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<スペシャル対談>会話が熱量の源泉に!会話AIで広がるコミュニケーション×習慣化×ヘルスケアが融合する世界(後編)

会話AIエージェントサービスのプラットフォームを開発する株式会社エキュメノポリスの代表取締役の松山 洋一 氏をお迎えし、開発中の会話AIや、言語の深さなどについて語り合った前編。

会話AIエージェントInteLLAのヘルスケア分野での可能性として「インタビュー」というキーワードが出てきましたが、後編はその「インタビュー」についてのお話から始まります。

前編同様、熱量の高い対談をお届けします!

・株式会社エキュメノポリス 代表取締役
 早稲田大学グリーン・コンピューティング・システム研究機構 知覚情報  システム研究所 客員主任研究員 (研究院 客員准教授)松山 洋一 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平


圧倒的なインタビュー体験をつくりたい

森谷:ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(JHeC)のファイナルまで残れたのですが、経産省様や厚労省様も習慣化領域に興味をお持ちのように感じました。健康増進の継続や重症化予防といった文脈でも、初期的なユーザー様について、精緻にヒアリングするという「インタビュー」はきっと入ってきますし、いろいろと話が関わりそうですね。

 松山:素晴らしい、それはいいですね。インタビューは本当に基本の基で、そういう意味では伝統的な対話システムなのですが、ただ本当に実用に耐えうるものにしようとすると非常に深いのです。例えば相手が言ったことに対してきちんと理解を示しながらフィードバックをするというように、あなたのことを分かっていますよ、聞いていますよということが大変重要ですよね。それによって、自発的に自分のことをより話そうという気にさせる。

 私はもともと人間同士あるいは人間ーAIのラポール現象の計算モデルの研究をしていたのですが、ラポール構築には巧みな会話戦略必要なわけですよね。例えば相手の話をどう聞くかというところにも社会的な知性が必要になってきます。聞き手の頷きひとつとっても、話し相手の言っていることを言語・非言語情報を通してリアルタイムに理解しなければ頷くタイミングがずれてしまいますから。そうところを組み合わせるとリズミカルで気持ち良い会話が生まれます。

 森谷:分かります。かつスタートアップで完全に濃縮しなくてはいけないですよね、完全に。インタビューは全ての起点になりますね。手厚くフォローしてコミットしていくような形式のものでも、初期的にインタビューがすごく重要で、大体がインタビューからスタートします。インタビューが全ての起点なっていくように思います。

 松山:そういう意味では今われわれはインタビューの世界を掘っています。徹底的に、もう圧倒的なインタビュー体験をつくってみたいと思って始めたのですが、これがすごく深くて、最初から深みにはまりました。ですが、これだけで解決できる社会課題がたくさんあるなと感じています。

 森谷:あとは他のエージェントと接続しながらやることでいけそうで、インタビューを徹底して極めると社会変革になると思います。私たちは習慣の領域なのですが、スタートポイントは目標設定とヒアリングの深掘りですから、本当にそう思いますね。

 松山:これは本当に面白い。英語事業はもちろん先もあるのですが、入り口としてのインタビューを非常に大事にしています。

森谷:たまたまヘレン・ケラーとサリバン先生に関するポッドキャストを聴きました。ヘレン・ケラーは一歳半の時に視力と聴力を失っているのですが、7歳ぐらいにサリバン先生のおかげで急に言語習得ができるようになりました。サリバン先生がしたことは、とにかく話してもらって、それを聞くということだそうです。話す相手が興味関心を持って聞くことが一番速いと。

ですから、聞き手の研究というのはすごいなと思いました。それに対する反応も含めてですね。そうすると、人間というのはどんどん伸びるのだと思いました。すごいですよね。

 松山:聞く力。そうですよね。対話の分野では傾聴対話といわれまして、これもまた古くて新しい問題です。私は博士課程で高齢者支援用に会話ロボットを作りました。十何年前ですが、きちんと聞いてあげるスキルというのが何より重要でした。良き聞き手をどうつくるか、計算モデルをどうつくるかというのは、見果てぬ夢ですよね。

 森谷:習慣化モデルで面白いのは、初期的な人間関係構築さえできると、その後のご連絡は大体届くというところです。カットされなくなってきます。初期に人間関係構築ができてないと基本カットされますね。

 松山:習慣化サービスの場合は、どうやってラポールを築くのですか?

