黒い客人。共有する秘め事。
「苦労したよ、彼の姿を変えるのに」
子供達2人と戯れるリピアを、メフィラスとゾーフィは見つめていた。
笑い声にはしゃぐ声が、花畑に遠く響く。
元々、線が細い体型だったリピアだが、身体を変化させてからは、その細さが際立つようになった。
「姿だけじゃなく、性別もというのだから。君からのリクエストとは言え、
同胞はもちろん、他の外星人に気づかれないようになんて、本末転倒だぞ、ゾーフィ」
「君の種なら、出来るだろう」
「出来ないわけではないが、現生人類から分離した後の身体だ。どうなるか、見当もつかない。だが、神永の痕跡を利用し、残ったエネルギーで身体を変えれたのは、不幸中の幸いというべきだろう」
普段、表情を見せないゾーフィだが、この時だけ少し笑った。
いや、そう見えたのかもしれない。
「なぜ、ウルトラマンを助けた」
メフィラスは、ゾーフィに問いかけた。
あの時のゾーフィの声は、今までとは違っていた。
『手伝え』
目の前に横たわる同胞を助けたいと、必死な声だったからだ。
「…」
自分の立場を忘れたワケではない。
神永に生命を渡し、抜け殻になったリピアの身体を、光の国へ持って帰れば
この件は終わる。
光の星の掟に反したリピアは、その名前も存在も永久凍結され、
そして、私は、別の知的生命体がいる惑星へ監視者として派遣される。
なのに、何故、彼を助けた?
『貴方にも、身に覚えのある感情でしょう?』
頭の中で、ある声が響く。
『だから、貴方はその姿になった。銀から金へ。身体のラインは赤から黒へ。それは、貴方が人を愛し、深く傷ついたから』
ゾーフィの眼は、遠く暗く澱んだように、空を仰ぐ。
「助けたわけではない。だが、君が我々の行動を見ていた事も、あの場にいた事も、私にはわかっていた」
「…気づいていたのか」
「気になっていなかったとは言わせない。君にとって、リピアは興味ある存在だったはずだ、メフィラス」
「私は、変わり者が好きなんだよ」
短い間ではあったが、言葉を交わし合い、酒を共にし、拳を交えた相手。
頑固で、こうと決めたら一歩も引かない。
自らの種より野蛮で幼い種なのに、命を賭ける事すら厭わないとはな。
「相手が誰であろうと、誰かを恋うというのは、すごいものだな」
感情を表すようにキラキラと点滅する。
「彼女が目覚めた後で、すぐ手続きをした。夫なら、後見人としてはいい名目だろう」
「確かに。裁定者の妻であれば、手出しするのは躊躇うものだ」
「辺境惑星の出身で、身体も弱い。光の星に移住するとなると、気後れもする。ストレスになりかねないし、子供達もいる。何よりも、私が今まで通り職務は続けると言えば、無理に光の星へ行かなくても良くなる」
「もし、ウルトラマンが本当に女性体なら、どうなってたかな」
面白そうにメフィラスが笑う。
「誰のものにもさせなかったさ」
ゾーフィは、小さく呟いた。
「遥か遠い星の故郷」第2話です。
リピアーも好きですが、ゾーフィの方が好きなのか動かしやすいです。
個人的には、ゾーフィも光の星の人間っぽくないと思ってます。
確かに光の星の掟には忠実で、無機質だけど、実は実はみたいな。
この話を書くにあたって、シンウルのゾーフィ編CMばかり見てました。
ソフビのゼットンは予約し損ねたけどね。