<スペシャル鼎談>BIPROGYが目指す地域社会を支える企業共創とは?
今回は、60年以上にわたりシステムインテグレーターとして培った経験と実績をバックボーンに、近年では業種・業界を超えた企業間連携を通じ、社会課題の解決に向けた共創社会の実現を目指すBIPROGY株式会社の向井剛志氏と内田雅之氏をお迎えしての鼎談です。
2022年の出会いから2年を経て、BIPROGY様とは、トヨタ・コニック・アルファ様の「ドライバーの健康増進プログラム」の実証実験でご一緒する機会を得ました。
本鼎談では、トヨタ・コニック・アルファ様との実証事業をはじめ、BIPROGY様が描く企業共創の未来像や、私たちの習慣化サービスの可能性まで、お話を伺うことができました。
出会いはILSのマッチング。計測できるデータではない、生の情緒的な会話データの重要性に共感
森谷:BIPROGY様との出会いはILS2022(イノベーションリーダーズサミット)ですね。どういった観点でわたしたちに興味を持たれたのでしょうか?
内田氏(以下、内田):弊社は柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)にて、三井不動産株式会社、UDCKタウンマネジメント社等と共同でパーソナルデータ流通プラットフォーム「Dot to Dot」を提供しております。柏の葉スマートシティでは主にヘルスケアを中心とした住民向けサービスを提供していますが、「習慣化」というキーワードに大変興味を持ち、面談させていただきました。
森谷さんにお話を伺った際に、計測できるデータではない、生の情緒的なデータが、サポートや寄り添いによる会話の中で生まれるという点に気づき、WizWeさんと一緒にやっていきたいと思いました。それがスタートですね。
森谷:あっという間に2年が経ちましたね。私たちのコンセプトを理解していただくのに時間がかかることも多いのですが、内田さんはすぐに理解してくださいました。特に「サポーターをつけていく」とか、「人数が増えても大丈夫」といったコンセプトや、情緒的な会話データの重要性についても共感していただき、非常にありがたく感じました。
内田:ビジネス的な目線で言うと、技術をサービスの内側に閉じ込めておける、技術を使えば使うほど省エネで対応できる人数がどんどん増やせるという点が、うまいやり方だと感じています。本質は人のサポート力ですから、それをいかに効率的に技術で実現できるかというところですね。デジタル化というと付加価値をデジタルで生み出すことにこだわってしまいがちですが、WizWeさんは「ヒューマンの価値」という既に提供したい価値に形があるところからのスタートなので、そのアプローチが素晴らしいと感じました。
森谷:最初はハイパーBPOと言っていましたね。最近では「BPaaS(Business Process as a Service)」という言葉が出てきたので、それを使っています。アウトソーシングとテクノロジーを組み合わせて、より効率的にビジネスを進めるという考え方です。良い言葉を生み出していただいてありがたいです。生成AIが予想以上に早く登場したので、危機感もありながらですね。
内田:生成AIで人間が指示を与えるインターフェースは格段に進歩していますが、人間が本当にやりたいと思っていることを引き出すことは、まだAIには難しい部分だと感じています。特に習慣化のようなところは、自分でもやりたいことを本質的には分かっていない場合が多いため、そこを引き出すことが最初のステップだと思います。WizWeさんのように、ある程度はヒューマンアプローチを行いながら、ストーリーを引き出し、目標を設定するプロセスやノウハウを持っていないと実現できない部分だと感じています。
森谷:ヒューマンとAIのブレンドをうまく進めていきたいと思っています。ただ、受け手側の進化も必要ですね。若い世代はAIに抵抗がないかもしれませんが、大人の方々の中には少し抵抗感を持つ方もいらっしゃいます。アレルギー反応が出ることもあります。「〇〇さんはAIではなくて人間ですよね?」という確認が入ることがあります。現状は、人間だと分かると習慣化率が上がりますね。
パーソナルデータ連携基盤「Dot to Dot」の提供を通じて、企業間の共創を推進
森谷:皆様の部署は、どのようなお取り組みをされているのでしょうか?