 森谷:電話することが一番ですね。声には感情が乗ります。エモーショナルという点でいうと、やはり「音」や「声」は、メールやチャット的な文字より、しっかり意味を運びますね。感情を運ぶ時に「声」はすごく良い手段です。また、最初に電話すると、人が見てくれていると認識していただけます。あなたのために頑張りますよというような、その一言がすごく大きいです。あとはもうコミュニケーションです。問い掛けに対する返信ですね。

 松山:非常に面白いですね。

 森谷:一方通行だけで返信をしてくださらない方もいらっしゃいますが、そういった場合と、返信や電話接続をしている場合では、明らかに成果が違います。一回でも接続すると、4カ月後には全然違いますね。

 松山: AIだとぞんざいというか、機械だからまあいいかということで、エンゲージメントは一般的に低くなりやすいです。つまり人と話しているときと明らかにビヘイビアが違うということが現れますよね。

 しかし、相手がAIだということが分かっていても、ある一定の機能を兼ね備えると、会話相手として無意識に認められるようになってきたりします。例えば、われわれの実験ではInteLLAが「これでインタビューは終わりです」と言ったときにユーザーが自然にお辞儀をしてしまう現象がよく起こります。そういったことは、ある種エンゲージメントが進んでいる証拠だと思います。

 われわれのミッションとしてはAIをどう社会に「住まわせる」かが一つの課題です。世の役割を与えて信頼していただくことで、このAIがいないといけないと思ってもらえるか。人間でないことはもう明白なのですが、そこも技術屋としての見果てぬ夢ですね。それを個別のドメインの中で探究できるといいなと思っています。

 森谷:あり得ると思いますよね、不可欠の存在になっていくというのは。

 松山:長期的な関係構築というのは、英語事業を選んだもう一つの理由です。それが研究対象と言ってしまうと語弊があるのですが、ご存知のように学習は、長期的に何度も返って来て繰り返していただく必要があります。そのときに、人間関係がどうダイナミックに変わっていくのか、それがどういうふうに学習効果を持つのかということに非常に興味があるわけですが、それを本当に長期的かつ実証的に研究した事例はほとんどないと思います。

 森谷:面白いですね。

 松山:実社会でデータがきちんと回る、もちろんそれで価値を生むような仕組みをつくった上で、人間同士の社会的ダイナミクスを観察する場所をつくりたいと思っています。そういう意味で楽しみですよね、うまくいくかどうかはまだ分からないですが。

 ヘルスケアの場合はどういう問いを立てようかと思いながらお聞きしていました。 

コミュニティーと会話の重要性

森谷:最近、フレイルの案件が来ることがあるのですが、だいたい孤独という状態が良くなくて、話し相手がいるだけで、すごく大きな違いになるようです。コミュニケーション。「話す、聞く」という会話。「孤独」という状態にしない、そのために「会話」の果たす役割が、すごく大きいように思います。

 松山:そうですよね。私にもかつて、会話ロボットで高齢者支援施設で何かかできないかというお題が来たときに、素人ながら施設に訪問して、歌を歌ったり配膳したりして高齢者の方々と仲良くなっていったのですが、そこで気付いたのは、皆さんコミュニケーションをしに来ているということでした。もちろん医療サービスも備えているものの、全体としてはコミュニティーサービスとして運用されていました。

 終末期の方もたくさんいたのですが、何をしに来るのかというと、話をしに来きます。彼らにとっては血圧を測るなどの医療サービスは副次的なものであって、誰かと会話をして元気になって帰っていくという姿を目の当たりにしました。われわれのような若者との会話を本当に楽しんでいるように見えました。本当にこれは衝撃でしたね。人というのは死ぬそのときまで誰かと話をしたいと思っているのだと。このことが、私が会話の研究にのめり込むきっかけになりました。人は、生まれてから死ぬまで他者と会話を切望する存在なのである。これは絶対的なニーズだと思いました。

これをどう支援するのかと考えたときに、人同士の会話をどう取り持つか、あるいは人間同士の会話の価値をどう高めるか、それが大事だと思いました。ただチャットボットを高齢者に与えて最期まで話し相手になってもらうというのは、少し寂しい未来ですよね。そうではない、コミュニティーとAIを掛け合わせると価値が生まれるようなやり方で支援したいと私は思いました。ですからWizWeさんのサービスは素晴らしいと思っています。人間の集団と情報技術を使ってどう解決するかということだと私は理解しているのですが。

