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1996年11月25日(月)《BN》

【煉瓦亭:前田 法重・佐々木 雅美・富田 剛・富田 さやか】
「あ、別にいいっすよ」
「そうか、助かる」
 何も悩むようなそぶりもなく了承の返事を返した富田 剛に、前田 法重は軽く頭を下げながら礼を返した。ここは喫茶店『煉瓦亭』。現在15時を少し回った時間であり、店内に客の姿は少なく落ち着いた雰囲気である。富田と富田 さやかは自宅にて1階に開店予定の喫茶店やゲームセンターの件についていろいろ検討したり、のんびりしながら過ごしていたが、前田から何やら話があるということで呼び出され、『煉瓦亭』にやってきたのだ。すでに前田と佐々木は店内のテーブルに座っていたので、その反対側に2人で座り、コーヒーと紅茶を注文した。そこで前田から相談された内容は、『道』の改装の話である。計画によると12月の中旬あたりから、現在の『道』と隣にある閉店予定の居酒屋の解体作業が始まり、約3ヶ月の納期で3階建てのビルを建てる予定とのことだ。このビルの規模は富田が建てた富田ビルとほぼ同じ大きさであり、1階に『道』を運営するスペース、2階と3階は居住スペースになる計画だ。ここで問題となるのはその3ヶ月の間『道』が営業できなくなることである。どこか別の場所にその期間だけ開店できる店舗を探して臨時店舗を営業するつもりだが、その店舗に富田ビルの1階にある喫茶店開店予定のテナントを利用できないかという相談だったのだ。
「でも急いで開店する気もあまりなかったので、準備は全然できてませんよ」
「それは大丈夫です。お借りするまで半月あるので、開店出来るように私たちが準備します」
 まだテナントにはほとんど手をつけていなかったので、居酒屋を開店出来るような状態では無いことを富田が説明し、それに佐々木が問題ないと返事を返す。改装までは半月あるので、その間に準備をすることは十分に可能なのである。
「『道』で借りた後はすぐに喫茶店として使えるような感じにしようと思ってるから、店舗イメージだけ考えて欲しい。そしたら改装などは俺の方で手配するから」
 コーヒーを口に運んだ後で前田が考えを口にする。『道』として3ヶ月ほど利用した後は、そのまま喫茶店として営業できるのであれば、富田にとってこれほど便利なことはない。ただある1点だけ気になることがあったので富田が質問する。
「あの・・・ご予算の方は?」
 これを聞いて前田と佐々木は顔を見合わせ疑問の表情を浮かべる。そして少し笑いながら前田が返事を返す。
「金は俺が出すよ。ビル建設の会社に併せてやってもらうから、そんなにはかからんはずや」
 これで心配だった予算についても解決し、富田とさやかに取っても文句ない内容でまとまった。この後、佐々木とさやかはパフェを注文して、しばらくのんびりした時間を過ごし、前田と富田は一足先に退店し一緒に『子飼娯楽センター』へ向かったのであった。

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