内田:弊社はこれまでシステムインテグレーターとして顧客課題を解決することを生業としてきた会社です。そして今は、様々なパートナー企業をつなぎ、社会的価値を創出することを目指しています。私の所属する共創プロジェクトでは、社会課題解決を目指す複数のステークホルダーと共創して価値創出に取り組み、同時にその価値を持続可能とするために新しい産業や市場を創発して経済的にも合理的な仕組みを創り上げることに取り組んでいます。
その過程で感じているのは、社会を取り巻く問題を解くためには他分野が垣根を超えて社会構造そのものを変革する必要があるということです。社会状況が変化し生活者との接点・ニーズも複雑で多様化している中、これまでの社会システムや産業構造の枠組みの中で起こせる変化はどうしても小さくなってしまいます。1業種1社で解決できることには限界があるということです。このような課題に対峙するには、複数のプレイヤーがデータやケイパビリティを持ち寄り有機的に連携させて素早く価値を生み出し、その価値を生活者に届けるための新しいビジネスエコシステムすなわちビジネス構造そのものを作り上げていくことが鍵になります。
そのためには企業がデータやケイパビリティを安心安全に連携する仕組みが必要です。例えば企業が取り扱うのにハードルが高いデータの一つにパーソナルデータがあります。そこで弊社は「Dot to Dot」というパーソナルデータ連携基盤を提供しています。つなげるハードルを超えることに傾注したり立ち止まったりするのではなく、すぐにでもつなげられる仕組みがある、その前提で価値を生み出す構造や意義を共創することを優先しましょう、こんなスタンスで活動しています。
現在、トヨタ・コニック・アルファ様と進めている「バス・タクシードライバーの健康増進・習慣化による ヒヤリハットの低減に向けた共創サービス事業」もそんな活動の一つです。
森谷:私たちにも貴重な機会をいただき、ありがとうございます。どのようなきっかけで、この事業に習慣化サポートを入れようという話になったのでしょうか?
内田:この事業はヒト・モノ・コトの移動をサスティナブルにすることを目指しています。移動は生活や経済の根幹です。しかし、移動インフラを安全安心にすることが、当事者企業の投資にかかっているのが現状です。もっと日本全体で移動インフラに投資していく流れをつくる、そのための触媒としてデータ価値循環がつかえるのではないか、という仮説を立てて、その入口としてまずは職業ドライバーへの健康投資を単純な当事者コストとしないモデル創発にチャレンジしています。
この取り組みに習慣化サポートを組み込ませていただいた背景には2点あります。1つ目は、利用者であるドライバー自身が健康増進に取り組んでもらうための習慣化を支援する機能として。2つ目は、データ価値循環を狙うにあたって、習慣化を支援する中で取得する会話データによって相乗効果が生み出せる可能性があると考えたからです。
森谷:ありがとうございます。いろいろなところで、興味や関心を持っていただけています。
内田:日本全国には、人で成り立っているサービス業態がたくさんあります。移動業界はその一つですが、これまで企業の投資は設備投資や研究開発などに力をいれていましたが、これからの働き手不足の中では、人に対する投資、特に従業員のパフォーマンスを維持したり永く働き続けてもらうことに対する投資の重要性が増してくると感じています。
その中で、WizWeさんの習慣化サポートは、会社として従業員の状態や考えを会話を通じて引き出し、明確な目標を持たせることができるという点で、非常に大きなマーケットになるのではないかと思っています。
習慣化サービスの可能性
向井氏(以下、向井):WizWeさんの習慣化サービスは、どのような領域が増えていきそうですか?
森谷:最近は、製薬業界との取り組みが動き始めています。
向井:どのような用途で使われるのでしょうか?
森谷:服薬アドヒアランスですね。単に習慣化サポーターだけでは足りないと思っています。例えば、看護師さんがサポーターとして関わるとか、薬剤師さんがバックアップするような仕組みですね。私たちのシステム上では、そうしたモデルを実現できます。
向井:例えば、企業の健康経営をサポートする際に、WizWeさんが裏に入って、総務部や健康保険組合をサポートするようなケースもあるのでしょうか?
