
【ファジサポ日誌】12.大量得点はなぜ生まれたのか~第20節vsツエーゲン金沢~
こんにちは!
今週はもう少し早いタイミングでレビューを更新するチャンスもあったのですが、ファジのゲームの生観戦で1試合5得点という経験は初めてで、Cスタでは非常に興奮してしまいました。興奮冷めやらぬ感情のままで書いてしまいますと、何を書いているのか自分でも分からなくなってしまいますので、あえて一呼吸置くことにしました。
それにしても1試合5得点は、2016年昇格を争っていた年のaway岐阜戦以来、ファジのJリーグ参戦史上2回目。前半だけでの5得点は初の出来事でした。
このように記録的にも印象に残る試合になりましたが、ファジはこの試合まで、天皇杯を含めて6試合1得点と極端な得点力不足に陥ってましたので、突然の大量得点勝利が唐突に映ったことも事実です。
そうしたことも踏まえまして、今回は金沢戦において大量得点が生まれた理由を整理してみたいと思います。
以下、目次です。
■ 試合結果
■ 基本フォーメーション
■ 大量得点が生まれた理由(前半レビュー)
■ 後半レビュー
■ 次節山口戦に向けて
■試合結果
岡山が前半の5得点を守り5-1で勝ちました。
岡山は立ち上がりから攻勢をかけ、金沢を圧倒。CKから26MF本山遥のプロ初ゴール、5DF柳育崇のゴールで先行します。
その後も岡山は攻勢を続けますが、7FWチアゴ・アウベスのPKは失敗に終わり、いったん金沢に流れが傾きます。その流れから、アタッキングサード中央でのパス交換を経て20FW林誠道の見事なターンからのゴールで金沢が1点差に迫ります。
しかし、岡山は14MF田中雄大のプレスからショートカウンターを発動、最後は8MFステファン・ムークが3点目を決めます。その後も9ハン・イグォンの豪快なゴール、7チアゴの今度は慎重なPKにより追加点を得ました。
後半開始から金沢は一気に4人を交代、22MF力安祥伍、26MF須藤直輝を中心にスピードある攻撃をみせますが、岡山が安定した守備でシャットアウト、途中退場者を出した金沢から追加点は奪えませんでしたが、落ち着いた試合運びを保ったまま勝利しました。
■ 基本フォーメーション

