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BLUE GIANTの話をさせてください

はじめに

立体班、イラスト・漫画班の鴨出汁です。

皆さんは2023年、面白い映画に出会えましたか?
私は前作よりさらに進化した映像表現が魅力の「スパイダーマン・アクロス・ザ・スパイダーバース」、宮崎駿監督の最新作でありジブリ独特の表現や白昼夢のような冒険の世界が楽しい「君たちはどう生きるか」、旧日本軍兵器の活躍に手に汗握りプラモデルも買ってしまった「ゴジラ -1.0」などが面白かったです。また12月末公開の「劇場版 SPY×FAMILY Code:White」も気になっています。

そんな中、見た瞬間から私の中で2023年映画第1位に輝き続ける作品があります。

2023年2月17日公開

「BLUE GIANT」

画像引用元:映画『BLUE GIANT』公式サイト

あらすじ

「感情の全部を音で言える」世界一のジャズプレーヤーを目指し、テナーサックスを手に仙台から東京へやってきた宮本大。
「ジャズを聞くやつは少ない、だから俺は本当の音で勝ちたい」と語る卓越した技術を持つクールなピアノマン、澤部雪祈。
大の高校時代の同級生であり、「とある出来事」を機に全くの初心者からドラムスを始めることになった玉田俊二。

この3人がジャズバンド「JASS」を組み「ジャズマンにとっての東京ドーム」である「So Blue Tokyo」で演奏するまでの1年半を描いた物語です。

今回は映画「BLUE GIANT」について、本作に繋がる仙台での物語が描かれている漫画版4巻まで読んだ上で、映画版を中心にネタバレにならない範囲で好きなポイントについて語っていきます。


好きなポイント

音楽面

本作はジャズという音楽を扱うアニメ映画です。アニメにおいて音楽面での表現に力を入れた作品は珍しくなく、最近の作品ですと「ONE PIECE FILM RED(2022)」や「ぼっち・ざ・ろっく!(2022)」が劇中歌において有名アーティストからの楽曲提供を受けていたことは記憶に新しいです。また、映画という媒体の特性を存分に活かし長尺の歌唱・演奏シーンを設けたアニメ映画としては「劇場版『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(2021)」や「アイの歌声を聞かせて(2021)」、「犬王(2022)」、先述の「ONE PIECE FILM RED(2022)」が挙げられます。

上記作品のパンフレット どれもいい作品ですよね

本作もこれらの例に漏れず音楽面の表現に力を入れた作品であり、ジャズシーンの最前線で活躍するピアニストである上原ひろみ氏に楽曲提供を受けています。漫画版3巻で作者が氏のライブに行ったことや、漫画版の帯にコメントを寄せられていること、そして劇中におけるJASSの楽曲は全てピアニストである澤部雪祈が担当していることからも本作にピッタリな人選であると言えます。また、演奏シーンも多く、特にJASSの演奏シーンでは長尺でじっくりと魅せるように構成されており、さながらJASSの演奏に立ち会ったかのような体験を与える作りとなっています。そして、本作の特徴としてエンドロールも含めたオリジナル曲の劇伴が上原ひろみ氏提供の楽曲であるという点が挙げられます。もちろん全てがジャズっぽい曲というわけではないのですが、この点はまさに大が目指す「感情の全部を音で言える」ジャズプレーヤーという点に通じる要素であると感じています。時にパワフルに、時にしっとりとJASSの3人と走り抜け、寄り添う音楽を作ってくださった上原ひろみ氏には深い敬意を表します。個人的には劇中でフレッド・シルバー率いるバンドが演奏した「Count on me」そしてエンドロールで流れた「ある曲」が大好きです。JASSの持ち曲として劇中に登場した3曲とは異なる曲調のその曲のタイトルがCパートで判明した瞬間「ああ、良いものを見たな」という気持ちになりました。


