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生き残されし彼女たちの顛末 第0部(前日譚) 4)市民投票

(火星授業記録その7)

 民主主義国家は、権力分立、多くの場合三権分立の形で国家の仕組みができています。三権についてみなさんのタブレットに表示されています。

 ~ディスプレイ表示内容~
  立法権:国家の仕組みや国家がやるべきこと、国民が従わなければ
      ならないルールを定める法律を制定する権限。
      立法府がもつ。
  行政権:立法府・司法府の行う以外の国家のやるべきことを、
      立法府の制定した法律に基づき実行する権限。
      行政府がもつ。
  司法権:立法府の制定した法律に基づき独立して公平な裁判を行う
      権限。
      司法府がもつ。

 「権限」ということばは、正確に説明しようとすると長くなりますが、ここでは「行うことができるものとして与えられている能力やその範囲」ということで理解してください。

 民主主義国家では「国家の主権は国民にある」とされています。
 国の規模が極端に小さくて人口がわずかであれば、三権ともにすべての国民が直接に参加して行うことができます。このような形の民主主義を「直接民主主義」と呼びます。
 しかし実際に直接民主主義で国を統治するには、人口が多すぎたり領土が大きすぎたりします。
したがって通常は「間接民主主義」のやり方で国家を統治することになります。国民が定期的に選挙で立法府のメンバーや行政府の最高責任者を選び、それらの人たちに国家による統治をまかせる、という形です。

 国際連邦暫定統治機構の本部は月にあり、立法府にあたる連邦評議会、行政府にあたる連邦統治委員会、司法府にあたる連邦裁判所から構成されています。

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 わたしが勤めるトウキョウ・レフュージ統治府は連邦統治委員会直下の機関として位置づけられる。レフュージ統治府の各部署は、実際には担当業務の内容によって委員会直下の各局の関係各部の指揮を受けて業務にあたる。連邦統治委員会情報通信局情報支援部の指揮下にあるわたしの所属部署名は、トウキョウ・レフュージ統治府情報支援「支部」という。
 かつての直属のボスだったキリヤマ支部長がケアを施されて支部長が不在となって以降、副支部長であるわたしの直属のボスは、月にいる連邦統治委員会情報通信局のアーウィン情報支援部長となった。
 月の標準時はUTCなので、もう部長は眠っているだろう。

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(火星授業記録その8)

 地球上のレフュージ、月、火星の住民には「連邦市民」の地位が与えられ、16歳以上になると選挙権が与えられます。立法府である連邦評議会のすべての評議員と、行政府の最高責任者である統治委員会の委員長は、連邦市民が直接、選挙によって選びます。そういう意味では国際連邦暫定統治機構は、原則として「間接民主主義」の形をとっていることになります。
 法律にあたるものは、国際連邦暫定統治機構では「規則」と呼ばれています。みなさんのタブレットに規則の種類が表示されています。

 ~ディスプレイ表示内容~
  連邦C級規則:統治委員会が独自で決める。
  連邦B級規則:統治委員会が立案し評議会で決める。評議会が独自で
         決めることもできる。
  連邦A級規則:統治委員会が立案し評議会が賛成したものを
         市民投票にかけて決める。

 この3段階の規則のうち、連邦C級規則は厳密には法律にはあたりません。法律にあたる連邦A級規則や連邦B級規則を実行するときに必要となる細かい進め方や決め事について、そのA級規則やB級規則に反しない範囲で、統治委員会がC級規則を独自に決めることができるようになっています。

 それでは、連邦A級規則についてくわしく見てみましょう。
 Eさん、どう思いますか。

――質問ですが、「市民投票」はすべての市民が参加するんですか?

 はい。その規則が決まったときに影響を受ける市民のうち、選挙権のある16歳以上のすべての市民に投票の権利があります。

――それって「間接民主主義」じゃないですよね。

 その通りです。この部分は「直接民主主義」の形をとっていることになります。規則として決めなければならないもののうち、個々の市民にとって大きな影響がある重大事項については、連邦A級規則として、影響がある市民の投票により意向を問う形で決められることになっています。
 みなさんのうち地球出身の24人の人たちが火星に来たのも、レフュージの市民による市民投票によって決まった連邦A級規則に基づくものです。
 この点についても、あとで詳しくお話しします。

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 わたしの、カゲヒコの、マモルの、そして家族みんなの運命がこの「市民投票」で決まった。

 父方の祖父、ミヤマ・マサルと最後に会ったのは3年前の1月のこと。西15区の公立第4ホスピタルのターミナルケアセンターに、両親とわたし、そして夫のカゲヒコと息子のマモルも連れて訪ねた。
面会室でしばらく待つと、しっかりした足取りのおじいちゃんが現れた。
 優秀なコンピューター・エンジニアとして活躍したおじいちゃんは、そのとき75歳。
「老いぼれのカテゴリAだから、もっと早くにくるかと思ったが、意外と待たされてしまったな」とおじいちゃん。
 ひとしきり世間話や亡くなった祖母の思い出話などが終わると、おじいちゃんが言った。
「ちょっとヒカリと二人だけにしてくれんか」
 両親はマモルを促すようにしてカゲヒコとともに面会室から外に出た。

(つづく)


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