どっぽ

非日常なこと、何となく小説のようなものを書いてみたいと思います。 気が向いたときに書い…

どっぽ

非日常なこと、何となく小説のようなものを書いてみたいと思います。 気が向いたときに書いて投稿します。

最近の記事

霧の彼方で

 一面霧が白く立ちこめている。 真っ白で視界かなく、右も左もわからない。 暗くはないので昼間のようだ。 恐る恐るゆるゆると足を出してみる。 どこからか森の香りがする、いや夏の木々の香りのようだ。 風もなく、音もない。 そこに存在しているのは、自分一人のように思えてきた。 ひろみは裸足で歩いていることに気がついた。 その裸足の足の裏に心地良さが伝わる。 歩みをとめてまわりを見渡すが、やはり一面白い霧で覆われている。 どこにいるのかもわからないが、不思議と怖く

    • 暴走

       ワクワクしながら車を走らせた。 「どんな顔するかな?驚くぞ。」 ハンドルを握りつつニヤニヤする自分がいる。 太陽が昇り一気に気温が高くなった。 路肩の雪がとけていく。 山の頂はまだ白く、木々はまだ芽吹いてもいない。 晴れた空と雪の被った山並みが綺麗である。 臥牛山。 牛が伏せたような格好に見えるというが、どこから見たらそう見えるのだろう。 そんなことをぼんやり考えながら駒ケ岳の横を走っていた。  釣りに行ったが何も釣れず、夜が明けた。 正確に言うと、手

      • 灯台下暗し

         春の雪は、一瞬でとけて消えてしまった。 気がつくと、町のあっちこっちに花が咲き始めている。 花のことは詳しくはないが、クロッカス、チューリップ、水仙くらいはわかる。 雪解けを終えた色のない世界に、突然花を見つけると「あお、春だな。」と頬が緩む。 営業で車を運転しつつ、色彩ののった季節を楽しんでいる。 夕暮れになると、冬のような寒さが訪れる。 会社に戻らなければならない時間だ。 もどりたくはない。 あの陰気な空気感。 管理したい会社とされたくない私。 女性

        • 忘れな草

           ひろみの平日の日常は、仕事を中心としたサイクルで一日を過ごしている。 いや、過ごしていると言うよりもこなしているという方があっているように感じる。 まるで業務のように1日のサイクルをこなしているのだ。 そこに感情はない。 あるのは、日常の業務化でしかない。 その業務化された中で心だけはいつも別のところにあった。 剛とのことをずっと考えていた。 剛と付き合い始めてから、日記をつけている。 初めは、簡単に何をしたとか、どこに行ったとか、メモ程度のものだった。

          町の灯り

            目覚めると身体が軽い。 どうやら、熱は下がったようだ。 ベッドの中で微睡みつつ、軽くなった体と頭でここ数日のことを考えた。 ひろみがこの部屋に来ていたことが随分前に感じる。 「君は何をしたいのかな?彼女の気持ちが気になるのだろう?じゃあ、確認すれば良い。」 そう自答自問するが、何処か気持ちの中でスッキリしない。 それが何なのかもわからない。 だから、行動に移せないのだ。    外はまだ暗い。 時計を見ると朝の4時前だ。 昨日の昼過ぎからずっと眠り続けて

          なごり雪 2 風に乗って

           列車を乗り継いで剛(つよし)に会いに来るのはひろみにとって一番の楽しみだった。 地方と地方の遠距離恋愛は、簡単に会えないのが辛い。 どちらかが札幌に住んでいるのであれば、今よりももっと頻繁に会うことができるのにといつも思っていた。 遠距離恋愛になって約1年となる。 最近、それが何となく「楽しみなんだけど、ちょっと違う。」と感じはじめている。 相手の気持に自信が持てないのだ。 以前なら、剛(つよし)の気持ちはよくわかっていたと言うよりも、「誰よりも私が一番だ。愛さ

          なごり雪 2 風に乗って

          なごり雪 1

           3月31日の未明からミゾレが降りはじめていた。  夜明け前にアパートの立ち並ぶ裏道に1台のタクシーがハザードを付けて停まっている。 一番近い棟の一階のドアが開いた。 「じゃ、帰るね。タクシーが来ているから。荷物は後で送ってくれればいいから。別に急ぐものが入ってないし。」 ひろみはそう言うと、大粒のミゾレの降る中に飛び出していった。 私は「うん、わかったよ。」と答えるのが精一杯だった。 その声すら、彼女に届いたのかさえわからない。 見送る私を振り返ることもなく、

          なごり雪 1