森谷:日本郵政コーポレートサービス様でそのモデルが実現しました。管理栄養士さんが私たちの仕組みを活用して、日本郵政グループの健康経営をサポートする形です。
向井:トヨタ・コニック・アルファ様とアルピコ交通様の取り組みもそうですが、交通事業者にとって、ドライバーは重要な社員ですし、その健康を支えることが健康経営の一環になります。ドライバーだけでなく、経営企画部の方々もデータを取り始めていて、ある職種だけでなく全体に広げられる構造にしていくためには、健康経営をサポートする組織と協力して浸透させるというアプローチがあるのかなと思っています。
森谷:裏側に入るモデルとしては、企業内の健康経営と特定保健指導が大きな柱です。あとはコンシューマー領域になりますが、保険の分野が大きいです。健康増進関連の保険の裏側に入るモデルで対象人数の桁が変わるため、非常に大きなインパクトがあります。
BtoCのLTV関連の場合も、大規模な人数を扱うことになりますが、どうやってLINE登録をしていただくかという点が課題ですね。法人の健康経営の場合は登録が可能ですが、コンシューマーがウェブで購買する場合、どうやってLINE登録を促すかですね。登録さえしてもらえれば、その後の展開には自信があるのですが。
向井:そこは多くの人が悩んでいるポイントですよね。
森谷:動線的にそこを解決できれば、LTVを一気に上げられると思っています。対面営業のある保険の場合は、その場でメリットをご説明とLINE登録の促しをしていただければたくさん登録が進みそうですが、ネット保険の場合、どう登録を促すかが課題ですね。
向井:保険の場合はある程度定期的に購入する商品なので、「この契約にはこれが必要です」といった形でどこかに仕掛けを入れておいて、誘導できるといいですよね。
森谷:それがうまくできるといいですね。
向井:ある程度のスパンがあって、継続的に関わりがあるモデルだといいですよね。1年契約して、もう1年継続する際に「この手続きをしてください」というフックを入れておけば、うまくいきそうな気がします。
森谷:そうですね。あとは自治体での健康診断ですね。健康診断を受けても、翌年には忘れてしまうことが多いですし、再検査の予約をしないというのも大きな問題です。ただ、LINEでつながっていれば、かなり解決できます。友達登録さえしてもらえれば、予約していない人を把握してフォローし、予約を促すことができます。予約していない人だけ自治体にお願いすれば、効率が格段に上がりますよ。予約を入れてしまえば、受診しに行くと思います。
向井:LINEで健康診断の結果を返すと言えば、一定の数は登録してもらえそうな気がします。ただ、自治体としてその部分にハードルがありそうですね。
企業に勤めていない方の健康診断の受診率が、とにかく低いと聞きます。それをどうにかして上げたいけれど、なかなか施策が打てていないようです。その点、何かフックがあれば、WizWeさんのサービスで対応できる部分があるかもしれませんね。
森谷:薬局など、ライフステージの中で必ず接点がある場所がいくつかあると思います。日常生活の中で必ず訪れる場所を活用できれば効果が期待できます。
向井:ローカルだと行くスーパーが限られているので、そこでキャンペーンを打って登録を働きかけるのも一つの方法かもしれませんね。
森谷:そうですね。それがうまくいくと、医療費を大幅に下げられる可能性があります。あとは、どうやって存在を知ってもらうかが課題ですね。すごく便利なはずなのですが、絶対に「何これ?」と思われがちなので。そこがうまくできれば、対象となる人数は膨大になりますね。
向井:トヨタ・コニック・アルファ様との取り組みでは、ドライバーという切り口から始めましたが、地域交通や物の移動を支えるという文脈で見ると、地域の人々の暮らしまで広げることができると感じています。そうなると、先ほどお話にあったようなフックポイントから、ステークホルダーが広がっていくので、今後、どうストーリーを描いていこうかという話も出てきています。
現在、地域の移動インフラは、当事者が安全・安心を守るために投資をしていますが、その業界は石油価格の高騰や戦争によるエネルギーコストの影響を受けやすく、投資が立ち行かなくなる可能性があります。そうなると、日本経済全体にダメージを与えかねないため、構造的に健全ではないと感じています。
一方で、供給側の安全性を守るだけでなく、地域の移動需要も掘り起こしていかなければなりません。少子高齢化が進む中で、需要と供給をセットで考え、供給側が効率的に需要を掘り起こすことで、無駄がなくなり、少ない需要でも事業が成り立つ余裕が生まれます。ここを構造的に掘っていくという展開を考えているところです。
そこで、先ほどのお話しのように、薬局や地域のプレーヤーが地域の健康に取り組みながら移動需要を掘り起こす側に回ると、地域のニーズを引っ張っていく拠点になると思います。WizWeさんが、こうした地域の健康や他の業種との連携で事業を展開することで、大きな構想が生まれる可能性を感じています。
将来的に鍵になるのは「コミュニティー」
森谷:今後の構想についてお伺いできますか?