1.岡山について
この試合から15FWミッチェル・デュークが、オーストラリア代表としてカタールW杯アジア予選・大陸間プレーオフに臨むため離脱しています。
他の4人の外国人選手は全員スタメン起用し、ポジションのみをみるなら、15デュークに代わって7チアゴがワントップに入った格好になります。
現状でベストの布陣といえます。
守備時には、14田中、9ハンの両WGが下がり4-4-1-1、または4-4-2のようなブロックを形成、この点もこれまでと同様といえます。
サブに41DF徳元悠平が復帰、水曜日の天皇杯組が中心のサブですが、17MF関戸健二は今季リーグ戦初のメンバー入りとなりました。
2.金沢について
金沢はこの試合まで、直近の公式戦(天皇杯含む)を3勝1分と好調でした。その要因は中盤のフォーメーションの変更にあったと思われます。
第16節の仙台戦を1-4で大敗後、次の山形戦から中盤の構成をボックスからダイヤモンド型に変更。特に攻撃時にこの形に可変していました。
柳下監督はこの数試合の各インタビューで攻守における距離感を強調、中盤でボールを奪ってからピッチ中央を使ったカウンターはかなり機能している印象でした。
この岡山戦に関していえば、8MF藤村慶太、18MF小野原和哉のダブルボランチのような時間が長く、必ずしもダイヤモンド型とはいえませんでしたが、これは岡山がダブルボランチで臨むことから、8藤村のアンカー脇を使われたくないとの意図があったのかもしれません。
■ 大量得点が生まれた理由(前半レビュー)
得点が前半に集中したことから、前半をレビューしながら、その理由を整理したいと思います。
1.岡山覚悟のスタメンと立ち上がり
私はスタメンの構成に軽く驚きを感じました。
外国人選手のうち、攻撃の3人全員をスタメン起用するとは思っていなかったのです。この日のサブには攻撃的な選手として、20FW川本梨誉や10MF宮崎幾笑が入っていましたが、期待はしているものの、これまでの実績から後半勝負のジョーカーとしては不足に感じるのも正直なところです。
特に最近は試合巧者ぶりが目立っていた金沢が相手とあって、7チアゴ、8ムーク、9ハンのうち1人は後半勝負になった際のジョーカーとして、サブに入れてくるものと予想していました。
このスタメンには、試合の最初から最大出力の攻撃で臨むという木山監督からの強いメッセージが込められていたものと私は感じました。
早い段階で得点を奪い切り、試合を優位に進めるという強い覚悟が伝わってきたのです。
大黒柱15デュークの代表参加による離脱、星(勝点)勘定の問題、得点力不足、様々な要因が指揮官の強い覚悟に繋がったと推測しますが、その中でもこの試合の3日前に行われた天皇杯栃木戦の敗戦は、指揮官のみならず選手においてもこの試合への大きな発奮材料になったようです。
そうした点も含めまして、天皇杯については前回の記事で採り上げましたので、宜しければご覧ください。
サポーター目線で観ましても不甲斐ない試合でしたが、その後の各種記事を読んでいますと、この試合をきっかけに監督、選手間での活発な意見交換が行われたようです。
今一度、今年のチームが目指している「相手コートでの戦い」を取り戻そうと意思統一を図った成果は、金沢戦序盤のチームの振る舞いに現れていました。
キックオフ開始からマイボールをサイド等での狭い局面でも積極的に繋ぎ、簡単に金沢に渡しません。また、金沢のコンパクトな陣形を岡山の左から右へのサイドチェンジにより早々に金沢の選手間を広げることに成功します。
これを踏まえて、金沢のビルドアップの起点に岡山は素早くプレス、前半2分7チアゴがハーフウェイ付近でボールを奪い、素早く縦へ仕掛け、金沢8藤村のファールを誘った場面から岡山の攻勢がスタートしました。
まだ試合開始直後で、各選手の立ち上がりの機敏さは観戦していてもはっきり分かるものでした。
2.スカウティングが光ったセットプレー
① 先制点
前半3分、金沢陣内右サイド、16DF河野諒祐のFKはニアで9ハンが触り、ファーポストで待っていた23DFヨルディ・バイスの前で金沢DFがクリア、前半4分のCKもニアで9ハンが触りました。
金沢は前節の岩手戦のセットプレーでもニアに入る選手を掴まえきれず失点しており、この点をまず岡山はしっかり突いてきました。
金沢のセットプレーでの守備に綻びがみられた場面でしたが、この後、前半6分の岡山の先制点の場面では、岡山の更なるスカウティングの成果が現れます。図解します。

まず金沢はニアで触られることを警戒し、ゴール前ニアポスト付近に人数をかけ、岡山9ハンと7チアゴを警戒します。
少し離れたペナルティアーク付近に岡山の6MF喜山康平、26本山、5柳が縦に並び、マークに付くであろう金沢のDF3人も縦に並びます。
岡山の16河野のキックと同時に6喜山は岡山側からみてやや右へ、これと同時に5柳が左のスペースへ、このスペースに少し離れた位置にいた23バイスも走り込みます。
金沢の39DF庄司朋乃也は5柳のマークにつきますが、この5柳、23バイスが走り込んだスペースに岡山26本山や6喜山のマークに付く筈であった2DF長峰祐斗、5DF松田陸の目線が向かっていたのです。
一方でゴール前では9ハンや7チアゴがしっかりニア方向に動き、金沢DF陣を引きつけます。
岡山26本山はいったん5柳と同方向に向かう素振りを入れて、5柳や23バイスらの集団とゴール前との間にぽっかり出来たスペースに走り込み、ヘディングシュートを決めました。
岡山のセットプレーの強みである5柳や23バイスをおとりにし、また相手がニアで触れていないのでニアを狙うと見せかけて、更にその裏を突くという非常に練られたセットプレーであると感じました。


マークの確認を行う金沢の選手たち
② 2点目
先制点直後に5柳のミスで金沢にセットプレーを与え、その流れから金沢17MF平松昇にミドルシュートを打たれますが、幸運にもシュートは左ポストを直撃、こぼれ球を拾った金沢11MF杉浦恭平のクロスはゴールラインを割ります。岡山35GK堀田大暉のゴールキックの跳ね返りを14MF田中が拾い素早く相手陣内へ送ります。ここに8ムークが真っ先に走り込みプレッシャーをかけ、金沢DF陣のパスコースを限定、8MF藤村慶太が後ろ向きで受けたところを14田中がプレッシャーをかけて、こぼれ球を9ハンが拾いニアゾーンに侵入、再び良い守備からCKを獲得しました。
それでは、2点目のセットプレーも図解してみます。先制点のシーンと比較していただければ嬉しいです。

