【劇評】夜への長い旅路(CEDAR)

2023/9/18

逃亡きっかけにまたCEDARさんの演劇が見てみたくて観劇。
家族皆が目を背け恐れる「夜」へゆっくりとしかし確実に進まざるを得ない話だった。

だからタイトルはやはり『夜への長い旅路』。

本編について

理解できないことを理解しようとしたり、どうにもならないことをどうにかしようとしたり。愛しているけど自分のことが最優先になってしまったり、相手の不幸を願ったり。

誰も悪くないのにどうしようもなく上手く行かない、そういう人生の多面性を奥行き深くリアルに映し出していた。し、ちょっとリアルすぎて途中呼吸を忘れて具合悪くなってた(す〜ぐ呼吸忘れる)

「過去が今を作るの、過去は未来でもあるわ」みたいなことを母親が言ってたけど、この言葉をまさにこの演劇の中枢に据えたい。

家族それぞれに違った「過去」があり、だからこそそれぞれ違う「現在」があり、ぶつかり合う。そしてそれはそう簡単に変えられるものではなくこの先の「未来」も続いていくんだろう。
松森さん演出は「誰も悪くない」という側面が強くおしだされていてだから好きだな!と思った。

人の表面だけを受け取ると、過剰に期待したり過剰に嫌悪したりという人の擦れ違いは往々にしてあるものだけど、それぞれの発言の背景を聞くとどれも納得のいくものだったりする。そういうことを改めて感じさせてくれるなと思う。

ただ、あまりにリアルでかつ悪い方向性に行くのでちょっと怖くなってしまい、家族にはもっと優しくしようと思いました.............

舞台美術・照明について

格好いい。シンプルに、格好いい。ポストカードとかにしてほしい。

がらんと置かれた家具たちの上に天井のような四角い枠が客席に向かって斜めに浮かんでいて、照明がいつも上手から斜めに差し込んでいる。非常に絵になる...

あの天井のような四角い枠、最後列からだと、一番奥の枠が階段に差し掛かるように見える。

だから、母親が2階に上がる時に階段の途中で四角の枠の中に収まってしまうように見えて、途中から「2階のあの部屋」という恐ろしい別世界に行ってしまったかのように見えた。

俳優さんと人生の解像度について

『逃亡』のとき毎日桧山さんを見てたらすっかり桧山さんの演技が好きになってたようで、目で追いかけてしまった….

「俳優だから、まずは台詞がよくきこえるように喋ることを大事にしてる」って以前話してたように、とっても聞き取りやすい発声でいいな….

そしてあの青年ならではの未熟さや身勝手さやそれでも彼なりに周りに対しての愛情がある様とか、そういう解像度がめちゃくちゃ高い演技でいいなぁ〜と改めて思いました。

平田オリザさんの演劇論の本を読んだとき、「劇作家は何かを伝えたいというテーマより先に『何を描写したいか』が大事だ。そしてその描写したい人生の一コマをひたすらに解像度を上げて描くのが演劇だ」みたいなことが書いてあって。(大分意訳です)

まさにその、「人生の解像度をひたすらに上げていく」作品において、桧山さんの青年演技はとっても相性が良い!好きだ!となりました。

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