書籍『なぜ不登校児に好きなことだけさせてはいけないのか』

Kindle Unlimitedで目に留まって読んでみた本です。

著者の渡邉恵里先生は、小児科医、そして、子どものこころ専門医です。

最近の不登校児に対するアプローチとして、ざっくりいうと「学校に行きたくないなら無理に行かせる必要はない、好きなことをさせれば良い」というものが多く聞かれます。

私自身その考え方におおむね共感してはいるものの、果たして学校に行かないで家で好きにすごすだけにさせておくことで本当に良いのかどうか、不安も感じています。

そんな中このタイトルに魅かれて読んでみることにしました。

渡邉先生は、哲学者スピノザの考えをベースにアプローチすることによって、患者さんが元気になりやすくなったとのことで、スピノザの考えを紹介しています。

スピノザは、喜びの感情悲しみの感情欲望の3つを人間の基本感情と考え、他のすべての感情がこの3つから導き出されると考えました。
不登校の状態では、勉強や人間関係などうまく行かないことによって、学校に行きたいという欲望が生まれ、抑うつや不安などの感情を含む悲しみのモードに陥っています。
悲しみのモードから喜びのモードに移行するためには、友達と遊びたいというような喜びの感情と結びついた欲望と、それに向かう能動的な行動が必要です。
スピノザがいう能動性とは、例えば友達に会いたいと思って登校するというような自ら望んだ行動で、受動は、親に怒られるのが嫌だから行く、というような他社の意思に従う、外部からの圧力を感じた行動です。
ただし、自分がやりたいと思う好きなことをするのがすべて能動ではなく、能動性というのは自然と調和しており、外部からの圧力もないし外部に圧力をかけないものです。
子どものうちは理性が十分に育っていないので、欲望のおもむくままに動いてしまうことがあります。
その場合は、理性を育てられるよう、その子がよく考え、悩む機会を持たなければいけません。問題となる出来事について、大人が本人の視点を理解しながら一緒に考えてあげてください。
私達は悲しそうな子を見ると、あわれみの感情から、それを取り除いてあげたいと思ってしまいますが、それではその子の理性は働きません。
その子が悲しみの感情を克服するためには、「行きたい気持ち」と「行きたくない気持ち」の葛藤を十分に悩んで、喜びの感情に結び付いた夢や希望を持ってそこに向かって能動的な行動を起こすプロセスが必要です。

そして、実際にどんなアプローチを取れば良いかということも書かれています。

1. 能動的な状態を考えてもらう事。「一番のびのびしていた時っていつだった?」と聞いて、その時の自分が楽しく過ごせていたことなどを語ってもらう。それでも能動性が分からないという時は、「よいもの」に触れる機会を増やす。「なんとなく好きだな、面白そうだな」ということを増やしていくと、自分が何を求めているか少しずつ見えてきて、自分の能動性に気づけていきます。

2. 意見を言えるようになる。言いやすい形で気持ちや意見を言うサポートをする。食事を例に挙げると、「パスタとカレー、どっちがいい?」のような二択から始める。本人の意見を取り入れて、「あなたの意見のお陰でいい体験ができたよ、ありがとう」といった意見を支持する声かけをする。その後オープンクエスチョンへと広げていき、自分の意見を言っても家族は否定しないし、それを喜ぶという体験をその子にしてもらう。普段からその子のさりげない行動に対して、「ありがとう」「助かったよ」など「あなたがいてくれてよかった」という気持ちを伝える。ちょっとしたメモ程度でいいので手紙を渡すのもお勧め。家族で一緒に楽しい、ワクワク、ドキドキ、いい汗をかく等の体験を共有する。情緒的な交流が増えると子どもは徐々に自分の気持ちを言いやすくなってきます。家族で情緒的な交流を楽しめるようになり、会話が増えてくると、人とのやり取りに小さな自信を持てるようになる。家族の中で体験したことを社会の中でも体験したいという自然な気持ちがわいてくる。それが能動的な「友達に会いたい」「学校でみんなと勉強したい」といった欲望に繋がる。

3. アドバイスは極力控え、自分で解決策を引き出す手伝いをする。「前の時はどうやったっけ?」と以前解決した方法を一緒に思い出したり、「あの子ならどうするかな?」とイメージしやすい友達や兄弟、親を例にあげて考えさせる。

4.「対立する2つのこと/考えから、どちらかに偏るのではなく、新しいこと/考えを創りだすこと」(アウフヘーベン)を目指す。アウフヘーベンは親が指示するものではなく、自分自身が作り出すことが大切。不登校の子が抱える葛藤はとても苦しいので、本人も周りも、その苦しみを取り除くにはどうしたらよいかとかんがえてしまいがちだが、親や周りの大人たちは、本人が葛藤する苦しみに寄り添いながら、本人が悩んで、アウフヘーベンすることを支えていく、というのが大切。その際できるだけ本人の悩みを請け負ってしまわないように注意する。本人の葛藤を支えるときには、良い面と嫌な面の両方の部分があることに一緒に目を向け、どちらも一長一短で選ぶことは難しいと話し合い、悩むことをサポートする。

上記は能動性を増やすための方法で、そのあとの章では受動的な立場を減らす方法についても記載されています。

受動的な立場を減らす方法の中の一つには、精神疾患に該当する状態であれば薬物療法がないと回復しにくいことがあるため、精神科や心療内科で相談してくださいと言ったことも書いてありました。

タイトルは、「好きなことだけさせてはいけない」という近年よく見るアプローチへの反証のような感じでしたが、書かれている方法論は、子どもに寄り添うという意味で似ているなと思いました。

取っている手段は似ていても、最終的に子どもが幸せになるとか、自立するというゴールにたどり着くプロセスとして、この本に書かれていることはとても合理的だと感じました。

実際には書かれていることは本当に正攻法で、娘に書かれている通りにアプローチしても娘が自分の感情に向き合ったり、それを私に語ったり、葛藤から逃げないようになったりするには、結構時間がかかるんだろうなとも思います。

じっくり取り組んでみたいと思います。



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