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#1『キング』昭和三年六月号から読み解く大正末期・昭和初期ごろの語彙


中野ブロードウェイで2,200円で購入した。表紙はわけわからんが少年の顔が浮かび上がっている。かわいい
最初に開いた見開き2ページ。私より70歳以上も年上の本


近代日本語が成熟したであろう大正末期・昭和期に大日本雄弁会講談社より発刊されていた大衆雑誌『キング』の昭和三年(1928年)六月号を以前手に入れた。春休みは暇なのでせっかくだからこれを検査し、主に現代使われている名詞、形容詞、連語、熟語と近代のそれらを比較して違いを楽しんでみようと思う。近代語はただ単に旧字体にしたものではないのが特徴なので漢字の異体字についても検査する。


●基本事項(ここは読まなくてもいいかも)


・基本的に文法は近現代的な熟語に付随して古典文法に則った動詞化とその活用が行われる。

・漢字の送り仮名が少なく、漢字に対し多く読みがある場合が多い。

※現代語に相当するものは逐語訳ではなくニュアンス的に現代語に当てはまると私が考えるもの。ただの逐語訳だと実際に現代の実際の口語表現、文語表現ともにそぐわないと感じたため。なお必要なものは逐語訳を近代語の方に乗せる
※頻出かつダブるものは最初に取り上げ、それ以降は省略する
※表現を取り上げる際は「このフレーズ、近代だとどう言うのかな?」という疑問に答えるため先に現代語を載せ、後ろに近代語を載せる
※表現を取り上げる際は現代語、近代語ともに現代の漢字を用い、カッコつきで異体字verを載せる。仮名遣いは現代は現代仮名遣い、近代は歴史的仮名遣いを用いる
※異体字を取り上げる際は先に現代語のちに異体字を載せる
※表現、異体字ともに現代でも使うであろうものでも普及していないものは注目して取り扱う

・凡例    △異体字  ・表現  ★そのページを検査したときに感じたこと


●広告欄 p1「コンサイス英和辞典」の広告 大興社


△辞書・辞典→辭書・辭典
△選択→選擇(IMEに存在しないので文字で記すが選は己が二つに点が二つのしんにょう)
△大冊→大册
△特価→特價
△送→(IMEに存在しない つくりのうえの二つの点が八の字になっており、点が二つのしんにょう)
△体裁→體裁
△欠点→缼点
△単語→單語
△不適当→不適當
△学→學(最頻出、いまでも使わなくはない異体字)
△会話→會話
△独習→獨習(IMEにないが習は羽の部分がわずかに異なる「翆」これと同じ
△数→數
△実用→實用
△記号→記號
△訳語→譯語
△教→敎
△豊富→豐富
△余→餘
△携帯→携帶
△円→圓
△区→區
・迷うことなし、迷うことはありません→迷ふ勿れ[迷うな(禁止)] ※基本的に当時の広告の言葉使いは丁寧語等の敬語はなく、強い呼びかけや禁止などが多くみられるようだ。
・ポケット→ポケツト
・ページ→頁(これは今でもあるが、当時はより主流であったと考えられる)
・大ボリューム→大冊(大册)
・整っていてきれい、かっこいい→体裁優美(體裁優美)
・頼りになる友人、敬うべき友人、役に立つ参考書→師友
・低価格、廉価、安価→低廉
・声が多い、意見が多い→声が高い(聲が高い)
・簡単、明確、わかりやすい→簡明(いまでも使わなくはないが硬すぎるか)
・そうして→然して
・良い先生、良い参考書→良師
・すぐに発送する、すぐに送る→急送
・短期集中、早期習熟→速成
・独学→独習(獨習)
・とても、非常に、めちゃくちゃ→頗る
・ 〜数ページ→〜余ページ(〜餘頁)
・しかも→然も
・持ち運び便利→携帯至便(携帶至便)
★いまでは一切気にしないであろう紙質についてやけに強調され、美本と謳われている。このことから当時はまだ前近代と地続きであり、紙質がよいのが当たり前ではなかったことが読み取れる。



●広告欄 p2 中学の通信講座「速成中學講義」の広告 帝国中学会


△知恵→知慧
△歯→齒
△磨→(IMEに存在しないが、二つの木の右側が朮となっている 「縻」これと同じ)
△読む→讀む
△覚える→覺える
△情→(IMEに存在しないが、つくりの月が円となっている 「淸」これと同じ)
△従事→從事
△透写→透寫
・君たち、あなたたち→諸君
・しながら→して居ながら
・一年→一ヶ年
・勉強→勉强
・校長先生の遠藤先生→校長先生遠藤博士
・先生方、先生たち→諸先生
・かたがた→かた〴〵(2語以上の語に現代ではあまり使わない踊り字が使われている 縦書きで二語を合わせると「く」の字になる踊り字)     
・されています(尊敬表現)→されてあります
・少額、少なく、安価→僅少
・送料無料→無代送呈
・ただいま、現在→目下
・このチャンスを逃さず、この機会を逃さないで→この好期を逸せず
・はやく、今すぐ→早刻
・まったく新しい、目新しい→新式奇抜
・短期間→短日月(たんじつげつ)
★「知恵と歯は毎日磨け」という広告欄の上の標語だが、わざわざ新標語とカッコつきで示されていてこの会社は語呂の良い新標語が気に入っているとみられる。

★『「キング」で見た。見本送れと葉書に書いて...無代送呈す』というフレーズが広告欄で目立つ。このことからキングという雑誌が広告媒体としての機能が現代と同じであり、完成されていることがわかる。


●終わりに

実験的に始めてみたがいろいろ学びはありそう。春休みの自由研究としてもう数ページはやってみようかと思う。飽きたらやめるかも。

おまけで気に入った語彙を日常生活で使ってみるとどうなるか考えてみる

・「おお、この漫画かなり大册だな」
・「次のiPhoneのモデルめっちゃ體裁優美じゃね?」
・「このスマホケースは店で買うよりAmazonで買ったほうが頗る低廉だ」
・「iPhoneSEのいいところって何?」「携帶至便なところかなぁ」
・「Switchの次期モデルっていつでるの?」「あと一ヶ年くらい?」
・「あの新入生の子どんな子だった?」「新式奇抜だった」


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