ラギッド・ガール感想
著者:飛浩隆
ジャンル:SF
廃園の天使シリーズの一作目『グラン・ヴァカンス』に続く、前日譚や舞台裏に関する物語の短編集。
※否定的内容に傾いていると思いますので注意。
自分は学がない方の読者だというのを先に言っておくが(予防線ともいう)
この人の話はなぜいちいち官能が絡んでくるのか謎だ。
SFの世界観的に、AI同士のデータ上の支配や侵略、感染という現象を、人間感覚で言うと性感になるというのは分かるのだけど、なんというか……好きではない。
連体子やら硝視体やらの"それっぽい"用語の後に、オナニーよろしく感じ出すので気が滅入る。
つい最近ハンチバックを読んだ時もそう思ったが、文学家は著書内で性癖を出さないと生きていけない性分なんだろうか。
それはさておき、各話ごとに割って感想を書きたいと思う。
夏の硝視体
グランヴァカンスに直接繋がる前日譚。
前作は個人的には読みやすく、陰惨な舞台設定だが展開がはっきりしていて、ある種の冒険ファンタジーとして読めた。
この話はその延長線上(時系列は先になる)にあるので、同じ心構えで楽しめる。
前作の補完みたいな面もあるが、ふわふわさっぱりした読後感。
ラギッド・ガール
主題作だけあって1番面白い。
ざっくり言うと、夏の区界の住人たちとゲストたちが、「情報的似姿」という技術によって成り立っていて、それを作った人々の話。
阿形渓と杏奈、あとドラホーシュ教授が謎掛けしあって話が進んでいく。
しばらくは区界の成り立ち、仕組みについて、インタビュアーを通して説明がなされるが、オチに入ると急転直下。
そう行くんだ!?という意外性がある。この人が書く話のテイストとしてはもはや安定感すら感じさせた。
クローゼット
ホラー。
ラギッドガールに出てきたカイルから、ガウリというガールフレンドに繋がって、更に蜘蛛や、視床カードを通した多重現実のもたらす少し未来の話。
ガウリ、たがね、あとここでは既に死んでしまったカイルを中心に話が進む。
死んだ恋人の影を追う=似姿を使って話をする、という方法を取るのが切ない。
途中からバケモンみたいな杏奈が出てくるので、ワクワクする。
ここで出てくる内部に図書館を持つ蜘蛛、っていうのが「蜘蛛の王」で出てくるランゴーニの<白紙のAI>だと思うんだけど、ランゴーニの父はたがねなんだろうか?
魔述師
区界の似姿として存在意義を感じられずにいるレオーシュ君と、そこはかとなくジュリーっぽいサビーナ、そこはかとなくジュールっぽいコペツキ(蜘蛛衆の水寄せしてるからウーゴかもしれない)、というAI達。
他方で、現実世界ではジョヴァンナダークという反・区界運営の女性へのインタビュー。これが交互となって展開する。
(ここでも出てくるインタビュアー。飛さんの話の展開のさせかたには、『ハイペリオン』を思い出す所がある。)
このシリーズ最大の大事件、大途絶<グランドダウン>が起きた経緯が判明する。
ジョヴァンナダークの言い分は、最初は無茶苦茶な人権家のように見えるのだが、事情がわかると同情するし、何も言えなくなってしまう。
これは現実世界でも同じことが言えると思う。ジェンダー、ヴィーガン、反ワクチンなどなど……。
何も知らずにモノを言うべきではないし、知ろうとしなさいよ、と言われた気がして身に染みた。
蜘蛛の王
これは……言うならば戦闘アクション小説。
ランゴーニの誕生経緯についての話。
戦闘描写は確かに秀逸で読み応えがあるが、私は長すぎてダレた。
しかもランゴーニって、前作を読んだ身からすれば仇みたいなものなので、あんまり深く知らなくてもいいかな、みたいなね。
まとめ
「ラギッドガール」や「クローゼット」は好き。
中には苦手な章もあった。
官能成分が前作以上に多いので、そのつもりで読まないと胃もたれする。