映像面

ジャズという題材を扱う以上、避けて通れないのが楽器とその演奏描写です。楽器、特に金管楽器の描写に秀でた作品として真っ先に名前が上がるのが京都アニメーション制作の「響け!ユーフォニアム」でしょう。本作「BLUE GIANT」もまた金管楽器であるテナーサックスの描写に力を入れている作品ではありますが、その方向性は「響け!ユーフォニアム」のそれとは別ベクトルで際立っています。「響け!ユーフォニアム」の楽器・演奏描写は基本的に「現実」に即し特に演奏シーンでは細かい部分の複雑な形状に至るまで繊細に描かれており、その描写がコンクールを目指す中での練習の厳しさや人間関係での葛藤にリアリティを持たせ、作品の空気感作りに貢献していると感じます。余談ですが今年の夏に公開された「響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜」でピストンを押した時のポスポスいう音が聞こえた時そのこだわりに鳥肌が立ちました。来年4月からの3期も非常に楽しみです。

閑話休題、一方で本作「BLUE GIANT」では宮本大が目指す「感情の全部を音で言えるようになる」を表すかのように「感情」に即していると思われる楽器・演奏描写が見られます。JASSの演奏が観客を圧倒した時の「サックスに反射した光が観客を稲妻のごとく照らす」、「サックスがしゃべるように歪み動きながら音を奏でる」、「力強く押された鍵盤が虹色に光ってしなる」という本作の表現は楽器を扱うアニメの中でも非常に独特なものであり、この表現もまた「響け!ユーフォニアム」のそれと同様本作の空気感を形作る要素であると考えます。1年に金管楽器を扱うアニメ映画が2本出るのもなかなか珍しいと思うので、気になった人は「BLUE GIANT」と「響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜」を見比べてみるのも面白いかもしれません。


物語の伝記的な性質

私は本作を映画館で鑑賞した当時、「東京で偶然巡り合い、ジャズをやることになった3人の物語」というストーリーであると捉えていました。しかし、原作4巻まで読んだ上で改めて鑑賞すると、この映画は原作と同じく「ジャズプレーヤー宮本大の伝記」という性質を持っている作品であると捉えるようになりました。

本作中では先述の主人公3人のうち澤部雪祈、玉田俊二がそれぞれジャズをやる上での壁にぶつかり乗り越えていく一方、「BLUE GIANT」という作品を通しての主人公である宮本大については映画「BLUE GIANT」内では悩む描写は少なく、愛嬌はありながらもどこか超人的な面を感じさせる作りになっています。映画の前日譚にあたる仙台編では大の人間臭い部分が垣間見えるのですが、それが東京編をもとにした映画ではあまり表に出ていません。(原作の東京編は未読ですが、映画化にあたって原作から削られたエピソードもあるそうなので東京編の時点において大は全く悩まないというわけではなさそうです。) これは尺の限られる映画という媒体内で大が赤、そして黄色い恒星から「BLUE GIANT」―「あまりに高温なため赤を通りこし青く光る巨星」のような世界一のジャズプレーヤーの片鱗を見せていくまでの徐々に温度を上げていく過程をストレートに描写するためであり、大が間違いなく「世界一のジャズプレーヤーとなる」と我々観客に確信させるための演出なのではないかと私は考えています。また、映画では物語の区切りとなる箇所に、単行本では最後にその物語やその巻で登場した人々が大とのエピソードについて語るシーンが入ります。映画では基本的に映画内で起こる出来事について語られているのですが、漫画版ではその巻の中には描かれていないエピソードについても語られており、「宮本大は今後どうなっていくのか」という劇中で大に巡り合ってきた人々が抱く感情に自然と感情移入できる作りとなっています。このような点から私は「BLUE GIANT」は宮本大の人生を追いかける「ジャズプレーヤー宮本大の伝記」という性質も持つ物語であると認識するようになりました。このアドベントカレンダーを書き終えたら漫画「BLUE GIANT」の5巻以降、そして続編「BLUE GIANT SUPREME」「BLUE GIANT EXPLORER」「BLUE GIANT MOMENTUM」を徐々に買い揃え、今後もその眩い光に照らされながら大の成長を見守っていきたいと考えています。

