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<スペシャル対談>「エビデンスを当たり前に」RDサポートが描くヘルスケアの未来図

今回は、食、ヘルスケア、バイオ、医薬品、化粧品業界特化型の人材サービスを展開している、株式会社RDサポートの代表取締役CEO 大澤裕樹氏をお迎えし、対談を実施しました。

RDサポート様とはMBO直後からのご縁で、これまで多くのお力添えをいただいており、ウェルネスフード推進協会の運営など、ヘルスケア事業にも力を入れるビジネス展開やお取り組みは、私たちWizWeの習慣化事業とも深く共鳴する部分があります。

本対談では、大澤氏がRDサポートを創業された背景や、ヘルスケア分野の現状と課題、そしてこれからのビジョンについて伺いました。また、WizWeとの連携の可能性や、データ活用による新たな価値創出についても活発な意見交換が行われた対談となりました。

・株式会社RDサポート 代表取締役CEO
 株式会社アイメックRD 代表取締役社長
 株式会社Wish 代表取締役
   大澤 裕樹 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平

女性の研究職・技術職のキャリアにフォーカスし派遣事業で起業

森谷:RDサポート様との出会いのきっかけは、オリジネーターの長谷部さんのご紹介ですよね?

大澤氏:(以下、大澤)そうですね。さらに、弊社の代表取締役COOの大島がリクルート出身で、いろいろなつながりがあってのことだったと記憶しています。

森谷:ご縁ですね。実は、私たちがMBO(マネジメント・バイアウト)を検討した際、日本語事業を一緒にやっていたオリジネーターさんにも相談しました。結果的に、長谷部さんが一番ご支援くださいました。

大澤:以前は私たちも理系の海外人材の分野で、長谷部さんの外国専門人材リソースより、マッチングの協業をさせていただいていました。

森谷:当時の私たちは完全に教育事業のみでしたが、ヘルスケアや健康の領域が継続と相性がよく、サービスを拡大しているところです。

大澤:初めてお会いしたときから、そういうお話をされていましたね。

森谷:そうですね。ビジョンとしては早い段階でその方向に進むつもりでいました。

大澤:そこからすごい勢いで成長されていますよね。

森谷:いえいえ、沈みながらも頑張っています(笑)。大澤さんは、どのようなきっかけでRDサポートをスタートされたのですか?

大澤:もう随分昔の話で恐縮ですが、1998年のことです。千葉大学の大学院でM1だったときに、将来のビジョンが全く見えなくなってしまいました。父は研究者で、私がアカデミアの道に進むことを望んでいましたが、正直、私はサイエンスには全然向いていませんでした。専攻は食品経済学で、当時の就職先はJAや農林中金のような所が多かったのですが、それも自分には合わないと感じていましたし、研究者としての適性もなく、悩んでいたんです。

私はアメリカに1年滞在したり、浪人したりと少し変則的な経歴を歩んでいたため、同じ年の人たちはすでに就職して社会で活躍していました。園芸学部、いわゆる農学部で学んでいた関係で、周りには種苗会社や食品メーカーの技術職や研究職の就職先が多かったのですが、特に女性の技術職や研究職のキャリアにフォーカスすると、当時の食品産業はまだ制度が整っておらず、結婚や出産などのライフイベントが原因でキャリアが途切れることが多くありました。それが大変もったいないなと思っていました。

大澤:一方で、私も食品メーカーと共同研究をしていた関係で、企業側が人材不足に悩んでいるのも知っていたので、まさにこれはミスマッチだと気付きました。女性の研究職・技術職の皆さんがライフイベントのために退職し、ブランクがあって再就職を考えたときには自身の専門性を生かせない仕事に就くという現実がある中で、企業側は全然人材が足りていないと悩んでいる。そういうことならば、そこをうまくブリッジできないかと考えたんです。

ちょうどその頃、小泉政権が雇用の規制緩和を進めて、正社員だけでなく派遣社員の枠を広げ、研究者や技術者の派遣も可能になりました。そこで、企業の人材不足と女性研究者・技術者のキャリアを結びつけることを目的に、1998年にRDサポートを創業しました。まだ大学に通いながらでしたが、「キャリアの見通しが見えないなら起業してみよう」と思い立ちました。

身内から借金をして、社会に出たことも会社勤めの経験もない状態で、まったく手探りのスタートでした。当初は特に女性の研究職・技術職のキャリアにフォーカスし、それを派遣という形でブリッジしようと、一本足打法でこの事業に挑むことを決意したのが始まりです。

森谷:その後の社会の流れを見ると、大澤さんの先見の明が感じられますね。

大澤:何とか生き残ってきただけですよ。大手食品メーカーの研究所に常勤で派遣しているスタッフが180人ほどいますが、9割方女性ですね。当時は今のようにネットで情報が出てこなかったので、電話帳を使って営業先を探し、アポイントを取って直接セールスするというスタイルでした。

