今日もaudible 第14回: Lessons in Chemistry by Bonnie Garmus
audible uk の会員ですが、リンクは日本版のaudibleにしました。
audible uk については下記をご参照ください。
今日もaudible: ところで audible uk って何?
軽く読後感想
久々に夢中になって聴いてしまった。
毎晩寝る前にaudibleのタイマーを10分か15分かにセットして、何かを聴きながら眠りに入るのだが、だいたい5分もせずに寝ていることがほとんどである。
しかしまれに、セットしたタイマーが切れるまで聴き入ってしまい、何度かセットを繰り返す作品がある。
Lessons in Chemistry もそんな作品だ。
気がつくと1時間以上経っており、このままタイマー延長を続けていては翌朝仕事に間に合うように起きられないと不安になりながら、数晩を過ごした。
ストーリーとナレーターの組み合わせがぴったりな作品に出会えた時は本当に幸せだ。睡眠時間が削られるのはあきらめるしかない。
ドラマ化
こんなにおもしろかったらとっくに翻訳が出ているかと思ったが、まだのようで、検索して出てきたのは Apple TV のドラマだった。
おそらく翻訳はどこかの出版社がいま大急ぎで行っていることだろう。
1950年代から1960年代のアメリカで、家事と育児だけが女性の役割だと、男性が身勝手に思い込んでいるだけでなく、女性たちも仕方ないが当然のこととして受け入れてしまっている中、家族のせいで子供時代につらい経験をした主人公は、自分よりもはるかに無能な男性たちに何度も卑劣な仕打ちを受けながらも、化学者としての自分を見失うことなく生きていく。
主人公の生きる姿勢は、いつしか周りの女性たちだけでなく同時代を生きる女性たちに、それまで考えたこともなかったであろう自分自身の価値や可能性に気づかせるのであった。
Game, set, match.
ここまでの文章が長くなってしまったので、本稿で取り上げる英語表現はこの1つにする。引用は紙の本からではなく、私が聴き取ったものである。
勤務先のカフェテリアで、主人公Elizabethと恋人のCalvinが言い合いになってしまっているのを、同僚たちが観察している場面である。
"I don't want to marry you any more."はCalvinの発言で、"Game, set, match."と"Box is back in the pocket."は観察していた同僚の発言である。
Calvinの化学者としての才能と実績、Elizabethの美貌(Elizabethの化学者としての才能を上司も同僚たちも認めようとしない)は、常に同僚の嫉妬の種である。
引用したのは、Calvinが意を決してプロポーズしたところElizabethは承諾せず、結婚する気がなくなったとCalvinがElizabethに言い放つ場面である。
興味深げに成り行きを見ていた同僚のひとりが「決着がついたな」と言う意味で発したのが Game, set, match. で、指輪の入った箱をCalvinがポケットに戻したと実況しているが、本当にそうしたのかはわからない。
そう、ここの Game, set, match. は、日本語なら「ゲームセット」にあたる。スポーツに限らず、何かの決着がついたときに発する言葉である。
「ゲームセット」でひとかたまりか
ところで、以前配信サービスで「ベイビーステップ」というアニメを見ていて、テニス用語が気になった。
アニメの中でテニスの試合が終わると、審判が
「ゲームセット
マッチ ワンバイ ○○(勝った選手の名前)」
と言う。
「ワンバイ」の部分は「ウォンバイ」だったりもする。もちろん won by をカタカナで表現したものであろう。
「ゲームセット」はひとかたまりの表現としてテニスの時以外にも日本語として使われているせいか、上記の一連の文言を言うときの区切りが気になった。
「ゲームセット」でひと区切り、「マッチ ワンバイ ○○」でさらにひと区切りに、何度聞いても聞こえる。
国際テニス連盟による審判の用語
そこでそのアニメを見ていた当時、テニス用語の英語を調べてみた。
今回の記事を書くために、念のためもう一度、国際テニス連盟 ITF (International Tennis Federation) のサイトにて審判用のマニュアルを確認した。
マニュアルの17ページに下記の記載がある。
1ゲームが終わった後の審判によるコールの例として3例あげられている。
1つ目の例では、そのゲームに勝ったのはスミスで、その勝ちによって第1セットにおける獲得ゲーム数がスミスが4ゲーム,相手が2ゲームになったことを伝えている。
2つ目の例では、そのゲームに勝ったのはスミスで、その勝ちによって第1セットにおける獲得ゲーム数が互いに3ゲームずつになったことを伝えている。
3つ目の例では、スミスがそのゲームに勝ったことで獲得ゲーム数はスミスが7に対しジョーンズは5となり、第3セットはスミスが取ることになって、そこまでの獲得セット数はジョーンズの2に対しスミスは1であることを伝えている。
そして最終的に勝者が決まったときに審判が発する言葉が下記である。
このゲームを取ったことでこのセットを取り、さらにこのセットを取ったことでこの試合に勝ったということで「ゲーム セット アンド マッチ スミス(以下省略)」なわけである。ゲームを取ったのもスミス、セットを取ったのもスミス、マッチに勝ったのもスミスである。
さらにセットカウントが3対2であること、各セットにおけるゲームカウントもアナウンスされる。
これが基本で、たとえば先日のウィンブルドンで男子シングルスでルードという選手が勝ったとき(相手を忘れてしまった)には
Game, set and match to Ruud, (このあとセット数などもコールされているが観衆の声で聞こえず)
と主審がコールしていた。
結論
ここまででわかるように、本来であれば「ゲームセット」でひと区切りではない。「ゲームセット」は和製英語である。
今回の Lessons in Chemistry で出てきた英語表現もやはり Game set ではなく、Game, set, match である。
matchの前にandが入る言い方もある。
もちろん使う場面はテニスとは限らず、日本語になった「ゲームセット」同様、何かがこれで終了というときに使われる。
「白球の記憶」から
話がとぶが、NHKによる甲子園中継では、試合と試合の合間に名勝負を振り返るシリーズ「白球の記憶」が放映される。
そのエピソードのひとつに、昭和8年(1933年)第19回大会の中京商 対 明石中の試合がある。
25回5時間にわたって繰り広げられた死闘の勝負がついたとき、放送の実況が
「ゲームセット ゲームセット 6時3分」
と言っていることからも、この当時すでに「ゲームセット」が競技の種類を問わず使われていることがわかる。
辞書による「ゲームセット」の定義
試みに、手元の電子辞書で「ゲームセット」で一括検索をかけた。
・ 大辞泉「ゲーム‐セット【game and set】 球技の試合で、勝負がつくこと。試合終了。ゲーム。」
・ 明鏡国語辞典「ゲーム‐セット 〘名〙球技の試合で、勝負がつくこと。試合終了。▼game and set から。」
・ カタカナ語辞典[game set《和》]《スポーツ》試合終了. 【テニス用語のgame, set and match から】
また定義ではないが下記のような説明もあった。
・ ジーニアス和英辞典「ゲームセット game and (set) 〘テニス〙《♦×game setは誤り》
おわりに
Lessons in Chemistryは、本編のあとに27分間におよぶの著者 Bonnie Garmus へのインタビューが収録されている。小説執筆および映像化の裏話に興味のある方にとっても興味深いであろう。
このインタビューを聞いて、確実に続編が出るなと思った。
それでは今日はこのへんで。