内田:ずっと考えているのは、企業と顧客、つまりコンシューマーとの関係性を変えなければならないということです。いままでのマス型のコミュニケーションでは、企業は個人を正確には理解できていないと思います。今後パーソナルAIのように一人ひとりの考えを反映した仕組みが出てくると言われていますが、そんな世界にたどり着くには、いろいろなフックポイントに網をかけて、企業側が個人のことを積極的に知りにいくという仕組みが必要だと考えています。
その中で、より企業が個人のことを真剣に考え、個人のやりたいことに応えるためにコストを使う、という新しい関係性を築くことが重要だと思っています。地域社会と連動させながら、企業と個人の新しい商習慣を作り上げ、それに賛同する企業とともに、新しいマーケティングの仕組みを構築していきたいですね。
森谷:大変、共感します。力学構造としては、マーケティングの世界でよく使われる「マーケティングオートメーション」に近い部分がありますね。購買行動を促すために、配信される情報がすべてデータでトラックされ、出す情報や入れる情報によって成果が見えるという仕組みです。もちろん、双方向型であり、金銭的な転換が目的ではなく、ユーザーさんのためにプラスになることを考えるという違いはありますが、構造自体は非常に似ていると思います。どういう言葉で定義するかが大事ですね。
内田:将来的に鍵になるのは、やはり「コミュニティー」だと思っています。例えば、町内会のような小さなコミュニティーもあれば、学校や会社などの組織に属することで形成されるものもあります。個人が持っているさまざまなペルソナごとにコミュニティーが存在しているため、そうしたコミュニティーが、企業との接点を作るためのハブになってくるとなると、そのコミュニティーに対してWizWeさんが提供する習慣化のノウハウを、他のサービスを通じて展開していくことが、将来的な事業構造の一つになり得るのではないかと思っています。
森谷:私たちの考え方ととても近いです。人間は社会的動物なので、会話とコミュニティーがスタートポイントなんですよね。
内田:ぜひ、そこをやっていきたいですね。データを縦割りにして抱え込むという発想ではなく、分散型でさまざまなコミュニティーを活用していくという世の中になっていて、そうしたコミュニティーを企業側が支える、たとえば資金を提供して支援するといったことにもつながっていくと思います。現在、町内会が維持できなくなったり、高齢化でマンションの管理組合が機能しなくなったりという課題がありますが、これもコミュニティーの支援によって解決につながっていくと思います。
森谷さんがおっしゃった通り、人としての根幹にはコミュニティーがあり、それを維持し、活用していくことが大切です。それがデジタルの経済構造においてもうまく循環できる仕組みを作れると、一番良いかもしれませんね。
森谷:人間は住んでいる地域のコミュニティーを前提に生きてきましたが、その基盤が徐々に弱くなってきている時代です。新しい所属の形が必要になっているのだろうと感じています。そういった新しい形のコミュニティーに貢献できるような取り組みを進めていけたらと思います。
本日はありがとうございました。