先制点のシーンと比べていただければ分かりやすいのですが、攻撃・守備の陣形は先制点のシーンとあまり変わっていないのです。
岡山の選手の動きもほぼ同様なので、26本山は先制点と同じスペースに走り込みます。得点を決めた5柳も、ほぼ同じスペースに走り、マーカーの39庄司もついていきます。
異なっていたのは、金沢の2長峰、5松田の動きで、共に岡山26本山へつきます。先制点と同じことはやらさないという構えでした。
しかし、岡山16河野のキックの軌道は、本山のスペースを通り越し、5柳の頭へ合わせます。金沢39庄司はマークについていましたが、5柳は39庄司の背後に回りジャンプ、しっかりとしたヘディングでゴールを決めます。
この得点は、先制点のシーンを伏線として金沢DF陣の裏をかけたこと、そして5柳がいったんマーカーの視野から消え、マーカーの背後をとれたことが大きかったと思います。また、23バイスが先制点のシーンと異なり、5柳のスペースに走らなかったため、5柳のプレースペースがしっかり確保できた点も見逃せません。
③ 二種類のスカウティング
得点を決めた5柳は一目散にベンチの小坂コーチの下へ走ります。
現在の岡山のスカウティングがどのように行われているのか、正確には知らないのですが、開幕前のインタビュー記事には今シーズンから加入した小坂コーチは自軍選手のプレーについて、昨シーズンから在籍している嶋コーチが相手のスカウティングを担当しているとありました。
二桁得点を大真面目に目標にしている5柳にとって、この試合まで1得点に止まる成績は不本意なものであったと思います。
小坂コーチに向かったという事は、自身の動きについてのデータ的な見直しがあったと推測され、見直しの成果が現れた得点シーンであったといえるのではないでしょうか。
このセットプレーからの2得点は、相手と自軍の二種類の優秀なスカウティングに基づくものであり、まさに岡山の強みが出たといえるでしょう。また16河野のキックの軌道は、金沢DF陣の目線を見直す限り、ボールが落ちる寸前で伸びているのかなと感じさせます。落下地点が予想しにくいキックなのかもしれません。
3.田中雄大のスイッチ
前半10分までの2得点は、金沢DF陣に少なからず混乱をもたらしました。
もし前半13分の7チアゴのPKが決まっていれば、もうこの試合の勝負は決まっていたと思います。
しかし、このPKが外れ、試合の流れは金沢へ。もう一度、作り直そうとする金沢に呼応するように岡山もプレスの勢いを緩め、金沢のサッカーを受ける時間帯が続きます。2-0のリードはサッカーにおいて最も危険とはよく言われることですが、この時間帯に金沢に1点を返されてしまいます。
前半25分の失点シーンは自陣右サイドでボールを受けた14田中が相手2人の間を通して自陣中央へパスを出すものの、出した先の8ムークへのパスは勢いが弱く、また8ムークもこのパスを感じてなく、相手ボールとなったところが起点となりました。
このシーンは非常に気になりました。私は14田中が無理してパスを出す必要はなかったと感じましたが、問題はこの時間の過ごし方がチーム内で統一できていなかった点かと思います。
14田中は7チアゴのPK失敗後も2度にわたりハイプレスに成功、チャンスを作り出していました。彼の振る舞いは岡山の目指すサッカーの遂行という観点では正解なのですが、おそらく周囲の選手が彼の運動量についていけていないのだと思います。
2点目を奪った前半10分までのハイプレスを90分続けることは不可能と考えられ、どこかで相手の攻撃を受ける時間は必要です。おそらくボールを受けれなかった8ムークを始め、他の攻撃陣はここは急がなくてよい時間と捉えていたのかもしれません。この点はチーム内でしっかり話してほしいところです。
失点シーンそのものは、金沢の良い距離感がしっかり出せれており、パスの出し手に対して岡山の寄せが若干甘くなったことによるものと思います。
前線からのプレスがかからないとみた岡山は4-4-2のブロックを敷いて、金沢を受ける時間が続きます。岡山にとっては守備の時間と意思統一は図れていたようにみえましたが、しかし次の1点はお互いに勝負を分ける得点となります。岡山としては、もう一度、どこでプレスをかけるのか、この点に注目していました。
スイッチを入れたのは14田中でした。前半33分、金沢8藤村からボールを奪うと素早く中の7チアゴへ。14田中はそのまま右サイドを駆けます。ボールを受けた7チアゴはドリブルで前進、ピッチ中央左寄りから走り込む8ムークをみていた金沢4松本が中に絞ったところで7チアゴはフリーになった8ムークへパス。8ムークが冷静にシュートを決めます。

