パワーアシストスーツって役に立つの? 畑で実際に試してみた
中小企業診断士のフクダです。
しばらく前に畑で堆肥を撒くお手伝いをしました。15㎏の堆肥を担いで、畑を数十回往復します。普段使い慣れない筋肉を使うので、結構バテました。
私の周りの生産者を見ると、若いうちから腰や肩を痛めている人が多くいます。また、農業従事者には女性や高齢者も多くいます。
そんな中で最近気になっているのが、力仕事の負担を軽減するアシストスーツ。パワーアシストスーツとかサポートジャケットなどとも呼ばれます。
そこで先日、アシストスーツのメーカーさんに畑までお越しいただき、実際に装着して農作業をやってみました。今日はそのお話。
アシストスーツ以前の「ロボットスーツ」
私が初めてアシストスーツ的なものを知ったのは15年ほど前。筑波大学発ベンチャーのCYBERDYNE(サイバーダイン)社が発表した「HAL」でした。当時、展示会などで頻繁にデモを見かけました。
HALはロボットスーツと呼ばれていて、脳の生体電位信号を感知して、歩行困難な人も歩けるようになるという、夢のような機械でした。
当時は「夢みたいな技術だけれど、ゴツいし高そうだし、一般には普及しないかなあ」などと思っていました。(今はHALも、小型で軽量の作業支援アシストスーツがあります)
ロボットスーツはおもに医療・軍事分野の技術でしたが、近年になって介護・建築・農業などの肉体的負担が大きい現場でアシストスーツが求められるようになり、多くの企業が参入しました。
ここ数年、軽量化・低価格化が進んだことと、スマート農業に対する補助金が使えるようになったことから、農業現場でも急激に普及が進んでいます。
アシストスーツにありがちな誤解
注目されるアシストスーツですが、私自身も「HAL」のイメージが強烈で、大きな誤解をしていたことがあります。先にお伝えしておきますね。
高額な精密機器ばかりではない
ロボットスーツのような、高額な精密機器を想像しがちですが、必ずしも高額な精密機器ばかりではありません。機械を使わない数万円のものから、動力を使う100万円以上のものまで幅があります。
サイボーグ的な怪力は出ない
女性が片手で大きな荷物を軽々持ち上げる…といったSF的なものを想像しがちですが、一部のモーター型を除き、爆発的な力が出せるものではありません。特に人工筋肉型は「負担を軽減する」といった表現が近いです。
アシストスーツの種類と特徴
アシストスーツは「どこをサポートするか」と「どうやってサポートするか」によって、おおまかに分類されます。必要な作業や予算によって最適なものを選びます。
肩サポート型と腰サポート型
果樹園での収穫など、主に肩・腕を使う作業には「肩サポート型」、重いものを持ち上げる、中腰の作業が続く、といった場合には「腰サポート型」のアシストスーツを選びます。今回は唐辛子畑での作業を想定していたので、腰サポート型を選びました。
モーター型と人工筋肉型
充電式バッテリーなどの動力を使う「モーター型」と、動力を使わずに空気圧と人工筋肉でサポートする「人工筋肉型」があります。それぞれのメリット・デメリットはこんな感じ。
農業現場で使うことを考えると、軽くて丈夫な方が良いかと思い、人工筋肉型を選びました。
「マッスルスーツ」のイノフィスさんに来ていただいた
農業用アシストスーツのメーカーは農林水産省のページでも紹介されています。各社のWebサイトや、知り合いの農業関係者への聞き込み調査から、「腰サポート型」「人工筋肉型」のアシストスーツ「マッスルスーツ」を販売しているイノフィスさんにコンタクトを取り、畑でデモをお願いしました。
装着感は? 重くない?
今回試したタイプは、空気圧を使ってサポート力が強い「マッスルスーツ エブリー」(約15万円)と、動きやすさ重視の「マッスルスーツGS-BACK」(約16万円)、さらに簡易な「ソフトパワー」(約6万円)の3種類。
登山用ザックのように、腰をバンドで固定します。背中はきつく締めてしまうと屈めなくなるので結構余裕をもたせます。持ち上げるとそこそこ重量感がありますが、腰に固定すると重さは気になりません。思ったよりも腰や背中の圧迫感はなし。
「エブリー」の一番の特徴は、もも前のパッド。これを装着してから手動式の水鉄砲みたいなポンプでプシュプシュと空気を送り込むと、だんだんももを押されるような感覚になってきます。最後に胸や肩のバンドを調節して装着完了。
「外骨格」と呼ばれる本体部分と、このももパッドが、腰にかかる負担を分散して軽減するという仕組みです。
動きやすい? 腰のサポート力は?
