昔の出来事を夢に見た。ビデオテープのように。
遠い昔の友達と久しぶりに会った。20年ぶりだ。
昔の職場の同期だ。お互い歳をとった。
最近の仕事の話、当時の好きな人の話、一緒に撮った写真の話し。
不思議なくらいあの頃の自分に気持ちが戻る。
記憶が次々と戻る。まるで勢いよく吹いたシャボン玉みたいに太陽の光を浴びてキレイにまぁるくやわらかく…。この手に届かなくともその記憶たちは今まで決して不幸ばかりじゃなかったことをゆっくりと思い出させてくれた。
同期と会って楽しいのも束の間、いつもの生活、慌ただしくタスクをこなす日々が戻った。
嫌な日が近づいている。明日は癌の経過観察結果を聞きに外科の受診日だ。そのため仕事も休みをいただき3ヶ月に一度の不安な日になる。
そのため、昨日は早めに寝た。
その夢の中で、若かりし自分が当時の好きだった彼氏に激怒してる夢を見た。
言葉にするのも恥ずかしくらい、好きだから一緒にいてほしかったとか、ひとりにしないでとか、夢の中で冷静に話す彼にいらだち感情的になっていた。彼に寂しかった気持ちを、泣きながら怒ってる自分。
お互い仕事が忙しくすれ違って行き、話し合った当時が夢の中で古いビデオテープを回してるかのように感じた。
あの頃本当は、こんなふうに泣きながら怒りたかったんだなぁと…。わかってよ!とわがままを言いたかったのだと。振り乱して甘えればよかったと少し後悔したくらいだ。
夢を見てるのに…。
自分で泣きながら怒ったりしなかったことを思い出していた。
ほんとにこの人のことを好きだったのだと、淡い恋心がうずいた。
起きてから「会いたい」なんて心の中でつぶやいた。
夢の中で激怒できてよかった。
北海道へ大雪の中旅行したこと、石垣島へ夕日を見に旅行したこと、東京への帰りのバスの中で無言で手を繋いでいたこと。
今日は検査結果を聞く日なのに、それどころではないくらい心を昔の思い出に持ってかれてること。
もし、結果が悪かったら。
もし、人生の期限があったら。
昔の彼に会いたいと思ってる自分にバカバカしくて、うわついてるシャボン玉みたいな気持ちになんだか強く否定することができないでいた。
やがてこの気持ちも、時間も、忘れ去って日常に戻るのなら思い出に身を預けるのもいいのかもしれない。
いつもなら検査結果をを聞く前、生きた心地のしない殺伐とした気の持ちようで自分の順番待ちをしていたのだから。
会えるなら会いたい。
彼と人生を共にする結果に至らなかったからそう思うのか?
一緒になってても癌だったかもしれないし、いろいろ違ったなんて都合良くは思わない。
けど、残り人生の時間がどれだけあるかわからないが、これからの生きられる時間を一人より、彼と過ごしたいと思ったのだ。
診察を終えて、結果に安堵した。そしてまた3ヶ月後の定期検査の日を決めて、歩み出す。
身体が衰えたり、悪くなったらする事は避けられなくとも、日々の小さなことが生きてることを実感させてくれる。
今日は、夢のおかげで病院の待ち時間が怖くなかった。
夢のおかげで空っぽじゃない日があったことが思い出せた。
病院を出て薬をもらいに薬局へ行く。
薬局を出てトイレットペーパーを買いにドラッグストアへ。
次は食材の買い出しにスーパーへ。
こうして、次から次へと人生を前に進めて行くのだろう。
やがて夢を見た感動も、思い返した時間も忘れ去られて行く。
それでいいのだと思った。
それが自然だと思った。
今日だけは昔を思い出してもいいと思った。前に進むための原動力になるかもしれない。一人で静かに温かな思い出をめぐらそうと思う。
友達にも、夢にも、なんだか感謝してる。
身体には手術の傷、心にも多少なりとも傷やら痛みがある。
全部は癒せないかもしれないけど、全力で毎日頑張ります!って生きるより、今は、消えたり消えなかったりする傷も含めてゆっくり歩もうと思う。心の中のビデオテープをゆっくり見て、アナログでもいいのかもしれない。