「会計年度任用職員」の地域おこし協力隊がヤバい
会計年度任用職員という闇
地域おこし協力隊の募集・採用形態は大きく分けて2種類ある。
会計年度任用職員型と委託型(業務委託)だ。
なお雇用形態については、以下の記事がわかりやすく紹介している。
筆者調べでは、会計年度任用職員型を利用する自治体のほうが多く、その募集内容は「特産品開発」「ICT教育支援」「介護職員」など多岐にわたる。
委託型では、農業部門やフリーミッションでの募集が目立った。
筆者は会計年度任用職員として約3年、役所の中に席を置いていたので、まずはこの「会計年度任用職員」という制度自体について話をしておく。
前提として現在、地方の役所でも人手不足の現状がある。かつては安定した職業として人気だった公務員だが、地方では多くの自治体が職員不足に陥り、外部人材の活用に奔走している。
そして「会計年度任用職員」というのは「会計年度」、つまり1年単位で採用される契約社員のような位置づけ。
不安定な雇用形態や収入の低さから「官製ワーキングプア」との批判もあり、給与は別記事に掲載した通り、薄給である。
また会計年度任用職員の任用にあたってはおおむね3年ごとに再公募が行われ、働き続けたいという希望に反して雇止めとなるケースもある。
役所は「平等な取り扱いのため」としているが、実態は都合の悪い人を切るための免罪符だ。
そのため再公募の際には、役所がずっと働いてほしい人を再任用するために「出来レース」の採用試験を行うことも横行している。
ここで役所にとって都合がよいのが、「地域おこし協力隊」である。
協力隊は役場職員による「品定め」
ご存じの通り地域おこし協力隊の任期は3年で、会計年度任用職員の一般的な更新ペースと同一である。
もし優秀な隊員であればそのまま3年後に役所へ引き抜き、使えなければそのままサヨナラすればよい。そこに派遣切りのようなネガティブさはなく「円満退任」を演出できる。
人件費も国から交付金が支給されるため、自治体の財政的な負担もない。
また導入にあたっては会計年度任用職員の職務規定を流用することで、新たに給与体系や関連する条例等を作らずに採用できるため、導入・管理がしやすいというメリットがある。
つまり国の金で人員補填をしつつ外部人材の品定めをするというのが、会計年度任用職員型の地域おこし協力隊の本旨なのだ。
役人と協力隊の価値観
まず協力隊に応募してきた人の履歴書は役所内で回覧される。
当然に名前はWEB検索されるし、住所をGoogleMapに入れストリートビューで家を確認するまでは基本だ。
その際「こんな立派なマンションに住んでるのに何でこんな町にわざわざ来るんだろう」とか「おじさんが来ても役に立たない」など、聞くに堪えない下世話な声が聞こえてきたこともある。
筆者がこれまで接してきた協力隊員は、比較的高学歴だったり大都市の民間企業で一定のポジションを経験したような人が多かった。
そしてなにより、いい意味でも悪い意味でも「変わり者」が多い。
一方、役所の職員は良くも悪くも「普通の人」だ。
こうした地方の役人と協力隊員はマインドセットが根底から異なり、摩擦によって互いにストレスを抱えてきた。
現に筆者の協力隊仲間は担当職員を無能扱いしていたし、担当職員は隊員を「面倒な奴」扱いしていた。
嫌気がさした隊員が辞めていった後も、新しい隊員に同じ対応をするため、遅かれ早かれまちおこしへの気持ちは離れていく。
なぜ不幸な連鎖は続くのか。それは役所から見た協力隊の導入メリットは「採用できた時点」で果たしてしまっているからである。
筆者のいた部署の業務では、地域との関わりがほとんどなく、役所に閉じ込めて職員の小間使いにされるか飼い殺しにされるというのが常態化していた。
結果的に外部との交流は断たれ、人脈形成や起業のためのチャンス、退任後の選択肢は少なくなっていく。
また、国から200万円支給される活動費もすべて役所が振り分け、隊員が住む住居の家賃のほかは、職員も使う公用車のリースやガソリン代など、ほとんどが役所のために使用された。
そして3年目には「会計年度任用職員で残って」と強く要望されたが、町での仕事にやりがいを感じることができなかったうえ、協力隊や会計年度職員に対する職員の姿勢に不信感を抱いていたため固辞し、筆者は別の自治体の民間企業へ就職することを決めた。
また別の課題として、原則副業禁止の公務員として毎日決められた時間に勤務をしながら、退任後すぐの起業に向けて準備するのは非常に難しい。
筆者は「委託型」について見識を有していないが、少なくとも任用地での起業を検討している人に「会計年度任用職員型」はおすすめできない。
協力隊は役所のための制度ではない
地域活性化策として協力隊の増員を掲げる自治体首長などが多い。
また政府や都道府県などが、協力隊員の人数について数値目標を掲げているケースも散見される。しかし数を増やすことが重要なのではない。
協力隊制度は、東京一極集中是正や地方創生、過疎・人口減少対策などの文脈で、いわば便利に使われてきた。 それは「批判できる人がいない」からだ。
協力隊経費は国からの特別交付税のため、地方自治体は一切腹が痛まない。そのため地方議会でも予算審議で問題になることは少ない。
また、地域住民や議員も隊員の人件費そのものに「無駄づかいだ」と言うことは憚られるし、「都会の人なんかよこすな」と表立って主張するわけにもいかない。
顕在化する課題も、活動費の使い方や住民との摩擦といった枝葉の部分が多く、制度そのものへの批判は非常に少ないように思う。
「なんとなくいい制度」と受け止められている協力隊制度だが、協力隊を経験した数少ない人間だからこそ、この制度の歪みを批判していかなければならないと考えている。
そして自治体ごとの対応の差は、協力隊の退任後定住率にも表れている。
詳しくはこの記事を参照されたい。
一方で、個別の地域課題に正面から向き合い、その解決のために動いている担当職員や、現役の協力隊員には心から敬意を表している。
地域おこし協力隊制度は「地域のため」の制度であり、「役所のため」では決してない。地域の声を丁寧に聞き、3年後の地域を見据えた募集・採用をするべきだ。
「役所のため」に書かれた協力隊募集の特徴
求めることが少ない募集を見ると「これなら私にもできそう」と応募してしまいそうだが、こうした募集にやりがいはないと思ったほうがいい。
協力隊の道を選ぶのであれば「あなたのこの技術がうちの町に必要です!」と言ってくれる自治体を探してほしい。
人生の中の3年間を、やる気のない自治体で無駄にしてほしくはない。
また役所にも人の3年間を奪うという覚悟をもって「前と同じ要項で」「とにかく切れ目なく募集・採用!」といった、目的を見失った協力隊募集をすることがないよう強く求めたい。