1998年6月25日(木)
【VIP:藤井 淳紀・前村 亮二・福永 菜月・宮本 紳・鹿本 芽衣・大河原 美沙】
「紳くんナイスストライク!」
「あいつ、やる度に上手くなってるな」
ボールを投げた後、後ろを振り向いて軽く笑顔を浮かべた宮本 紳を見て、福永 菜月が大声で叫び、ため息混じりに藤井 淳紀が言葉を漏らした。ここは熊大方面から子飼橋を渡った先の右側にあるアミューズメントスペース『VIP』。ゲームセンターやボウリングの他いろいろな遊び場があり、特に大学生を中心に連日大盛況のビルである。本日午前中に探索を行ったいつかは最強いつでも最強部隊は、通常通り第1迷宮地下9階に降りたものの、ボスの部屋への扉の罠を外すことは出来なかった。その後、地下9階をぶらつき、ある程度の戦闘を行った後戻ってきたのだ。戻った後は一緒に『南地区レストラン』で食事を取り、話し合いの結果、本日は一緒にボウリングをしようということになる。ぶらぶらと『VIP』まで歩いて移動し、現在に至る。
「コツが掴めれば何てことないです」
「そのセリフムカつく」
自慢げに発した宮本の言葉を聞いて、前村 亮二が突っ込みを入れた。約3年前、この部隊を編成した当初、宮本は色々なことが出来ない青年だった。ボウリング、ビリヤード、ダーツ、ゲームに至るまでほとんど素人以下のレベルだったのだ。そこで、部隊のみんなで丁寧に教えたりしていた時期もあったが、今や、宮本は何をやっても誰よりも上手くできるのである。それは宮本が出来なかった理由が、出来ないではなくやってないだったからだ。もちろん影で結構な練習は行ったのも事実だが、コツを掴みさえすれば何でもある程度上手に出来るようになるというある種の才能のようなものを持っているようである。
「これでだいぶんリードしたわね」
「飲み代は頂きですー」
宮本と同じチームの福永と鹿本 芽衣が笑顔で言葉を発し、宮本も自慢げな表情を浮かべている。パッと見た感じで、次の藤井がストライクを取れなければほぼ逆転不可能な点差が離れている。
「まだだ、まだ終わらんよ」
すごくいい声で藤井が叫び、ボールを投げる。するとそのボールは右側から綺麗な弧を描いて完璧な角度でピンにぶつかる。誰もがストライクだと思ったが、不幸にも1本だけピンが残ってしまった。
「終わった。何もかも」
振り返った宮本は恐ろしい笑顔を浮かべながらこのように言葉を発した。それを見て、前村と大河原 美沙が仕方ないと声をかけたので、宮本は正気を取り戻し、2投目はきちんとスペアを取った。