登録者集めも大変でした。今のように媒体に広告を出すという発想もなく、大学の先生や、父の知り合いの先生方を訪ねて回りました。卒業生の名簿をいただいて、1人ずつ電話して登録者を増やしていきました。正直、怪しいですよね。それを1人でやっていたのでめちゃくちゃでした。見積もりと請求書を間違えて送ってしまったこともありましたね。そもそも見積書と請求書の違いもよく分かっていなかったので。

森谷:なかなか大変な状況でしたね。

大澤:そこから少しずつ、研究者・技術者の派遣事業を確立していきました。当時は食品に特化していましたが、今では食品、医薬品、バイオ、ヘルスケアといった分野の研究者・技術者の派遣を手掛けています。さらに、正社員の採用支援事業とコロナ禍で始めた国内初の研究開発に特化したシェアリング事業という、三つの事業で現在の人材事業を展開しています。

ヘルスケア分野での「エビデンス」を当たり前にする

森谷:一般社団法人ウェルネスフード推進協会の取り組みは、どのような経緯で始められたのでしょうか?

大澤:ウェルネスフード推進協会は、2012年頃、代表理事の矢澤一良先生に私から提案したのがきっかけです。当時、健康食品についてのエビデンスや、効果的な取り入れ方の情報が全然足りていないため、その情報を社会に適切に発信する仕組みが必要だと感じていました。一企業として進めることも考えましたが、いろいろな企業が協力し合える任意団体の形がいいのではということになりました。

RDサポートは研究者や技術者の人材派遣をメインとしていますが、管理栄養士も多数登録しています。管理栄養士が、機能性表示食品や健康食品に関する情報を、適切に発信することが社会的に必要だと考え、「日本を健康にする!研究会」(一般社団法人ウェルネスフード推進協会の前身)を発足し、企業の健康関連商品や素材の情報を発信していくという活動からスタートしました。

森谷:展示会も開催されていますよね。

大澤:展示会については、「SPORTEC」という展示会を主催しているTSO Internationalの佐々木剛社長とお互いベンチャー同士、「何か一緒にできないか」と話していたんです。特に、機能性表示食品や健康食品のエビデンスをベースとした発信ができる展示会を作りたいと議論した結果、「ウェルネスフード」をコンセプトにした展示会にしようと「ウェルネスフードジャパン」を開催することになりました。

森谷:サイエンスを感じますね。エビデンスへのこだわりは、事業を進める中で出てきたのでしょうか?

大澤:そうですね。実は、実は、研究開発支援を行っている会社とご縁があって、M&Aでグループに迎え入れることができました(現社名:株式会社アイメックRD)。アイメックRDは医薬品寄りの企業でしたが、RDサポートは食品会社との取引が大きく、食品のエビデンスや、保険外のヘルスケア製品におけるエビデンス構築の重要性を強く感じていたんです。アイメックRDがグループに加わったことで、彼らの持つSMO(治験施設支援機関)と連携しながら、食品やヘルスケア分野向けに臨床研究を行える体制を整えることができました。アイメックRDのミッションステートメントは「エビデンスを当たり前の世界にする」です。

ヘルスケア分野でも、医薬品や医療機器ではエビデンスが当然のように求められていますが、食品や保険外の製品に関してはまだ当たり前ではないですからね。

森谷:エビデンスが整えば、未病予防や医療費の最適化に大きな影響を与えられるでしょうね。

大澤:その通りです。こうした取り組みが、WizWeさんのビジネスにも広がりをもたらすと思います。

森谷:そうですね。未病予防での効果や食の分野で数値改善が証明できてくると、大きく拡大できる可能性が出てきます。

大澤:直近の課題は、上市後に製品が消費者にどれだけプラスになっているかを、十分に追跡できていないことです。その必要性は大いに感じています。まさにWizWeさんの仕組みは、そのあたりの情報を蓄積して、メーカーや販売元の事業拡大につなげられるものですよね。

森谷:そうですね。私たちは、最終的には成果を出すところまで持っていくのが目標値ですが、どうしても商品自体に依存する部分があります。お客さまは継続しているけれど、期待した成果が出ないケース、例えば、血糖値が下がらない、体重が減らないなどですね。結局、エビデンスがないと効果を明確に示すことが難しいので、私たちもそこは注視しているところですね。エビデンスを取るときに、どう測定するかが非常に重要なポイントになってきます。

大澤:私たちは、上市後の有効性を追跡するために、医療機関に行かなくてもデータを収集できる方法として、Fitbitのようなウェアラブルデバイスや、自己採血や尿、唾液を郵送で回収してデータを取る方法などを活用しています。こういったデータを蓄積していくことで、さらなる分析を進めていけると考えています。

実際に上市後の製品について、6カ月から1年程度の少し長めのスパンで情報を取れるように取り組んでいます。安全性の情報も同時に収集できればということで、特に大手メーカーでは、そうしたデータ収集への意識が高まっていますね。

