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【感想】のっぺらぼうと天宿りの牙卵

なぜか今、むしょうにファンタジー小説が読みたい。
ついでに魅力的なバディがいると尚よし。という気持ちでネットの海を漂った末に手に取った一冊。結果、大勝利!!! とこぶしを握った。

のっぺらぼうと天宿りの牙卵 影の王と祟りの子』著:里見透


「おまえは、おまえ以外のものにはなれない。
 だったらせめて、自分が自分であることを、怖がるな」

文庫本の帯に書かれていた、作中のこの一言。誰が誰にたいして言った言葉なんだろうな~と思いながら読み進めていったんですが、想像していた以上に重い台詞だった……。シリアスというよりも、登場人物たちが背負っているものを考えると、その背後にある感情の質量にやられるという意味で。

舞台は架空の国、萬景。
世界観的には和風ファンタジーなんですが、特定の時代を舞台にしているわけではなく、本当に『別世界』。それでいて『和』の要素が文章の間から自然と匂い立つような感覚があって、これはきっと作者様の相当な知識量に裏打ちされているからだろうなあ。

主な登場人物は2人。半神半人の法師・刻雨と、顔を失くしてしまった萬景の王・新玉。タイトルにもある『のっぺらぼう』は、この新玉の方。
とにかく刻雨と新玉のキャラクター、そして徐々に変化していく関係性が素晴らしくて、本を閉じてから「この2人の話、あと100冊ほど読みたいんだが……???」となってしまった。ストーリーの締めくくり方も、バディものの教科書に載せてほしいほど最高。そうそうそう、こういうのが見たいんだよ。

文庫本一冊で綺麗に完結しているんですが、とにかく物語の密度がすさまじい。特に刻雨と新玉の関係、その核心にあたる部分が明かされる流れが劇的で、これをこの短いページ数で? 何かの魔法か? と呆然としてしまった。

この衝撃をぜひ味わってほしいので、記事内での致命的なネタバレは避けるんですが、それはそれとして新玉の良さをちょっとだけ語らせてほしい。

新玉は萬景の若き王であり、優秀な為政者。しかしとある事件により、刻雨と出会ったときには、すでに顔のない異形の鬼になってしまっています。
普通ならイケメン枠になるだろうバディの片割れが、のっぺらぼうって新しいな!! というのが、最初に興味を惹かれたきっかけでした。蓋を開けてみると、こののっぺらぼう、顔がなくても魂がイケメン。

国の実情を知るため、身分を隠して市井の人々に交わり、周りから「新さん」と慕われている――というエピソードだけで、なんとなくその愛されぶりが伝わるかと思います。ちょっとべらんめえ口調で、国を盛り立てる地頭のよさがあって、情に篤くて少しだけ脆そうなところが放っておけない気持ちにさせて……と際限がなくなりそうなので、この辺でやめておこう。

そもそも新玉は、なぜ『顔』を失ったのか? その理由を知ったとき、思わず新玉を抱き締めたくなりました。たとえ死後であっても、刻雨に出会えてよかったね、と思わずにいられない。

『和風ファンタジー』『バディもの』が好きな人には間違いなくおすすめできるし、そういうフェチは特にない人でも、過酷な世界でそれでも前に進む勇気を貰えると思う。続編、あと100冊出てくれないかな。