 森谷:リアルとバーチャルは対立概念ではないと思っています。私が考えているのは、郵便局などの近代社会で作られてきた、ある種国家的な社会インフラや、総合ショッピングセンターなどの社会インフラとのコラボレーションです。

例えば、人口が減っても郵便局の拠点は、急激には減らないでその場所にあるので、一つの地域のコミュニティー拠点になり得る可能性があると思います。ただ、皆さん理由がないと行かないので、そこにエンタメ的なコミュニティーを提案します。例えばVRセットを頭に付けると昭和の日本にバーチャルトリップして、その空間でいろいろな人と会話をする。それだけでテンションが上がって元気になっていくような気がします。バーチャル空間は青春時代の高度成長期。その空間上では自分の容姿は青春時代になって、そこで自由に動けるようなイメージですね。

 人が来てくださるならやり方はいろいろあります。そういう行動アクションをリアルでも起こせるなと思ったときに、バーチャルがあると肉体的に動けなくてもいろいろな体験ができますよね。すごく夢があるなと思っています。

 松山:それはいいですね。小学生も来てくれるかもしれないので世代間交流の場でもある、コミュニティーですよね。

 森谷:コミュニティーだと思いますね。

 松山:私も、かつてコミュニティーケアというコンセプトに非常に感銘を受けました。そうか、コミュニティーかと。ホスピスケアでもコミュニティーをつくることが大事だということで、なるほどと思いました。今の話にもつながりますよね。人が集まる、会話が生まれるということ自体が人間性の回復でもありますね。

森谷:現状、東京は集約されますが、地方では分散されてしまうので、場という点が失われていきます。そこを技術でカバーできそうだなというのはすごく重要な社会課題解決になりそうです。そこまでいけたらいいなと思っています。いろいろな方々を巻き込んでできたら面白そうですね。

 松山:大賛成です。コミュニティーは社会をどうつくるかだと思うので、技術だけ単体であるわけでは当然ないですから。やはりネクストソサエティーをどうデザインするか。コミュニティーをどうするかが本当に大事だなと思います。

 われわれの会社が今やりたいことは、産業ごとに大きく会話をフォーカスしているので、一対一の閉じた会話を極めることはもちろん第一なのですが、結果その業界なり産業の構造を見て、うまく生産性を上げたり、労働集約性の問題を解決したりというところです。

 例えば、今、文科省さんやデジタル庁さんと一緒に、英語教育でGIGAスクールの実証実験をしています。小学生、中学生、高校生が、タブレットを1人1台ずつ持っているのですが、人的リソースには限界があるので先生が困り果てているわけです。

 AIがそこにお助けとして行くことで、先生にはコーチングやメンタリングといった、もっと高度なことをしていただけると思っています。そうするとコミュニティーの形が変わって、恐らく質が上がるだろうと期待するわけです。そういうこともしたいと思っています。

 森谷:上位概念はコミュニティーや会話だと思いますね、人間性がそこにあるから。やり抜く内容というのは、実は上位概念があれば付随してくる気がします。コミュニティーや会話が活性化されていると自然にやると思いますので。私たちのスタンスは、基本そんなところがあります。

 割と人間関係やコミュニティーが重要で、そちら側が楽しくて自分の味方のような人たちであれば、内容については自然に皆さんやり抜きます。習慣化している人は、「頑張ります」と言わないですね。習慣化できていない人ほど「頑張ります」と言います。ですから、先に会話ありきで、自分が含まれている。会話コミュニティーというか、複数の人間が関わる会話相対のような。

 松山:分かります。それが一つのきっかけとして会話のネタになる。今、会社が一大ジムブームになっていまして、1人が始めると急にコミュニティーが現れて一気に始まりますよね。みんなが同じスニーカーを買い始めたりして、わいわい盛り上がっていると勝手に習慣化します。別に誰も頑張らなくてはとは思っていない感じで。

 森谷:近代という時代の延長で来て、町なども計画の下でつくられていますよね。それはそれで一定ワークしてきたのですが、人口が減り始めてそうではなくなってきているときに、新しい形がつくれるといいですよね。

