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私と博士課程と論文作法
レポートと論文の違い
私が博士後期課程に進学した際、指導教員からMBA出身の学生は論文の書き方を知らない方が多いと言われたことがあります。MRをされている方であれば、日々医学論文を読む機会が多いので、論文構成がどのようになっているのかはわかると思います。MBAでも修士課程(博士前期課程)の学生であれば、修士論文を執筆するため、論文のお作法を習得しているはずですが、専門職学位課程出身の学生は、修士論文を執筆することがなく学位取得した場合、論文を作成した経験がないかもしれません。
MBAに在籍していれば、各講義の成績評価の際、レポートを求められることは多々あるかと思います。例えば、「日本企業がイノベーションを起こすためにどんな課題があるのか」や「日本企業はどのようにしたらラグジュアリーブランドを生むことができるのか」など、外部から与えられたお題に対して自分の考えを論理立てて主張することになります。もちろん、自身の主張を行うために、データなどで裏付けを行うことはいうまでもありません。また、レポートについては学術的新規性の必要ありません。
一方、論文は、先行研究をもとに、自分が設定した研究に対する問い(リサーチクエスチョン)があり、独創性や新規性を持ったオリジナリティーが必要となります。そして、何より、その問いが社会に還元することができる、社会的意義が求められます。
レポートも章立てを行う必要がありますが、論文では一般的に下記のような章立てを行う必要があります。
Introduction(はじめに) 研究に対する問いと何が問題で何が明らかになっていないか、先行研究を引用しながらこの研究では何を明らかにするのかを定義する。
Method(研究方法) 人を対象とする研究であれば、倫理審査を受けているなどを記載し、研究を行った場所や研究対象者の属性と除外者を定義する。データセットを用いた場合はどんなデータセットを用いたのかを記載する。
Analysis(解析方法)どんな解析ツール(エクセルやSPSSなど)を使って分析を行ったか、また有意水準を定義する。
Result(研究結果) 解析したらどんな研究結果が得られたのかを記載する。ここでは、自己の主張をいれないことが重要。
Discussion(考察) 先行研究と同様な結果が得られたのか、あるいは違った結果が得られたのかを述べる。研究結果から、どんな考察を加えることができるのか、自己主張を行う場である。しかし、得られた研究結果から過大解釈を行うと、誤った解釈となり、研究結果から考察する域を逸脱することになる。
Conclusion(まとめ) 今回行った研究に対するまとめを書く。あくまでこの研究では定義した範囲での結果であること、本研究のリミテーションについて触れる。
Acknowledgments(謝辞) 人を対象とする研究であれば、研究参加者に対するお礼や資金提供があれば、資金提供者に対するお礼を述べる
Authors Contribution Statement(著者の研究に対する役割) 共著の場合、この研究でどこに貢献したのかを記載する。共著者全員が論文を読んで同意している旨を記載する。
Conflict of Interest(利益相反) 開示すべき利益相反があれば、記載する。
References(参考文献) 論文中に引用した論文を記載
リサーチクエスチョンの重要性
リサーチクエスチョンは論文を執筆する上で、とても重要です。なぜなら、リサーチクエスチョンは研究に対する問いであり、研究者はこのリサーチクエスチョンに対して研究を進めていきますので、ここが質の悪いリサーチクエスチョンですと研究に行き詰まる可能性があります。
私はこのリサーチクエスチョンを設定する上で、Whyをよく使っていました。すなわち、「なぜ〜は〜なのか」を多用していました。ここで重要なのは、広すぎるリサーチクエスチョンは不適切であるとことです。
こんな私のところにもこういう研究テーマでここを明らかにしたいのですが、どうでしょうかという問い合わせを頂きます。社会的意義があり、もしそれが明らかになるのであれば、社会に還元できる素晴らしい研究であるのですが、あまりにも壮大で果たして在学中に結果が出せるのか?という疑問を持つことが多いです。また、仮に結果が出てもこの結果のみで、あなたが立てた問いに答えたことになるのか、つまり、問いに対する答えが不十分であるということに陥りかねません。言い方が悪いかもしれませんが、筋が悪いと言わざるを得ないところがあります。
MBAの学生が博士課程に進学する上では、必ず、入試の面接で「在学中に何をどこまで明らかにしたいのか」、「あなたの研究に対する問いは3年で終えられる研究なのか」は必ず聞かれます。入試でも研究を進める上でもリサーチクエスチョンはとても重要ですので次号ではリサーチクエスチョンについて書きたいと思います。