生き残されし彼女たちの顛末 第4部 第66章 基本計画まとまる
引き続き持盈と対策本部との会議。休憩開けのテーマは、ビジネス活動の取り扱いについて。対策本部側は周光立が中心となって話す。
最初に、上海での生産・流通活動の段階的終了スケジュールについて。
[一般の生産・商業活動については、先ほどもお話しのあった通り、支団ごとの移動が進むのに合わせて、当初は暫時縮小ということで進めたいと考えています]と周光立。
[移動は支団単位ですかい?]と田国勝。
[支団単位、自経団単位で移動が完了する形で立案してもらっています。ロジスティクス系の住民が多い第9・第10自経団については、最後に移動ということになると思います]
[それで、どこかのタイミングで生産・商業活動を一斉ストップする、ということですな]
[はい。ただし残りの住民の生活のために、電気、水道、通信インフラは全員移動完了まで維持します。それから食糧と生活用品は、ネオ・シャイハイの避難用品を配給しますので、この部分の配送機能は順次縮小しますが、最後まで必要になります]
[その部分も計画に盛り込まれているのですな]
[はい。その分も車両と人員の所要数に参入して計画しています]
さらに話題は、事業者の借入金の問題と生活資金の支給の問題に移った。
[一定期間の一律返済猶予と、返済困難者への支援について、枠組みを上海真元銀行と協力して作っているところです]と周光立。
[それはありがたい。特に小規模事業者が心配しているところだからな]と田国勝。
[収入がなくなる者への支援も、9月にお話ししたとおりですね」と林孝通。
[移動当初は食糧、生活用品の現物支給が中心になりますが、その後の社会生活の段階に応じて、必要な生活資金を支給できるようにします]と周光立。さらに続ける。
[対策本部商務部の兼務の副部長に、黄学平を任命していただいたこと、ありがとうございます]
[あいつは、うちの会社では珍しいくらいに潔癖な男ですから、信頼していただいて大丈夫だと思います]と田国勝。
[商務部は、いままで私が兼務の部長ということで形だけ存在していましたが、自経団から部長含みの副部長を任命することになり、12月から本格的に始動します。とはいえ自前のスタッフは必要最小限にして、ビジネス界の側でプロジェクトチームを立ち上げていただきたいと思います]
[いいでしょう。12月に入ったら、責任者と専任スタッフを任命することとします]
議題が終わり、茶菓子が運ばれてきてしばし歓談。対策本部メンバーは17時頃に持盈商業流通集団の本部オフィスを辞した。
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~周光立の業務日誌より~
11月27日(水)
13時から上海、武漢、重慶、成都を結んでの対策本部・委員会合同会議。武昌の呉桂平(ウー・グイピン)民生局副局長が本日から参加。
最初に12月1日付の武漢関連の人事異動案について楊大地から。まずは、メンバーのほとんどが上海対策本部入りしてしまった「マオ委員会秘書處」を正式に廃止し、楊大地を委員会の副委員長に、陳春鈴には「秘書」という形で引き続き担当してもらうこと。次に李薫の武昌民生局局長兼務を外し、後任の局長には副局長の呉桂平に就任してもらうこと。3地域の幹部から異論はなく、了承された。
そして本題の全体基本計画案について。個別の前提については、すでに李薫が3地域と確認しているが、全体像を全員で確認するのは初めて。以下項目ごとに記す。
1)移動時期:2月9日(日)~13日(木)を春節休暇とし、15日(土)の上海前衛要員の移動から開始。本格的な移動は17日(月)から。
2)成都移動:最初にスペースプレインで全員移動し第1週でほぼ完了。
3)上海移動:第1週から一日6区のペースで移動し5月中に移動完了。一般はバス+小型船。弱者(幼児・病人・障害者と家族、高齢者)はミニプレインとビークル。
4)武漢移動:2週目から支団単位で移動開始し5月中に移動完了。一般は大型船(当初4隻で運用。重慶終了後は10隻体制)。弱者はスペースプレイン。
5)重慶移動:1週目末から支団単位で移動開始し5月中旬に移動完了。一般は大型船(6隻で運用)。弱者はスペースプレイン。
6)移動機材
①スペースプレイン:ネオ・シャンハイ籍1機(定員250名)。連邦に交渉して1機(定員250名クラス)を成都移動時に配備。さらに予備を1機(定員100名クラス)連邦に交渉。
