1996年11月23日(土)《BN》
【道:前田 法重・佐々木 雅美・田中 道恵】
「前ちゃんがそうしたいなら私はそれでいいよ」
「そうですか。ありがとうございます」
相談を受けた田中 道恵が答えた返事を聞いて、前田 法重はお礼の言葉を述べた。ここは居酒屋『道』。時間は16時を少し過ぎた時間であり、開店前の準備中である。今日は勤労感謝の日であり、いつも冒険者達のために美味しいお酒と料理を提供してくれている田中、通称“道のおばちゃん”への感謝を表して、前田と佐々木が昼食をご馳走したのである。そして昼食の後は田中と佐々木を『道』の前で車から降ろして、前田はいったん退散する。そして16時ぐらいに再度やってきて、今相談事を持ちかけているのである。『道』はまだ熊大が黒髪にあった時代から田中一人で店をやりくりしていたが、佐々木が冒険者を引退したことをきっかけに店を手伝うようになる。田中も体調があまりすぐれないこともり、佐々木の手伝いに関しては非常に助かっており、感謝をしているのだ。そして本日も前田の相談というのは、冒険者組織御用達の居酒屋とするならば、店舗規模が今のままだと小さいので、もうすこし大きな店として建て替えたいという提案だ。『道』は隣にも居酒屋が営業しているが、その店が近々閉店するという噂もあったので、前田は事前に前田はその店の店主と、不動産会社に連絡し、その土地の利用権については利用許可を得ているのである。なので現在2店舗分の敷地に、3階建て程度のビルを建てる計画を立てているのである。ちなみに3階という選択は、『道』の目の前に富田 剛が建てた富田ビルが3階だからという理由もあるようだ。
「それでね、前ちゃん。私からも相談があるの」
「何ですか。何でも相談に乗りますよ」
今度は田中からの相談の声が上がり、前田は真剣な表情で耳を傾ける。
「店の規模を大きくするのは冒険者達のためを考えたら良いことだと思うけど、私も体調があまり優れないので、大きな店を取り仕切るのは厳しいと思うのよね」
今後の店の運営と自分の体調を考えながら田中が言葉を述べる。
「もちろんまだまだ働く気だけど、私が中心でやっていくのは難しいから、今後は雅美さん中心にやってほしいの」
「私がですか」
急に話を振られた佐々木が少し驚いた表情を浮かべる。これまで一緒に『道』で働いてきたが、あくまでも田中の補佐としてであり、自分が中心に店を運営するなどとは考えたこともなかったのだ。
「わかりました。話をまとめると建物を新築して店を広くすることは問題ないが、店の運営は佐々木に任せて、今後おばちゃんは佐々木の手伝いという形になるってことでいいですか」
これを聞いた田中がゆっくりと首を縦に振ったので、結果的には考えていた通りの結末になった。この後、前田はいったん店を出て、田中と佐々木は店の開店の準備を始める。そして18時に店を開けると同時に前田と原田 公司、本田 仁がやってきたのであった。