実際に「エブリー」を着けて唐辛子収穫をしてみました。まず、最初は屈みにくい! 背中の角度を調節するバンドをゆるめ、膝の曲げ方のコツをつかんで、なんとか屈めるように。
同じく、腿のパッドが邪魔で最初は歩きにくかったです。しばらく作業してみると、たしかに中腰の体勢でもそんなに疲れないし、歩くのも慣れてきました。前評判では「歩けない」と聞いていたのですが、慣れれば結構大丈夫かも。
先日農作業で腰を痛め、現在も自称「ガラスの腰」を抱えるHさんが試してみたところ、「確かにサポートされている、腰がラク」とのことでした。
さらに締め付けの少ない「GSーBACK」「ソフトパワー」は問題なく動けました。ただし、そのぶんサポート力は弱めです。
どんな作業に向いている?
マッスルスーツは元々「介護施設の入浴補助がキツすぎて、従業員がすぐに辞めてしまう」という課題を解決するために開発されたそうです。重いものを持ち上げる作業はもちろんですが、中腰で歩くなど、腰に負担がかかる体勢を長時間続ける作業のサポートに向いています。
現在は農業・建築関連・介護の売上比率がそれぞれ3割ぐらいずつ。農業関連ではイモ、果樹、レンコン、米など重いものを上げ下ろしする現場や、イチゴのハウス栽培など、中腰の体勢で収穫・運搬が必要な現場でよく使われているそうです。
農業現場でのチェックポイントと対応について
汚れに強いか
→水をかけて泥を落とし、そのままフックなどに引っ掛けて乾燥できます。金属部分は塩水での耐食試験をクリアしているそうで、濡れたままにしなければ大丈夫そうです。レンコン農家でも使われているとか。
長時間使用可能か、着けたまま車に乗れるか
→動力を使わないので、使用時間に制限はありません。しかし「エブリー」は腿に力がかかるので、慣れないと長時間の装着が苦しいかも。
慣れれば10秒から20秒で着脱できるので、休憩のたびに着脱すれば問題なさそうです。(車に乗るときも、脱いじゃったほうが早いです)
「ソフトパワー」は締めつけ感がないので1日着けていても大丈夫そうです。
暑くないか
→「エブリー」「GS-BACK」は腰をしっかりホールドするので、腰回りは結構汗をかきます。一方、背中は隙間があるので暑くないし、空調服の上から装着も可能だそうです。
各タイプを試してみての感想
私は「エブリー」のみ装着しましたが、他のタイプも装着した方々の感想は、「着けてラクなのはソフトパワーだけど、エブリーも慣れれば良いかも。しばらく使ってみないとわからないねー」
というわけで、1週間ほどお借りしていろんなスタッフに装着してもらい、評価を聞いてから決めることになりました。この農園は女性や高齢者のアルバイトさん、ボランティアさんで成り立っているので、うまく使いこなせれば強い武器になりそうです。
農業現場では「肩サポートタイプ」が大人気らしい
この日は市の農業担当者も来てくれたので感想を聞いたところ、「果樹園に肩サポートタイプを紹介したい」と話していました。
実は、私の知り合いの農業関係者からも「果樹園で肩サポートタイプを導入して、とても評判が良い」という話をいくつか聞いていました。特に梨やブドウなど、棚を作って長時間腕を上げる作業は負担がかかります。力がいるというより、同じ姿勢を支えるのが大変なのです。
また、最近は充電式の電動剪定ハサミが普及してきているのですが、重いので、これまた腕の負担になっているとか。
アシストスーツ協会の合同出張体験会もある
イノフィスさん含めアシストスーツのメーカーが加盟する「アシストスーツ協会」というものがあるそうです。
各社のアシストスーツを比較検討したいというメンバーが3社以上集まれば、合同の出張体験会を開いてもらえるそうです。(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県なら出張料無料、ほかは交通費実費)
価格もだいぶこなれてきましたし、今は多くの自治体で、アシストスーツなどの「スマート農業」導入に補助金が出ています。(さいたま市の場合は50%補助)
興味のある方は、いちど体験してみると良いですよ。ぜひ問い合わせてみてください。
私の開業の経緯はこちら
マイナビ農業で、私の開業についてご紹介いただきました!
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