②ミニプレイン:ネオ・シャンハイ籍10機(定員MAX20名)
③大型船:12隻(定員最低600名、平均800名)+武漢予備1隻、重慶予備1隻
④小型船:25隻(定員平均100名)
⑤マリンビークル10隻:(定員合計200名)
⑤車両:バス100台、タクシー400台、トラック70台
7)連邦スタッフ派遣要請:シャンハイ籍スペースプレイン操縦士3名、成都用追加プレイン操縦士2名、予備プレイン操縦士2名、ミニプレイン操縦士20名(ハバシュ除く)、整備士2名(ハバシュ除く)。マリンビークル整備士は上海で2名養成。
8)備品・用品の所要見積もり
①一般の生産・商業活動停止後の食糧・日用品:非常食約900万、日用品セット約300万。ネオ・シャンハイ備蓄分で対応可。3地域への運送と上海への配送の計画立案必要。
②救命胴衣の追加配備分:3サイズ合わせて17750が必要。上海・武漢・重慶で6800製造可能。ネオ・シャンハイで10950製造。
③簡易トイレ:大型船・小型船合わせて329必要。ネオ・シャンハイで製造。
④船内ダストBOX(ごみ処理機能付き):大型船・小型船合わせて145必要。ネオ・シャンハイで製造。
⑤大型船内簡易寝具追加配備分:マット+毛布×2のセットが8400セット必要。武漢で2500セット製造可能。ネオ・シャンハイで5900セット製造。
⑥携行品用バッグ類:スーツケース・ボストンバッグ・バックパック・キャリー。必要数を聴取しネオ・シャンハイ避難用備品を提供。合計最大250万。
9)長江流域デポ(緊急避難用)整備:上海=武漢間3ヵ所(南京 安慶 九江)と武漢=重慶間の2ヵ所(岳陽、宜昌)の合計5ヵ所。水密型シェルター(最低1000人収容規模)を確保、整備し、非常食等を配備する。武漢自経団と協力して実施。
10)携行品・別送品について
①重量制限:20kg/人。ただし15歳未満は(20+年齢-15)kg。
②重量制限の別枠:情報通信機器、医療介護機器・用品、職務関連用品、学習・啓発関連用品、ロボットペット、動植物ペットのうち、申請があり審査の結果、ネオ・シャンハイでは代替品入手困難と認められたもの。ただし動植物ペットは1月1日時点でペット登録されているもの、およびそれらから生まれたものに限り、危険なものについては然るべくケース、ケージ等に収納されていることが条件。なお、以上に該当しないものについても、申請があり審査の結果認められたものについては、別枠の対象とする。
11)自経団団費の徴収:2月徴収分から停止 再開時期は別途調整。
以上を基本として、具体案を作り込んでいくことで全員了解。質問があったのが携行品の別枠の申請方法と審査主体について。審査については、具体的な基準を自経団経由各支団に通知し、それを元に支団で一次審査を行いその結果を民生第一部で確認。判断に迷う事案について民生第一部が最終審査を行うことで、一元的な審査を担保できるようにすることを説明。
上海側は、土曜日の拡大総書記会に諮る。承認されれば正式な全体基本計画となり、機材・要員派遣の要請を連邦に行う。「正式承認前の本部案」ということで、一部抜粋したものをプレスリリース。
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~MATES往復メール:陳春鈴と周光立~
陳春鈴:今日は画面の遠くのほうだったけれど、元気なお姿を拝見できて嬉しかったです。
周光立:メールありがとうございます。貴女もお元気そうでなによりです。近々「実物」をお見せできる機会を、楽しみにしています。
陳春鈴:私も楽しみにしています。
周光立:そうそう、昨日は張子涵が大活躍でしたよ。服はふだんとおりでしたけど。
陳春鈴:おもしろそうですね。またお話しお聞かせください。お疲れのところ、ご返信ありがとうございます。おやすみみなさい。
周光立:おやすみなさい。
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~MATESチャット:陳春鈴と汪花琳~
陳春鈴:起きてる?
汪花琳:うん。
陳春鈴:今日はメールでやり取りしたよ。
汪花琳:そう。オトナじゃん。
陳春鈴:会える日を楽しみにしてますって。
汪花琳:よかったね。
陳春鈴:ありがとう。じゃあ寝るね、っていうか、今夜も眠れるかな?
