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ウエクミ対談シリーズ:唐津絵理【前編】キャストを探す直感

オペラを初めて演出した上田久美子が、東京公演を観劇した様々なジャンルで活躍する知人・友人の感想を聞きながら語り合う対談シリーズ。最終回は、ダンス・キャスティング・アドバイザーとして公演に関わった、愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサーの唐津絵理です。長年ダンス公演を企画し、ダンサーを近くで見てきた唐津が上田演出で見たダンサーの姿とは?今回は少し趣向を変えて、二人に質問する形でお届けします。

唐津絵理
お茶の水女子大学文教育学部舞踊教育学科卒業、同大学院人文科学研究科修了。舞台活動を経て、1993年より日本初の舞踊学芸員として愛知芸術文化センターに勤務。2000年に所属の愛知県文化情報センターで第1回アサヒ芸術賞受賞。2021年より現職。2010年~16年あいちトリエンナーレのキュレーター(パフォーミング・アーツ)。大規模な国際共同製作から実験的パフォーマンスまでプロデュース、招聘した作品やプロジェクトは200を超える。DaBY設立を機に、ダンス、パフォーミングアーツ領域全体の活動環境の整備、アーティスト・ダンサー・スタッフの権利擁護、観客・市場拡大施策等に積極的に関わる。著書に『身体の知性』等。

東京芸術劇場での公演を終えて、率直に感じたこと思ったことを教えてください

上田:稽古する前から、ひとつ疑問というか、困難があるかもしれないと思っていたことは、歌手にとって具象的な演技をすることがどの程度、歌の助けになっているのかということです。つまり役の扮装をして、イタリアの情景が見えるセットで演じることがどの程度、演技に込められる熱に影響するのか。言い換えれば今回のようにそれらが無い抽象的な演出で、歌にどういう影響が出るかという不安がありました。そこは自分自身がオペラの演出経験がないし、歌手の人たちがどういう生理で演じているのか前知識がなく、しかも稽古期間が短いから、「今やっていてどう感じますか?」なんて色々試す時間もなく、動きをつけるだけで終わってしまう。そこが一番の不安なところだったんです。
自分が知っている俳優さんだったら、この人にとってこれがベストなのか、今は素晴らしく見えているけど、本当はもっとできることを知っていたりもするんですけど、歌手の方ってその人のベストがどこなのかを私は知らないじゃないですか。私がすごく素晴らしいと思っていても、本当はもっともっとすごい部分があるかもしれないし、それがずっと不安でした。
結果として、舞台をご覧になった方の中でも音楽に関わってきた方たちから「歌のクオリティが高かった」という声が多かったので、歌手は普段と違う有り様で存在していたけど、必ずしもそれが歌を阻害するというより、一緒に演じているダンサーとのエネルギーの交換がプラスに働いたのかもしれず、「あっそうだったんだな」と、やってみて初めてわかったところです。

上田久美子(演出)

唐津:私は東京公演の初日を観たのですが、同じ役を演じる歌手とダンサーの、お互いが“相手を越えよう”という挑発のし合いみたいなものを感じました。歌手は歌手で当然自分たちの役割を全うするのですが、1人では超えられないものというのがあって、それが外発的なダンスというエネルギーみたいなものにすごく挑発されて、いつも以上の力とかいつもと違う魅力が出たという感じなのかなと思います。

唐津絵理(愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー)

上田:そうだとしたらいいなと思います。今回、先行してダンスの振付があって、CD音源で稽古していたんです。そして、ダンスだけを見ている時は圧巻と思っていたんです。でも実際に歌手が稽古に合流して歌ってみると…。実はそれまでずっと周りから言われていたことは、観客って動いている人を見てしまうから、歌手じゃなくてダンサーに目が行きすぎるのではっていう、危惧する声がいっぱいあったんですね。でも私はそうかな?と思っていたんですよ。経験上、声を出す存在は舞台で非常に強いんで。そして実際に歌手とダンサーで合わせてみると、歌手のインパクトはすごかったです。ダンサーたちに、これはもう喰うか喰われるか、ガチンコで挑まないと、そもそもダンスがある意味がなくなるかもしれないって正直に話して。

唐津:やっぱりそうなんですね。そんなガチンコ勝負なエネルギーを感じました。

上田:なぜなら稽古場に来て歌った歌手たちがすごかったから。たぶんその結果として互いのエネルギーが高まる舞台になったと思います。オペラの世界ってきっと個人プレーだと思うんですよ。俳優って、ダンサーもそうですけどお互いに「私はこの役はこういうバックグラウンドかなと思ってる」「だったらこっちもそのつもりで」とか演出家を介さず話し合うじゃないですか。でもオペラってあまりそれをやらないらしく、演出家がこういう設定でこういう関係性でって言ったら「はい」という感じで、歌手間で話し合って決めたりすることはほとんどしないらしいです。今回はそこがちょっと違って、それも新しい刺激が生まれたんじゃないかなって。歌手とダンサーとのコミュニケーションも結構あったみたい。

唐津:Twitterで公開されていた告知動画も、2人の関係性がすごくいい感じに出ていましたよね。コミュニケーションが取れてる感じがね。

上田:私はあんまり関与してないんですけど、知らない間に(笑)。同じジャンルじゃないからこそ、何かいいところがあるんでしょうか。同業者同士より話しやすいかもしれないですよね。

ダンサーのキャスティングはどのようにされたのですか?

