見出し画像

買いたくなる本屋

なんでしょう、あのムードは。
昨日、他の店を探して知らない道をさまよっていた最中に偶然見つけた、小さな新しい個人書店さん。ガラス張りです。
変わった店名だな~と思いつつ惜しくも通り過ぎると、なんとその隣の店で目的を果たせたので、そそくさと戻りました。匂うぞ、匂うぞ。

なにせ、本屋さんを新しく建てること自体が今や偉業ですよ。入らずにはおれぬ。
背が高めの(わたくしがチビなのですが)男性が、とても柔らかく迎えてくださいました。きっと偉業のひとです。
オープンして一、二カ月かな、と感じたのは、その新鮮さが醸し出す清潔感。文字通り、ちりひとつありません。どこにも。棚の隅にも、硝子窓にも、床にも。
本も新刊書ですが、どこも傷んでいない。いつも以上に慎重に本を手に取りながら、いつしか入り込んでいました。
その理由は今思えば、種別表示が一切無かったからです。目の前のテーブルから始めて、棚に沿って見入っているうちに、なんとなく塊が分かってくる。

途中、先にいらしたムッシューがお買い物の際に「最近は料理分野が増えましたね」と言い残して出ていかれました。そうなんだ。
ぐるりとゆっくり回って、外に向けてディスプレイしてあった本を上から覗き込んでいると「何かお取りしましょうか」とお気遣いいただきました。
と、
おやと思い
「これって、このお店の名前、、、」と本を手に振り向くと
「はい、小説ですから、お好き好きもあってひとそれぞれですが、まあ、僕はいいなと思いまして」と、これまた控えめなお話しぶり。

もうこれ買うんだ、と決めた本はあったのですが、ついもう一周。
その間に、こんにちは、といらしたご夫婦。予約本はあったようですが、店内を見てから帰られました。
海外文学、日本小説、エッセイ、精神世界、社会問題、アート、動物、宇宙科学、料理、紀行という感じでしたでしょうか。
それぞれの分野がある程度テイストを持って絞られているのは、店主の個性だな、と感じました。

お会計時にとても驚いたのは、もう1年半前にオープンしていたとのこと。それで、この清々しいばかりの清潔感をそのまま保っているとは、いったいぜんたいどういうわけなのか。
な~んにも無駄を感じない、モノが溜まっている滞りの気配がない本屋さんです。規模的にも、きっと本の補充ストックなどなさそうな、ほとんど現時点で1点物なのではないでしょうか。
珍しい本というわけでもないのですが、なんだか一冊一冊の本全冊が、買われるのをバッチコ~イと準備している様子なのです。
頭で考えれば当然なことなのですが、他にこんなムードの本屋さんを知りません。
ひと言にするならば、本の扱いが抜きん出ている。

現代は、店頭に並んだ本の大半が出版社に戻されるそうですね。
クロネコヤマトさんの各営業所で印刷機を配備し、そこでデータで飛ばした本を製本して配達する未来はすぐそこまで来ている、とは去年ある作家さんからお聞きしましたが、本のアイデンティティー(?)が随分変化しつつありますよね。
本屋さんが通販になったと、昔はアマゾンにもびっくりしたものです。時代は変わる。

今日この記事を書きながらあの店を思い返してみれば、わたくしはそういえば、まるで寺社仏閣に参拝するのが目的のごとく入る前から買うと決めていました。
滞在時間は、20分ほどだったはずです。
また来ます、とお伝えするととても嬉しそうにご丁寧なご挨拶をいただきました。

この近所の花屋さんでは、愛猫の無農薬猫草を取り置きしていただいています。早速聞いてみると
「ああ、あの何だか珍しい名前の。。うん、聞いたことあります、ちょっと個性的で、好きなひとは好きだろうって話で」
そのひとはわたくしですよ。
猫草を調達のたびに本買いに行きます。何買うかは知らないけど。
今回は早速、購入したこの本を横目に、愛猫に成果を発揮いたしております。

中桐由貴著 『ねこほぐし』 産業編集センター、2023年。






いいなと思ったら応援しよう!