用のシステムエンジニアについて、彼が選んだ候補5名の最終選考。アドラ・カプール、ヒカリ、劉俊豪、自分の4人で一人ずつ面接する。いずれのエンジニアも申し分なし。採用決定。25日月曜からネオ・シャンハイで勤務することに。また同時に劉俊豪は常勤になり、5名を統括する副部長としてネオ・シャンハイを拠点に勤務する。
12月はじめからの予定で本部メンバー入りするスタッフの人選も進めている。
自経団からは10名を予定。公安部と商務部の部長就任含みの副部長を各1名。民生第二部に5名。医療、介護および福祉系のスペシャリスト。技術第二部は2名。機械・電気系のスペシャリスト。財務部の副部長を1名。
上海真元銀行からは、12月初めに部長に昇格する蔡俊熙の、後任副部長を選任予定。
また、ビジネス界から商務部の副部長を兼務で登用できればと考えている。
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~陳春鈴の日記より~
前にMATESもらってから3日しかたっていない。頻繁になっても、おかしいかな。
でも、聞いておきたい。
きっとそうに違いないと思うんだけど…ああ、どうしよう。
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~カオル(李薫)の独白~
やっと明日から上海に行ける。なんとか二人きりに…
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~周光立の業務日誌より~
11月20日(水)
楊大地と李薫は朝に武昌を発って、15時頃を目処に上海入りする予定。
民生第二部と技術第二部全員、それに技術第一部のアドラ・カプールとヒカリを加えた6名は、朝からネオ・シャンハイで引き続き住民登録ゲート問題への対応にあたっている。
10時、第18支団の仮オフィスに、連邦メンバー7人が李勝文に連れられて到着。ミシェル・イーにリエゾンオフィサー兼連邦アドバイザーの、トンチャン・シリラックに連邦アドバイザーの辞令を交付。彼らは連邦から出向する形の専任スタッフとなる。また、カリーマ・ハバシュに、ミニプレインの操縦士兼整備士として、連邦職員兼務で民生第一部に配属する辞令を交付した。こうして3人が本日付で正式に対策本部メンバーとなった。
しばし自由な意見交換の後、11時から7人と李勝文、自分の9人で少し早い昼食。長江新報の馮万会に同席してもらう。連邦メンバーへのインタビュー。内容は各通信社へも配信してもらう。
食後、李勝文と自分の車で埠頭へ。待機していたアルトに李勝文を除く8人で乗り込み、ネオ・シャンハイを目指す。李勝文は後刻他のメンバーと一緒にやってくる。
13時半頃にレフュージ統治府本部オフィスに到着。5階のオフィスに向かう。14時頃、本日の作業を終えた「登録ゲート対応」の6人がオフィスに戻ってきた。この2日で12台の調整が完了し、100台のうち75台が正常に動くようになったと報告を受ける。
メインオペレーションルームに、アーウィンGM、ミシェル・イー、マルティネス、シリラックを、ヒカリと自分で案内する。端末でコントロール・ユニットの操作についてヒカリが説明し、ネオ・トウキョウのものも基本的には同じであることをアーウィンGMとマルティネスに告げる。その後、ネオ・トウキョウのイマージェンシーキーをヒカリが2人のPITに装填する。
さらにヒカリから、現時点でネオ・トウキョウの唯一の「住人」である、ケイトクシ・ヤストモのことを話す。彼にはヒカリからMATESで連邦の2人が向かうと連絡すみ。
15時少し前、ダイチから上海到着との連絡が入った。第18支団の仮オフィスにいたメンバーと合流して、11人がネオ・シャンハイに向かう。アルトと、連動するビークルに分乗し、17時少し前にネオ・シャンハイオフィス着。ヒカリが、月側がスタンバイOKであることを確認。
上海時間17時半(UTC9時半)から、ネオ・シャンハイと月の連邦本部を結んでのVRミーティング。月側はファン・レインGM以下6名のマオ対策支援グループメンバー。武漢、重慶、成都メンバーはエア・ディスプレイにタブレット画像を投影して参加。新加入メンバーがいることから、改めて全員が自己紹介。
上海マオ対策本部から進捗報告。当面の一番の課題は「登録ゲート問題」。稼働台数の確保と補完システム開発を並行して行っている。その他重要課題を洗い出し、関係各所との折衝を行いながら、幹部スタッフ、専門性の高いスタッフを順に確保し始めている。基本計画を早急に策定のうえ、12月中に実行案を策定し順次住民への告知を行い、1月半ばには具体的な移動計画を公表する予定。連邦の支援グループ側との質疑応答。特に連邦からの派遣要員・機材の規模と派遣時期について、遅くとも派遣を開始する1ヶ月前には申し出て欲しいとのこと。
続いてアーウィンGMから「マオ対策AOR収容プロジェクト」の概要について。特にネオ・シャンハイと上手く連邦派遣の機材・要員を融通できる体制を作りたいとのこと。当方も同意。
最後に30分ほどブレスト的に話し合った後、2週間後を目処にシャンハイ・トウキョウ・月を結んでVRミーティングを行うこととして19時半に閉会。
上海へ戻ると遅くなる。今後お世話になるものを体験する意味も兼ねて、全員ネオ・シャンハイの備蓄非常食でディナーとする。オフィス横のストックにある非常食から、めいめい好きなものを選んでオフィスに持って行き、ウォーマーで温めて食べる。味はおおむね好評。ハバシュによれば「機内食より美味しい」とのこと。
21時ネオ・シャンハイ発。アルトが定員20名のビークルを連動させて運んでくれた。
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~陳春鈴の日記より~
(PITを出しては、しまい、を繰り返した後)
ああ、どうしよう…今日はなんか恥ずかしいから、やめとく。
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~周光武の独白~
光立とは、子どもの頃は毎日一緒に遊んでいた。初中になると1学年違ってそれぞれに親友ができて、一緒に過ごす時間は短くなったけれど、仲のいいことに変わりはなかった…いつからこんなことになったんだろう。
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(つづく)