森谷:習慣化事業をやっていく中で、測定が最も重要な介入だと分かってきました。測定は、成果の内容に関わらず、継続する要因になります。

大澤:毎日体重計に乗っていると痩せやすいですし、歩数計をつけていると歩数が大きく減らない。そういうことですよね。

森谷:測定が継続のキーファクターになるのは間違いありません。

大澤:どうしたら簡便に測定できるかということですよね。食品メーカーの中でも、こうした研究へのモチベーションは非常に高まっています。例えば、サントリーが『腸note』アプリで腸の音を測って健康状態を判定する取り組みをしていますし、大塚製薬は『Vivoo』という、尿を使って栄養状態を測定できるサービスを展開しています。こうした取り組みは、WizWeさんとの連携でも価値を生むと思います。

森谷:そうですね。私たちのサービスは、LINEを通じて継続をサポートしていくので、LINEの「友達連携」が一つのキートリガーになります。サポーターを付けられるかどうかが成功のポイントなのですが、これを自然に付けられる仕組みをどう構築するかが課題です。例えば、オンライン購入者に「専属サポーターがいますのでLINEで友達登録してね」と案内しても、相手に「何者なの?」と思われてしまうこともあり、そこが一つの壁ですね。ユーザーさんが認知して受け入れてくれるかどうかが非常に重要です。

大澤:製品を購入したユーザーさんが、そこまでしっかりつながるのかということですね。

森谷:そうです。事業者さん側はサポーターを付けたいと考えていますが、ユーザーさんが受け入れてくれないと、私たちはサポートできません。ですから、サポーターの「付け方」を工夫することが重要なポイントになります。

また、継続したかどうかのファクトが必要になりますが、それを証明するデータが出るまでには時間がかかります。ただ、データが整えば、導入がどんどん進むモデルなので、エビデンスを取るまでが大きなハードルですね。

大澤:そこは一緒に取り組めると良いですね。食品の場合はどうやって消費者を募るのでしょうか?

森谷:大手食品メーカーの製品には会員コミュニティがある場合が多いので、会員向けにメルマガを送って、「登録してくださいね」と案内する形です。

大澤:そこからサポーター連携につなげるのが難しいのは、消費者にどう伝えるかという点ですよね?

森谷:そうですね。ユーザーさんからすると、「専属サポーターって何者?」という疑問を抱かれることがあるので、今は、例えば母数1000人に対して、特別キャンペーンとして「先着100名様」にというような形で案内して、試験的に進めているところです。

大澤:測定やデータ収集の仕組みと、食品メーカーの製品、さらにWizWeさんのサポート体制を3点セットで組み合わせると、かなり効果的なのではないでしょうか。

森谷:実際に食品メーカーさんからも、習慣化形成の研究を商品設計に生かしていきましょうというお話はあります。

大澤:面白いですよね。

森谷:プロダクトアウトした後も、LTVが長くなるような見せ方で持っていけないかというお話なので、時間がかかりますね。

大澤:食品の場合、比較的短いサイクルで開発しますし、その中にどう乗せていくかですね。

森谷:一方で医薬品は開発期間が長いですし、いろいろ違いますね。

大澤:本当に違いますよね。最近、機能性表示食品に関するネガティブな記事を目にしますが、消費者もメディアも医薬品と特定保健用食品や機能性表示食品を混同してしまっているのが問題です。

森谷:治療と未病予防の区別がもっと分かりやすくなると良いですね。

大澤:日本には「食薬区分」という明確な制度があるのですが、それを知らない人が多いです。

森谷:どうすればこの認知を広げられるのでしょうか。

大澤:医療制度を変えるしかないでしょうね。特に日本の国民皆保険制度は医療を平等に提供する素晴らしい仕組みですが、同時にセルフメディケーションの意識やモチベーションを上げにくい要因にもなっています。コロナ禍のような危機的状況では免疫を上げる重要性が強調されましたが、通常の状態では少し調子が悪いだけで病院に行ってしまうのが一般的です。アメリカなどでは民間保険が主流の国もあり、医療費が高いので、特に低所得層はなかなか病院に行けない現実があります。そうなると、予防に対する情報を自分で集めないといけない。そこの違いが大きいのではないでしょうか。

人材、R&D、ヘルスケアを軸に、唯一無二のビジネスを

森谷:今後、RDサポート様はどのような方向に進んでいきたいとお考えですか?

大澤:現在、グループ全体で約140人の規模ですが、人材、R&D、ヘルスケアという三つの軸で、唯一無二のビジネスを作り上げていくことが目標です。それによって、社会に対して価値をしっかりと刻んでいきたいと思っています。

森谷:素晴らしいですね。ヘルスケア分野では、大澤さんのお知り合いの方をたくさんご紹介いただいていますので、継続や習慣形成、臨床なども含めて、ぜひ協業やコラボレーションを進めてきたいと思っています。MBO直後からの応援、本当にありがとうございます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。