見出し画像

新株予約権型クラウドファンディングについて

前回の記事では、普通株式型のクラウドファンディング(以下普通株式ECF)の注意点をまとめましたが、普通株式型ECFの欠点を克服したのが新株予約権型ECFです。日本だとエメラダが新株予約権型ECFを提供しています。結論としては、新株予約権型ECFは普通株式型ECFよりも発行会社寄りのスキームであると言えます。

新株予約権とは、簡単に言うと株式そのものではなく、株式を一定の価格で買える権利と思っていただければよいかと思います。例えば、ある会社の株式を100円で買える権利を持っているとして、その株式の価値が110円に上がれば、新株予約権を行使し100円でその会社の株を買って110円で売ると10 円の利益を得ることができます。

エメラダはエメラダ型新株予約権という特殊な条件付きの新株予約権のスキームを構築しました。発行会社はエメラダ型新株予約権を投資家に販売し、投資家は資金を払い込むことによってエメラダ型新株予約権を取得します。10年以内に会社がIPOもしくはM&Aでエグジットされた場合、新株予約権を行使することで一定価額で株式を取得し、売却した価額との差額で利益を得ることが可能です。(エメラダ型新株予約権の詳細についてはこちら

普通株式ではなく、新株予約権でクラウドファンディングを行うことのメリットは下記が考えられます。

(1)発行会社にとって、株主総会などの株式事務に係るコストを抑えることができる

新株予約権者は株主ではないので、株主総会の議決権もなく、参加してもらう必要はありません。株主が多くなればなるほど株式事務コストの負担は重くなるので、現時点での株主を増やすことがない新株予約権スキームのメリットと言えます。

(2)次回のファイナンスの支障にならない

こちらも前回の記事のデメリットで挙げた部分ですが、株主数を無駄に増やさないので、次回のエクイティファイナンスの支障になりにくいと考えられます。ただし、発行済株式数に対してあまりに多い数(20%以上)を発行していると、希薄化を懸念してVCが出資しづらくなるので注意が必要です。

 一方で注意すべき点もあります。

(1)(エメラダ型の場合)投資家にとって、10年間の間にIPOかM&Aによりエグジットされないと、権利が消失し、損失を被る

新株予約権の設計にもよるのですが、エメラダ型の場合は権利行使するには制限があり、権利が消失すると実質全額が損失となってしまいます。一応10年経過する前の1ヶ月前から権利行使は可能という条件になっているようですが、エグジットするか分からない会社の株を取得するかどうかは、判断が分かれるところです。

(2)発行会社にとっては、役員や従業員へのストックオプションの枠を食ってしまう

ベンチャーは上場企業や大企業と比較して金銭的にも余裕がないケースが多く、優秀な社員に対して給料もそれほど多く出すことができない場合、給与の補填としてストックオプションを出すことがあります。しかし、ストックオプションは無尽蔵に出すことができるわけではなく、将来の上場を考慮すると、概ね発行済株式数の10〜15%くらいまでに抑える必要があります。新株予約権型ECFもこの枠に含まれるので、役員や従業員にインセンティブとして渡すストックオプションの数に制限がかかり、優秀な社員獲得の妨げになる恐れがあります。

(3)そもそも発行会社、投資家ともに、複雑で分かりにくいと思っているのでは?

エメラダ型は独自の設計がされており、うまく設計されていると思う一方で、なかなか完全に理解しきれている人はいないのではないかと思います。正直私も完全に理解しているとは言えず、なにか落とし穴があるかもしれないと不安になることがあります。

株式型クラウドファンディングはまだ出たばかりのサービスで、運営している会社もまだまだ少ないのですが、こうしたデメリットを解消した新たなスキームが出てくると、より盛り上がってくるのではないでしょうか。






いいなと思ったら応援しよう!