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無職合宿

5月の免許合宿にあつまる人は珍しい。
この時期、教習所は閑散期を迎えていた。

学生は長期休みではないし、社会人はもちろんそんなまとまった休みを取れることは滅多にない。

そのため、この時期に入校する人は無職orフリーター、通信学校に通う学生だ。

フリーターもそれぞれだ。高校は卒業したが、やりたいことがなくなんとなくバイトをしている19歳。高校中退、通信学校もやめた16歳。

無職に関しても、3月に大学を卒業して内定はあるものの、8月の入職を待つ22歳。職を失い、奥さんに逃げられた42歳。など。

免許を取る理由も様々。
仕事で使う、暇だから、前から興味あったから...etc

私は、なんとなく教習時間以外の時間を奥さんに逃げられた42歳と時間を共にすることが多かった。

「マサと呼んでくれ」彼はそう言った。
彼は、歳の割には若い見た目をしていて明るい男だった。また、なんというか、大学教授のような話し方をする。

マサは、自分から口は開かなかったものの、なぜ免許をとりにきたか?と言う問いかけに対して、話すことを我慢していたかのように自分のことを話し始めた。

数ヶ月前に精神的に不安定になり、自殺未遂を繰り返しており、それにうんざりした奥さんが家を出たという。

平日の昼間に、シラフ状態の初対面の男にえぐみの強すぎる話題に正直、面食らってしまった。

初対面の人と話す時には、地雷に気をつけろとはいうが、足元に注意して歩いている人にグレネードを投げてくる人もいるようだ。

私は、間を開けずびっくりしていないようなトーンで「へー、そうなんですね」と返した。(爆死)

子供は3人いて、全員奥さんについて行ったらしい。マサもマサで、「いやー、勘弁してほしいよねー!」と全然効いていないかのように話す。

強がっているようにも見えない。人が良さそうなだけに、不思議な男だった。

私は、なぜそんな彼が自殺未遂をするまでに追い込まれたかという、ピュアで自然な質問をする勇気はなかった。

今思えば、マサの暗い部分が見えたのはこの時だけで、その後は若者に混ざり女の話をして盛り上がっていた。

その中でも時折、同棲するとこんなことが大変だ。だとか、子供が産まれたらこんなことをする(こんなことはしない)べきだと言った人生の先輩的視点で話すことがあった。

その時、彼の家庭の影が見え隠れしたが深くは踏み込まず、経験を交えながら一般論として話していた。

また、離婚を前向きに捉えている姿が印象的だった。若者に教えてなもらいながら合宿中は熱心にマッチングアプリをしていた。

妙に前向きで行動力があるマサと、あの日話していたエピソードが、私の中で違和感として残った。

無理をしているのか、精神が完全に回復したのか、そもそも全部嘘だったのかはわからないまま私は卒業した。

卒業後、彼から連絡が来た。
どういうわけか、免許取得後はホストをするらしい。終わりなき不思議だ。

東京で働くみたいなので、また会うこともあるかもしれない。






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