#5『キング』昭和三年六月号から読み解く大正末期・昭和初期ごろの語彙
今回も書き溜めの消化をする。だいぶ前例が埋まってきて、ひとつのページでたくさん取り上げることは少なくなってきた。
●基本事項
・基本的に文法は近現代的な熟語に付随して古典文法に則った動詞化とその活用が行われる。
・漢字の送り仮名が少なく、漢字に対し多く読みがある場合が多い。
※現代語に相当するものは逐語訳ではなくニュアンス的に現代語に当てはまると私が考えるもの。ただの逐語訳だと実際に現代の実際の口語表現、文語表現ともにそぐわないと感じたため。なお必要なものは逐語訳を近代語の方に乗せる
※頻出かつダブるものは最初に取り上げ、それ以降は省略する
※表現を取り上げる際は「このフレーズ、近代だとどう言うのかな?」という疑問に答えるため先に現代語を載せ、後ろに近代語を載せる
※表現を取り上げる際は現代語、近代語ともに現代の漢字を用い、カッコつきで異体字verを載せる。仮名遣いは現代は現代仮名遣い、近代は歴史的仮名遣いを用いる
※異体字を取り上げる際は先に現代語のちに異体字を載せる
※表現、異体字ともに現代でも使うであろうものでも普及していないものは注目して取り扱う
※動詞・形容詞を取り上げる際は終止形に適宜直してから表記する(基準は私が気持ち悪いと思うかそうでないか)
※ここまで厳格に書いてるように見えるが実際は適当に書いている。わずかな違いしかない異体字に関しては取り扱わないこともある。
・凡例 △異体字 ・表現 ★そのページを検査したときの感想、補足
●広告欄 pp13~14 演説集の広告
・見識→識見
★政治家の演説を本にしたもののシリーズの広告。教科書でも見るような有名人が並んでいる。
●広告欄 pp15~16 『講談倶楽部』の広告
△雑誌→雜誌(なぜか今まで出てきていなかった)
△顔触れ→顏觸れ(地味に顔の字も異なる)
△泣く→哭く
これは異体字だが正確には「大声で泣く」という意味が付加されている
△侠→俠
△絶頂→絕頂
△剣→劍
△関→關
△衛→衞(違いが分かりにくい)
△特集→特輯
△沢山→澤山
よくテレビのニュースとかで簡略化される漢字だが、人名ではなく「たくさん」の場合、この「澤」になった瞬間読めなくなる。「さわやま」と読んでしまう。
・「見よ!此の顔触れ!此の傑作!実に痛快!誰が読んでも大熱狂!」
テンプレートとして使えそう。例にもれず誇大広告
・てんこ盛り、いっぱい、たくさん→山の如し
・自由にはねまわる、悪がはびこる→跳梁
●広告欄 p17 「音楽講義録」の広告
△証拠→證據
これくずし字にされたら絶対に一発では読めない自信がある。でも文脈的には読めそう
△団→圑
・いながら→居乍ら
・日本一、国内随一→本邦無比
・哀憐悲婉
意味が現存していない熟語。二つの熟語を重ねただけで四字熟語ではないようだが、どうしても「悲婉」の意味が出てこない。普通に哀愁漂う的な意味だと理解はできるが。
★これも通信教育(通信教授)シリーズだが今後も増えていくと思う。現在はインターネットにこういうたぐいのものがはびこっているが当時では雑誌広告にあふれていた模様。昔も今も儲かっていたのだろうか。この種の商売は自分の知識・技術の切り売りだから楽だし、必ず需要のある層がいることが分かっているから割拠するのだろう。
●広告欄 p18 「ウテナ」の広告
△効→效
△権→權
△喜ぶ→歡ぶ
・という少女がいます→といふ処女があります
・~し始める→~し初める(しそめる)
・(皮膚の)炎症、異変→故障
・筆頭、先駆者、有名人→大家
・国内→内地
★本広告の商品名および会社名の「ウテナ」だが、なんと現在でも存在している!しかもこの「キング」昭和三年(1928)の前年の昭和二年に創業したばかりの会社だった!現在(令和五年)でもかわらず化粧水や化粧品の製造販売をしていて、老舗会社となっている模様。Amazonでも販売していて、気になったら買うのもいいかもしれない。
ところで、詳しくは知らないが化粧品メーカーって近代に創業されてから長く続き、現代でも活発に経営しているイメージがある。ほとんどは資生堂、コーセー、花王とかのイメージによるバイアスだと思うけど。化学分野の製品だから付け焼刃で新規参入できないのもあるだろうけど、今の大手化粧品メーカーは近代の創業当初から時代に合わせて変化し続けているから今も発展しているのかも。
●終わりに
ウテナが現在も残っていることが印象的であった。今後も現在に残る近代創業の会社の広告がみられることを期待している。
おまけで気に入った語彙を日常生活で使ってみるとどうなるか考えてみる
・「俺最近、居乍ら歌の練習してんだよね」
・「うっわ、この授業気づいたらサボり魔が跳梁してんじゃん」
・「花粉の季節で鼻が故障した」
・「春休みだし、バイトでもし初めようかな」
※近代語の私なりの遊び方:普通の会話の中にバチボコに硬くて渋い近代の熟語を混ぜ入れてジェットコースター並みの落差をたしなむ。