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中小小売業の生き残り策 4つの方向性と事例

中小企業診断士のフクダです。
前回は、中小小売業の生き残り策として、いま中小小売業の周りで何が起きているのかを書きました。

その中で、生き残る中小小売業について4つの方向性を挙げました。

  • 専門化 ターゲットを絞り、徹底的にニーズを深掘りする

  • サービス業化 顧客の課題を商品とサービスの双方で解決する

  • 高付加価値化 加工度を上げて、利益率の高いオリジナル商品を作る

  • コミュニティ化 顧客と親密な関係を築き、顧客にとって特別な店になる

今回は、具体的な生き残り策について、実例を挙げながらお話します。


専門化 ターゲットを絞り、徹底的にニーズを深掘りする例

私が出版業界にいた頃、担当した書店の中でも特に異彩を放っていた書店が、書泉でした。一時期、店舗拡大してまた縮小しましたが、今も神保町の「書泉グランデ」と秋葉原の「書泉ブックタワー」は独自の地位とファンを保ち続けています。

大型書店や、学術書などの専門書店はたくさんあります。書泉の特徴は、いわゆる「マニア」に特化した品揃えの書店です。
大型書店ですが、一般的な学習参考書や女性向けの実用書などはほとんど置いていません。鉄道、アイドル、プロレス、コミック、ミリタリーなど、趣味に特化した「狭く深い品揃え」、さらに書店員さんの深い知識と、出版社や関連業界とのつながりが強みです。
例えばアイドルの写真集発売日にはサイン会を開催して、ネットショップでもサイン本を発売します。鉄道会社とコラボした鉄道部品の販売イベントは、整理券が抽選になるほどの人気です。書店の面白さは平台(ひらだい)の構成やPOPにもあらわれます。ネット書店では得られない「熱気」もお店に行けば味わえます。ある種のマニアにとっては「聖地」となっているお店です。

他にも有名な例では、元々プロの洋菓子店やパン店向けのプロショップから「お菓子作り・パンづくりを趣味とする人のための小売店」として店舗拡大した「富澤商店」などがあります。

サービス業化 顧客の課題を商品とサービスの双方で解決する例

仕入れて売るタイプの小売店ではありませんが、私が「課題解決力がすごい!」と思った小売店が「夜のケーキ屋さん」。

お店の場所は歌舞伎町と博多の中洲。どちらも国内有数の「夜の街」です。このお店のメインターゲットはキャバクラやホストクラブ。どちらもキャストさんの誕生日は大きな「稼ぎ時」です。このお店は、豪華なオーダーメイドのケーキと深夜営業・配達のサービスで、夜のお店の大イベントを盛り上げるという「課題解決」に貢献しています。

ケーキもかなり独特です。フードプリンターを使ってキャストの顔写真を印刷したり、札束の形をした「億万長者ケーキ」などもあります。instagramには芸能人の誕生日ケーキが並び、フォロワーはなんと2.9万人。ピエール・エルメの3倍!
たまたま、知人のご子息がこのお店で修行中と聞いて知ったのですが、ターゲット顧客のニーズを的確にとらえて、競合となる有名スイーツブランドに対抗している素晴らしい例だと思います。

他にも、業務用の酒販店(酒屋さん)は、飲食店向けに開店のサポートやポスター、ショップカードなどの販促物制作、Webサイトの制作やSNS対策など、飲食店が苦手とする分野をお手伝いするサービスを提供して、大手安売りチェーンに対抗している例もあります。

高付加価値化 加工度を上げて、利益率の高いオリジナル商品を作る例

加工度を上げる、というとPB(プライベートブランド)のように、大手スーパーなど大型小売店でしかできないと思われがちですが、そんなことはありません。

都内に6店舗を構える「旬八青果店」は、野菜や果物を仕入れて売るだけでなく、野菜たっぷりのお弁当やお惣菜などに加工して販売しています。

https://shunpachi.jp/

こちらのお店は一時急拡大して、その後コロナなどの影響もあったためか店舗数を減らしているのですが、最近では経営も落ち着いてきたようです。

加工だけでなく、産地と直接契約して「見た目は悪いが味は変わらず、収穫量が増えて価格が抑えられる」栽培方法に変えた果物を一括仕入れすることで、お客さんも買いやすく、産地にとってもメリットがある仕入れ方法をとる、販売に関して徹底的にDX化を進めるなど、様々な工夫をして利益率を上げています。旬八青果店の利益率は、青果店としては驚異的な50%だそうです。(出典:さくマガ

他にも、大ロットの商品を買いやすく小分け販売したり、近隣のお店とのコラボ商品を企画するなど、中小小売店でもオリジナル商品を販売できる余地はたくさんあります。

コミュニティ化 顧客と親密な関係を築き、顧客にとって特別な店になる例

このタイプで代表的なのは、アウトドアショップやスポーツ用品系のお店です。
以前、個人経営のアウトドアショップで、ファルトボート(折りたたみ式カヌー)を買ったことがあります。30万円ぐらいする高額品です。
そのショップでは頻繁にお客さん向けのカヌーツアーを開催していて、カヌーを持っていなくても貸し出してくれました。(ここはサービス業化ですね)
オーナーともお客さんとも仲良くなる中で、どんどん他のお客さんが乗っているカヌーやキャンプ用品が気になってきて、ついに自分でも買ってしまいました。こういったプロセスで購入する場合、他に安い購入方法があったとしても、顧客はなじみのショップで買うようになります。
スポーツ用品のお店でも、初心者用のレッスンを開催するとか、オーナーやスタッフがメンテナンスの相談に乗ってくれることが多いですね。顧客が勝手にお店の「宣伝係」になってくれることも、このタイプのお店の強みです。

やれることはたくさんある

色々と例を挙げましたが、皆さんにもお気に入りのショップがたくさんあると思います。中小小売店の面白さは、大手では絶対にやれないような個性ある品揃えと、クセが強い店主とのやりとり。リアルでもネットでも、面白い中小小売店が生き残ってくれたらよいなと思っています。



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