町の灯り

  目覚めると身体が軽い。

どうやら、熱は下がったようだ。

ベッドの中で微睡みつつ、軽くなった体と頭でここ数日のことを考えた。

ひろみがこの部屋に来ていたことが随分前に感じる。

「君は何をしたいのかな?彼女の気持ちが気になるのだろう?じゃあ、確認すれば良い。」

そう自答自問するが、何処か気持ちの中でスッキリしない。

それが何なのかもわからない。

だから、行動に移せないのだ。

 
 外はまだ暗い。

時計を見ると朝の4時前だ。

昨日の昼過ぎからずっと眠り続けてたことになる。

一度も起きることなく寝ていた。

当然、彼女からの電話にも気がつかなかった。

「俺のこと、心配してくれてるかな?
しかし、よく寝たな。
あの温泉が効いたようだ。」

そう思うが、あまりに早い目覚めだ。

電話するにも早すぎる。

黙ってじっとしていられない。

釣りにでも行こうかな。

海まで車で5分程だ。

「会社に行くまで釣りをしよう。
夕食の魚を釣るのだ! 
カレイでも、ホッケでも良い。
デカけらば最高!」

釣りをして気分転換をしたい。

ここ数日のことを振り返りながら、この先のことを考えるつもりだ。

夜明け前の町の灯り見ながら、潮の香りを嗅ぎつつ竿を振るっていうのがナカナカ良いよね。

 しかし、漆喰の海に向かって竿をふるがただ寒いだけである。

海面を渡る風が冷たい。

頬はカッターで切りつけられたように痛い。

風を遮るものなどない。風の音と消波ブロックに当たる波の合間に遠くで汽車の音がする。

車の音が聞こえる。

少しずつ明るくなり始めていく。

町の灯りも弱くなっていく。

新しい1日が始まる。

そう思うと、なぜだか無性にひろみに会いたくなってきた。

続く



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