汪花琳:ははは。おやすみ。
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~周光立の業務日誌より~
11月28日(木)
11月25日に配属された技術第一部の5名と12月1日付で配属される民生第二部5名、技術第二部2名に第18支団オフィスに集まってもらい、自経団幹部に説明を行った際の映像を見せた後に自分とアンナ・ポロンスキー、アドラ・カプール、林興建の3部長で全体状況を説明。質疑応答を受ける。本格的に移動するまで、どのような生活サイクルになるかの質問あり。基本は上海からネオ・シャンハイへ通う形だが、ネオ・シャンハイにも簡易宿泊スペースを用意すると回答。
昼食後、計16人でネオ・シャンハイへ。高儷とヒカリが出迎えし、二人の案内でネオ・シャンハイは初めての7人に主要部分を見学してもらう。5人のエンジニアは劉俊豪によるネオ・シャンハイシステムの講義。シリラックも同席し要所々々でアドバイスをしている。今週中でひととおり終わるとのこと。
17時で全員切り上げ。楊大地、李薫、ミシェル・イーが現地合流し、南京酒店での懇親会。
11月29日(金)
明日の拡大総書記会に向けた準備。資料は出席予定者に水曜のうちに送信しているので、特段用意するものはないが、艾総書記もいらっしゃる中で60人強の人たちを相手に話をするのは緊張する。テーマごとに、自分、張皓軒、張子涵で分担して説明することにして、夕方にリハーサルをした。
「公表は明日の拡大総書記会で承認後」という条件で、長江新報はじめ各通信社に全体基本計画を送信した。
11月30日(土)
蒋副総書記は、第3自経団オフィスのある第14支団の大会議室と中会議室の間の間仕切りを取り外して、80人収容できる場所をご用意くださった。10時開始なので9時半に現地入り。全体基本計画(案)の説明役の自分と張皓軒、張子涵に、楊大地、李薫、ミシェル・イー、そしてアンナ・ポロンスキー、アドラ・カプール、林興建、蔡俊熙の各部長のあわせて10人が対策本部から出席。総書記会メンバーと支団書記が全員揃い、第7自経団が、例によって周光武の代理で第35支団書記を兼任するイブラヒム・ビン・ハッサンであることから、総勢79人。ほぼ定員いっぱいとなった。
水曜日の合同会議の際に確認した内容を、項目ごとに3人が交代して説明する。いったん連邦スタッフ派遣要請の件まで説明したところで、最初の質疑応答を受ける。支団書記5人から質問があり、おおむね説明事項の内容について理解が相違ないかの確認だったが、1人から移動の順番について質問があり。上海は原則として支団の番号順になるが、上海のシステム維持と本部機能維持のため、第6自経団と第4自経団だけ順番を若干後ろに回すことを考えていると説明。さらに、支団ごとにまとまっての移動となるか、との質問があったので、支団によって2日または3日必要となるが、原則として連続した日に移動することとなる、と回答。
15分休憩。再開後さらに説明を進める。全項目終わったところで質疑応答。支団書記6人からの質問は、やはり理解の確認が主体だったが、一人から、支団に対して具体的に移動に関わるやりとりが行われるのはいつ頃か、との質問があり。12月中に各自経団を担当する専任スタッフをアサインし、具体的なやりとりは1月初めに開始、移動の順番に応じて1月末には完了する速度感で進める、と回答した。
説明、質疑が終わったところで、総書記から全体基本計画案に対する賛否を総書記会メンバーに対して確認。全員異議なく、基本計画として正式に決定された。
最後に民政局、公安局を中心に、各支団にプロジェクトチームを立ち上げていただくことをお願いし、ご了解をいただく。
12時過ぎに終了。対策本部の10人で戻る途中で、食堂に立ち寄り昼食。馮万会はじめ各通信社のスタッフに、昨日送信した内容そのままで公表OKとの連絡を入れる。
その後、確保したオフィスへ。第18支団のスタッフが協力してくれて、引っ越し作業を行う。18時少し前に引っ越し完了。空になった支団の大会議室で、ケータリングの食事と飲み物を用意して慰労会。
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~カオル(李薫)の独白~
一昨日の懇親会は同じテーブルの、しかも隣になれた! けれど思うように話ができない。当たり障りのない仕事の話ばかり。やはり、なんとか二人きりになりたいが、まずは彼女の横顔を近くで見れたことで満足、ということにしておこう。
「あしたは来月」の日がまた過ぎようとしているところに、メールが着信した。
え? ヒカリからだ!
「こんばんは。一昨日はお話しできなかったのですけれど、またひとつ、月命日がきましたね。大丈夫ですか」というメッセージ。
「ありがとう。大丈夫です。貴女にとっても特別な日なのではないですか?」とメッセージを返す。
「そうですね。わたしの場合は5ヵ月長く生きたことになります…ごめんなさい。こんなこと言って」
「いえ。貴女もいろいろな思いをされてきたのでしょうから」
「お心遣い、ありがとう。お疲れでしょうからそろそろ終わりにしますね。おやすみなさい」
「メールありがとう。おやすみなさい」
…僕にとっては毎月悲しい日。でも今日はサユリには申し訳ないけれど…嬉しい。
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~周光武の独白~
初任4年目に志願して、治安が悪い第7自経団に移った。支団副書記兼務の公安局局長。異例のスピード昇格には「周光来の孫」ということが影響していないとは言わない。要は、自分の力で結果を出すこと。おれは昼夜なく走り回り、犯罪の摘発、治安の改善に努めた。
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(つづく)