私信(令和七年睦月九日)
あなたは言葉をもちません。わたしがここであなたの口に言葉を与えようとしても、別の女性の声が響いてしまいます。書き言葉が孕み持っている音声は、あなたの声の調子と異なっているのです。書き言葉の音声はファム・ファタルしか許しません。あなたはいつ私の言葉の中にあなた自身の声を与えてくれるのだろうか。書き言葉の世界には、あなたの声帯は存在しません。やつれきり、擦り切れて、自信なさげに震える、あなたの声帯は。あなたはここで決して喋らない。臆病なあなたの声は、鉤括弧の中にすら安住できない。冷たく、よそよそしい別の声色のなかに身を隠してしまう。
あなた、あなた、
あなたの全てはただこの一語の中に引きこもり、永遠に凍結します。
私はあなたの声を知らない。あなたが夜、薄暗い自室で、どんな言葉で、自らの心の奥深くに向かって語りかけているのか、私は知らない。あなたが生活の苦労と挫折の中で、ひとり孤独に、永遠の聞き手を目指して囁かれたため息を、私は知らない。
私は語りたい。ここで、あなたの声を使って語りたい。私たちがもし、別々に歩んできた寂しい道の傍で、涙ながらに目にしてきた花々の美しさを、震え、戦慄きながら打ち明けられる日が、到来するならば。
たった今この白紙の上で、このお喋りをここまで導いてきた、言葉を持たぬ、(そしてもちろん親愛なる!)
あなたへ
令和七年、睦月九日