田舎暮らしとベランダのある家
3月の終わりに今の家に越してきた。
生まれ育った街、大学時代を過ごした街、そして新入社員を乗り越えた街。
県は違えどどの街も県庁所在地で、特別都会人なわけではなかったけれど、
この町に越してきて初めて町民になった。
前の街では1LDKのアパート。
広い家だったけど、1人でいるには空間を持て余し過ぎた。
今は11畳の1K。部屋は2階でベランダがついている。広くは無いけれど、このくらいで今の私には十分だ。
日中ベランダから見える景色のほとんどは緑で、窓を開けるとさわやかな風が部屋に入ってくる。
1時間に1回はローカル線が走る音が聞こえてくるけれど、2両編成の電車がガタンゴトンと通り過ぎるのは、東京にいた時の電車の音とはまるで違う。
夜になると、周りは驚くほど暗くて、代わりに星が綺麗に見える。虫の鳴き声が聴こえる。
初めての本格的な田舎暮らし。
いくら田舎暮らしと言っても、
今時アパートに住んでいると、
田舎暮らしで想像するような近所の人との交流はないけれど、
それでも、窓を開けてベランダに出るだけでこの町の良さを静かに感じることができる。
社会人になってからこの町に来るまでの2年間、
接客業をしていたら色々な人に出会う。
電話口で1時間以上も暴言を吐かれたり、面と向かって酷いこと、理不尽なことを沢山言われた。
初めのうちは、ショックを受けてその度に数日間、ひどい時は1週間は引きずった。
だけど次第に、何を言われてもあんまり何も思わなくなって、
強くなったと言えば聞こえは良いけれど、
何か大切なものを失っていく自分が恐ろしくなった。
だけど、この町の人はおおらかな人が多いと思う。
無理を言う人は少ないし、
大半の人は口調も柔らかく、
初めて会った見ず知らずの私にも、
丁寧に話をしてくれる。
もちろん色々な人がいるけれど、
それでもこの町の、
人のあたたかさと、
自然が、
少なくとも私がこの町に来る前よりも、私の心を解いてくれている気がする。
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