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幽体離脱????

調子が悪くなると、よく金縛りにあいます。

調子が悪いと言うのは、精神的なもので、起きているのが苦痛なので、ただひたすら寝ていたい時があります。(死にたくはないので、眠ります!!)

でもそんなとき、金縛りにあうのです。

ふっと目が覚めて、でも体は動かない。何度も体験してることだから慣れたし、ただの睡眠障害ということも分かってるから、怖くはない。でも、このまま瞼を閉じてしまうと、不思議な体験が待ってることは分かってるので、眠らないように頑張る。睡魔に負けて眠ってしまうと、部屋の中に誰かが入ってきて、いじめられるんです!! 数分格闘すると、次第に体が動くようになるから、それで金縛りは解ける。

初めて金縛りにあったのは、高校二年生の頃。別に精神的に病んでいたわけではなかった。

夜中に突然、廊下を誰かが歩いている音で起こされた。スリッパの乾いた音が聞こえて、それがだんだん自分の部屋に近づいてきた。それから、私の部屋の前でその音が止んだ。ドアが開いて、白い服を着た女の人が入ってきた。僕は背中越しにその様子を見ていた。女の人はぼくの枕元に忍び寄ってきた。右手にアイスピックを握っていた。僕は逃げようと思ったが、体が全く動かなかった。女の人は腕を大きく振り上げると、僕の頸に向かってそれを勢いよく振り下ろした。その瞬間、僕は目を覚ました。

目覚めた時は、生きていることに驚いたし、安心した。夢だったということは、その後になって分かった。ネットで調べたら、金縛りだということが、わかった。スリッパの音が心臓の鼓動ということも分かった。

大学生の四年の頃が、一番金縛りのひどい時期だった。自分は院進が決まっていたけど、同年代がこれから働きに出るんだ、社会に出るんだと思うと、ものすごい劣等感に襲われた。大人になれないこと、税金を納められないこと、年金を払えないこと、奨学金をもらっていること、院進したって、全部が子供のままだった。卒論も書いて、退屈だったから別の卒論も書いた(「みちとうみ」という長編詩)。その間ずっと金縛りに遭っていた。だからその小説も書いた。新人賞に出そうと思ったけど、キモくてやめた(「新夜」という作品)。

小説の冒頭は、金縛りの体験から始まる。当時よく見ていた火事の夢と混ざり合っていた。こんな感じで書いた。


 危険を知らせたのは焦げの匂いだった。
 瞬間、夢は夢として消えていく。オーケストラのハーモニーはやかましいサイレン音に切り替わった。視界は白くぼやけている。寝室にはっきりと渦が巻いていたのだ。勢いよく煙を立てているのはサイドテーブルの本。昨夜読んだもの。
 遠山は急いで体を起こそうとした。一刻も早く、本を叩かなければと思ったのだ。火災報知器が鳴ってしまう——もう鳴っている? だが、焦りだけがどんどん募っていった。力が思うように入らないのだ。
 金縛りだ。遠山は気づいた。しかしどうすることもできない。鼻腔にしがみつく独特の甘い匂い、乾燥で目が痛くなるほどの煙、これらを夢として放っておくことはできない。耳の中でたしかにサイレンが鳴っている。何とかしなくてはという彼の思いとは裏腹に、みるみる煙が濃くなっていった。燃えているのは本だけではないよう。
 両腕は石のように硬く、重い。細かな電流が肢体を包み込み、彼の意志を麻痺させていく。ベッドシーツから体を引き剥がそうとしても、気張った声が漏れるだけ。できることといえば、捕縛された囚人みたく、もぞもぞ踠くことだけだった。
 黒煙がしだいに光を追い払った。壁に浮かんだ影が、火柱の呼吸に合わせて明滅する。火葬に付された人間のように、彼はなすすべなく横たわっていた。逃げ遅れは明らかだった。熱気に瞼は重くなり、呼吸は浅くなってくる。意外だった。死期を悟れば、後は穏やかに眠ればいい。そして天国へ行くのだ。きっと父親が待っている、あの場所へ。
 気づくとサイレンが耳鳴りに変わっていた。同時に平衡感覚が失われていく。甲高い音に頭を掻き回されると、体の重心がわからなくなっていくのだ。すると全身が軽くなる。まるで水中を漂うみたいに。
 これが最後だと思って、彼は力を込めてみた——今度はうまくいきそう。思った通り、軽々と上体が起ち上がっていく。が、半分ほど持ち上がった、その時だった。突然、両肩がドンと押し返された。緊張が解け、引き延ばされたゴムが勢いよく縮むように、その瞬間、彼の身体は垂直に落ちていった。けたたましい衝撃音が鳴る。ベッドに激しく打ち付けられた全身の骨が。声にならない悲鳴を上げたかのように。

 そうして目が覚めた。体から余分な力が抜けていく。匂いも、煙も偽りだった。白い壁に音もなく黒い影が落ちている。意識がはっきりするにつれ、それは形を整えていった。向こうに干したシャツだ。
 遠山は再び目を閉じようとしたが、それは阻止された。拡声器に膨張した声と、サイレン音が聞こえてきたのだ。それから何台かの救急車両が近くの道路を横切って行った。——それだけは現実だったのだ。遠山は寝返りを打つ。陽光を浴びた本の背表紙が彼と同じように横たわっていた。
 携帯をひっくり返し、時刻を確認する。
 書かなければならない。卒論の締め切りは一ヶ月後に迫っていた。

金縛りはいつもと違って、不思議な体験をもたらした。意識の覚醒と体の麻痺に身を委ねていると、耳鳴りが鳴って、徐々に体が軽くなって、体が持ち上がったのだ。でも、誰かによって僕は両肩をドンと押された。ベッドに身体を押し返された。それからバチンというすごい音がなった。衝撃音。

後日、よく考えてみたら、あれはいわゆる幽体離脱の一歩手前だったのではと思った。ネットを調べて、いろんな人の体験談を読んで、聞いて、それは確信に変わった。

それから、あの衝撃音は、ビルから飛び降りた人がコンクリートに叩きつけられた音だと分かった。いつの日かSNSで突然流れてきて、聴いてしまった音が、自分の脳内に残っていたのだ。

一つの疑問が残った。

あの時僕を押し返したのは誰なんだろう? 僕の両肩を、見えざる両手で押し返したのは。まだ、こっちの世界には来てはいけない、みたいに、押し返したのは!!

それが小説の一つのテーマになった。でも、うまく書けなかった。

カラスが泣いています。

もう、朝が来てしまったようです。僕は寝ます。

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