 松山:それは本当に日本の課題だと思います。労働人口の減り方もとんでもないですからね。

 森谷:みんな話をしたいけれど話す余裕がないというのが。医療もそうですし、教育もそうですし。

 松山:今のモデルのままだと、絶対疲弊するばかりですよね。

 森谷:会話総量が減りますよね。それは、人間にプラスになることはあまりないと思っています。うまく溶け合うといいですよね。

 松山:確かに。人間に会話する暇をつくってあげないと。

 森谷:それは深いですね

 松山:相対としてそうだと思います、本当に。AIは脅威になる場合もありますので、それをうまく使っていくことが必要です。新しい認知機能を持った存在が代替することによって人間の時間を浮かせて、会話する時間を増やす。

 本当にヒューマニティーの時代だと思います。われわれ人間のアイデンティ・クライシスでもあるけれど、ビジネスもヒューマニティーをどう解決するかというところがコアになってくるのだと思いますね。AIの時代であるが故に、結局人間性の問題に帰ってきてしまう。もうニーズはそこにありますよね。

自然に会話をするAIは今すぐにでもできる

森谷:自然な会話ができるAIは、どれぐらいで出てきそうでしょうか?

 松山:それは状況を絞るだけだと思います。インタビューであれば、即時に自然な会話を実現するということがわれわれのミッションです。10年後にではなくて、ある限定した仕事の中では、かなり可能性の幅は広がっています。

 そういう意味では、AIに何のお手伝いできるのかを選ぶこと自体が重要です。あるコンテキストなり目標なりを定めて、この仕事をすればいいということを教えて、そこで自然にできればそれは「自然」なわけですよね。人間と同等なパフォーマンスを示せるということを測れますので、今すぐにでもできるだろうと思っています。

 森谷:相性がいいですね。習慣化サポートは長く行っていくのですが、濃縮ポイントが限られてきます。その中でどうしても人手が足りないというところが出てきますので、そういったところの会話が再構成されると、すごくレバレッジかかりそうな気がします。

 松山:所詮、自動化だとは思っていますので、これまでは、例えば画像を処理する、自然言語処理するなど、要素技術について言われてきました。今、それが連結してより高度な認知機能、すなわち会話機能がだんだん実現できるようになった時代にあって、インタビュー対話としてうまく限定できれば、正直本当に人間と変わらないパフォーマンスは出せると思います。

 というのは、このプロジェクトを立ち上げてもう3、4年たちますが、最初のうちは私自身が現場に行ってユーザスタディのインタビューを撮ったり、Zoomを使って5人のオペレーターで同時にインタビューを撮ったりと、かつては研究もとにかく労働集約的でした。自ら1日5人も10人もインタビューをすると、もう日が暮れてしまいます。

今や、InteLLAが勝手にデータを集めてきてくれます。寝ている間に、われわれが行ったインタビュー以上のものが何百何千と集まってくるわけです。本当に労働力を代替した、AIはすごいと実感しました。

 しかも、能力判定も人のレベルを超えてしまいました。ですから、あるインタビューに関しては代替できます。もちろんまだまだ直したいところはたくさんあるのですが、理論上それは十分できるということは実感としてありますね。

 森谷:今すぐできるというのはすごいですね。

 松山:できると思います。この職能ではどういうことがKPIとして求められていて、何に気を付けているのかというノウハウと、データをある程度いただければ、自動化の道は開けると思います。

 森谷:ヘルスケアでは具体的にありそうです。

 松山:そうですよね。何を最適化すればいいかだと思いますよ。十何年この英会話AIに携わってきましたが、勝ち筋というのは本当にいいタスクをどうつくるか、切り出すかでほぼ決まります。ですから、英会話能力判定は非常に分かりやすい問題です。ヘルスケアはいろいろ細分化されると思いますが、ある程度目標があるのであれは、結構いけると思いますね。

 森谷:あるヘルスケアのプロジェクトで、プロトコルをつくって人がインタビューをしているのですが、そこに少しお金がかかってしまうために、原価が高くなりボトルネックになっています。それがAIで代替できると大量にできますよね。

 松山:習慣化のプラットフォームやフレームワークは、まさにWizWeさんの強みだと思います。そこに技術として最適化するような余地があれば、それは喜んでうちのAIを派遣できると思います。

 森谷:ありがとうございます。私たちも習慣化の精度をもっと磨き上げていきます。

<スペシャル対談>会話が熱量の源泉に!会話AIで広がるコミュニケーション×習慣化×ヘルスケアが融合する世界(前編)はこちら