この得点で7割方岡山の勝利が決まったというシーンでした。プレスのスイッチをどこで入れるのかというのは難しい問題なのですが、常に狙っている14田中にそのスイッチを委ねるやり方が現状では岡山の最適解なのかもしれません。14田中としては常に狙っているので、プレスのスイッチになれる訳ですが、他の選手が感じていないと先ほど述べましたように失点に繋がることもあります。この点はどう解決したらよいのでしょうね?もう少し考えてみたいですし、今後の選手のプレーから解答を導き出せれば一番良いかと思います。

4.手を緩めない
3点目奪取後の岡山の振る舞いは、2点目を奪った後の反省があったのか非常にアグレッシブでした。26本山を中心としたボール奪取、そして左サイドへの展開を織り交ぜながら、非常に厳しくボールを支配します。ここで目立ったのが9ハンでしたが、この時間帯はコンスタントに金沢のニアゾーンへの侵入を試みていました。ゴール正面からの豪快なゴールは、4人の外国人枠に残る大きなアピールになったと思います。
9ハンの課題をあげるなら、守備面かと思います。私は相手選手との対峙の仕方や距離感は決して悪くないと思っていますが、田中選手が強烈なインパクトを放つ右サイドと比べると、ファーストディフェンスに行けなかったり、パスコースを切れなかったシーンが若干悪い印象には映ります。
現在は11DF宮崎智彦が守備に専念し、この左サイドのリスクをカバーしていますが、今後対戦相手に狙われる可能性があります。
左WGに関しては19MF木村太哉との競争になりますが、9ハンの守備力、19木村の得点能力のいずれが先に向上するかにより、この競争は決着するのかと思いました。
金沢としては、良い戦いが出来ていた流れをこの試合序盤に手放し、それでも1点を返しペースを掴みかけたところで失点と、メンタル的に厳しい展開になってしまいました。5失点目のPKは不要なファールによるもので、完全に集中力を欠いたものでした。
それにしても7チアゴ、2本目はよく決めました。先ほどの9ハンのゴールも含めて、岡山の外国人選手には良い競争意識が働いているようです。

■ 後半レビュー
後半は金沢が4枚代えを決行したこともあり、ゼロからやり直しの雰囲気となりました。

前半で大量失点を喫してしまったこともあり、金沢は前半の流れをリセットして戦ってきます。つまり0-0の展開に戻ったともいえ、非常に締まったゲームとなりました。岡山も決して手を抜いた訳ではありませんが、やはり次の試合に向けて隙を見せない戦いを最優先とした印象が強く残りました。
それでも追加点、特に金沢が一人退場となった後には奪いたかったのですが、これが奪えないところは、今日の交代メンバーの層の薄さも出たのかなと感じました。10宮崎幾にしても20川本にしても惜しいシーンは作れるのですが、決定力不足に泣いています。その中でも20FW川本には得点の匂いを感じました。早く結果が欲しいですね。
後半良かったと思えたシーンをひとつ紹介します。
後半31分の岡山の攻撃です。
23バイスから相手陣内右サイドの16河野へのロングフィードから始まった攻撃でしたが、しっかり守備ブロックを敷いた金沢に対して、岡山は最終ラインを上げて、ニアゾーンを中心にボランチを含めた数多くの選手が顔を出します。最終的にゴールには繋がりませんでしたが、23バイスがPA内にまで侵入しました。23バイスの攻め上がりという点では昨シーズンの京都をイメージさせるものがありましたし、最終的に岡山がやりたい攻撃はこの形なのだろうと思いました。この展開を僅差の状況でもみせられたらいいですね。
15デューク不在のこの試合で結果が出たことにより、却って15デュークの起用法が難しくなるというには早い気もしますが、現段階ではそんな悩みも生まれてしまうような結果に期待します。

次はゴールに期待!
■ 山口戦に向けて
では明日の山口戦に向けて少し触れたいと思います。
木山監督も述べていますが、簡単ではないと思います。
大量得点で勝利したことから、山口側のマークもきつくなると思いますし、岡山の左サイドの攻防、山口の18FW高木大輔との攻防が勝敗を分けそうな気がします。
今シーズンのJ2では少なくなってしまったアンカーを配置するフォーメーションを継続しています。アンカー8佐藤謙介の配球、特に浮き球には注意が必要です。
今回は以上となります。お読みいただきありがとうございました。
※敬称略