上田:振付家の前田清実さんから、愛知県芸術劇場でやるんだったら唐津さんというダンスのプロデューサーがいらっしゃるから、聞いてみるのも良いのではないかとおっしゃって。

唐津:知らなかったんですけど、前田さんは私の企画を見に来てくださっていて。今までご覧になったものが感動したので、ダンサーの中で良い方がいたらぜひ紹介したり、アドバイスをいただきたいと言っていただきました。でも、前田さんや上田さんがすでにいろいろリサーチされていて、いろんな人たちの名前が挙がっていたので、私は役柄に合わせてこの人だったらすごくいいんじゃない?みたいな感じでアドバイスさせていただいた感じです。上田さんはダンサーに詳しくないと言いつつも、非常に的確に推薦してくださっていたから、見る目がすごいなと思いました。

上田:やった!(笑)

唐津:この人面白そうとか凄そうみたいなことを感じるんですか?

上田:それはあります。直感でわかるんですよ。

唐津:その直感が凄いと思いました。相当詳しく知らないとその人は選ばないよなっていうダンサーを最初から挙げてこられていて。

上田:舞踊の公演を見に行ったり、振付陣から推薦いただいて。その上で、実際に動いているのを見ると、この人には何かあるっていうのがわかるんです。何か存在の有り様で。世界とのつながりとかが舞台上に見える。散漫にならず、宇宙とか過去とかとつながれている人たちがいるんですよ。

唐津:えー、そうなんだ。

上田:そこに「いる」っていうだけのことができるかどうか、何かストンていられるということがすごく大事だったりとか。何かやろうとかじゃないんですよ。ただ「いる」っていうことができる人。

唐津:今回も踊りが上手なのはもちろんですが、存在自体がすごい人たちばっかりでした。

上田:その人たちはその居方がきっとどこか何かとうまくつながってらっしゃるんですよ。今の世界のココっていう場所と。

唐津:ダンスって巫女的な役割がすごく強いので、比喩だけどつながってるって、なんかそれって私も感じるんですよね。すごい踊り手さんって。

上田:そうなんですね。表面上の動きのかっこよさとか、なんかそういうこととは違うんですよね。

唐津:やっぱり降りてくるというか、ある意味神秘的な特別な力の化身としてそこに存在するという巫女的な役割というものを感じるし、今回特にそういう人が多かったと思いました。

普段のダンサー活動と今回の舞台で何か違いを感じることはありましたか?

唐津:三東さんにしても柳本さんにしても、ケイさんもそうですけど、自分の作品を作られている時と違う有り様が今回はあったと思うんですよね。どうしてもキャリアを積んでいくと、オリジナルのスタイルが確固としていくし、もちろん、そこがアーティストとしての面白さなんだけど、例えば三東さんだと、彼女はめちゃめちゃいいダンサーなんですけど、自分の舞台では自分の作品で必要としない踊り以外はやらなかったりとか、柳本さんもきっと最近はそこまでガンガン踊るということはしないと思うんですけど、今回は最近の彼らというのとも違う、もうちょっとその人のポテンシャルというのかな、本来持っているポテンシャルが垣間見れる、そういう踊りが見れたんで私もめちゃくちゃ楽しかったです。

『田舎騎士道』より 左からアントネッロ・パロンビ(トゥリッドゥ役)、テレサ・ロマーノ(サントゥッツァ役)、柳本雅寛(護男役)、三東瑠璃(聖子役) ©2/FaithCompany

上田:自分のやりたいことをやる時と、人からのむちゃぶりだけど、ワーってやっていくと意外とそこになんか新しさがあるっていう時の違いはあるかもしれませんね。

唐津:そうそうそう。そうなんです。

上田:三東さんも言ってました。自分の作った振りで、自分から出てくるものだけでやるっていうことだけでは広がらないから、今は、人から与えられた振りでやりたいって言って。今回もっと私に振りをつけてください、指示してもらったら何でもやりますと言ってくれていました。三東さんはご自身の振りを持っているから、ちょっとビクッて動くとか、前に作品でやっていたああいうのでお願いしますって言っちゃうんですよつい。それで多くは自分の振りになって。柳本さんとのデュエットは柳本さんの付けた振りで踊られているんですけど。彼女は前田さんの振りもやりたいって、その方が広がるって言ってました。自分の中の世界とか。

唐津:もともとダンサーの初期って、人の振付を踊るっていうのが長く続いて、またそれがしんどくなったり、セカンドステージとして自分で振付するようになる方が多いわけですが、柳本さんにしろ三東さんにしても、人に振り付けられているのもめちゃくちゃ素敵なダンサーたちなんです。で、今は既に自分たちのオリジナリティのあるものがあって、それももちろんいいんだけど、ある意味、彼らのファンとしてはまた違うタイプのものも見たいなというふうにも思っていたから、それが今回出されていた感じがしますね。

【後編】これはオペラじゃない? へ続く


公演情報

愛知公演【3月3日/3月5日】

東京公演は全公演終了いたしました。ご来場ありがとうございました。