パンフレット

BLUE GIANTの劇場パンフレットはLP盤のレコードと同じサイズ、Blu-rayはシングル盤のレコードと同じサイズになっています。映画の描写を鑑みると「JASS」のレコードは出ていないと思われますが、もし「JASS」がレコードを出したら……というアイテムとして非常に秀逸なデザインのパンフレット、Blu-rayだと思います。

パンフレット(右)とBlu-ray(左)
紙スリーブ内のパンフレット表紙にレコード盤面が印刷されているのも良いですね

今のところ私はレコード収集の趣味は持っていないのですが、もし将来ジャズのレコードを集めるようになったらレコード棚の左上にはこの「BLUE GIANT」のパンフとBlu-rayを入れようと思っています。また、余談ですが私はこういう「劇中の世界観を引き継いだパンフレット」が大好きです。「BLUE GIANT」のパンフレット以外ですと原画袋の中にパンフレットと劇中に登場した架空のアニメをフィーチャーした架空のアニメ雑誌が入っている「ハケンアニメ!(2022)」のパンフレットや糸閉じと和紙のような手触りの紙を採用した「犬王(2022)」のパンフレットが好きです。

「犬王」のパンフレット(左下)、「ハケンアニメ!」のパンフレットに付属する原画袋(左上)と
架空のアニメ雑誌(右)

最後に

 ここまで好きなポイントを挙げてきましたが、先述した通り私はこの記事を執筆時点でBLUE GIANTの4巻までしか読んでいません。そのため、実は映画「BLUE GIANT」のベースになった「BLUE GIANT」5〜10巻や大の海外での活躍を描いた「BLUE GIANT SUPREME」「BLUE GINAT EXPLORER」 「BLUE GIANT MOMENTUM」は読めていないのです。理由としては巻数が多く躊躇していたことが挙げられます。しかし、Blu-rayを購入したこと、そして「BLUE GIANT」1〜4巻を購入したことで、先にも述べたこの作品が持つ「ジャズプレーヤー宮本大の伝記」という性質に心を撃たれ買い揃えようと決意しました。今後はこれらの作品を徐々に買い揃え追いかけつつ、様々なジャズを聞いていきたいと考えております。

それでは次回12月24日のアドベントカレンダーでお会いしましょう。
次回のアドカレではクリスマスイラスト等を掲載したいと考えています。

乞うご期待!

BLUE GIANT・ジャズ関連情報

BLUE GIANT関連

映画公式サイト

映画のオリジナル・サウンドトラック

映画公開記念の1~4巻セット、単体で買うより1100円安く、さらにポストカードがついてくるのでお得

1〜4巻に登場した楽曲をまとめたコンピレーション・アルバム

雪祈を主人公とした小説

ジャズ関連

この場を借りて私が好きなジャズプレーヤーの方や曲の一部を紹介します。

Thelonious Monk
高校時代からずっと聴き続けています。好きな曲を1つ挙げるなら「Straight No Chaser」です。

Cherokee/Clifford Brown
チェロキーは様々なアーティストが演奏していますが、その中でも宮本大が語るジャズの熱さ・激しさを体現していると思うのがこのチェロキーだと思います。実際に先述のコンピレーション・アルバムに収録されているチェロキーもこれでびっくりしました。

Liza/Oscar Peterson
熱く激しいピアノがかっこいい一曲。個人的には映画後半の雪祈が弾くピアノを思い出してしまいます。

サンダーボルト・メインテーマ用/菊地成孔
ガンダム・サンダーボルトの劇伴。フリージャズと呼ばれるジャンルの曲であり、コックピットでジャズを流しながら戦場を駆けるイオ・フレミングを体現するかのような曲。

バトル・オブ・ザ・バップ・ブラザース/バトルジャズ・ビッグバンド
バトルジャズの名の通り、強く攻めるかのような軽快なハイトーンが最高にかっこいい一曲。同バンドが演奏する「エヴリシングス・カミング・アップ・ローゼス」も好きです。

Days Of Wine And Roses/Oscar Peterson Trio
ここまで紹介してきた熱く激しい曲とは一転してしっとりとした音色が心地よい曲。こういった曲調のジャズはまだ未開拓なので積極的に聞いていきたいです。

以上、私が好きなジャズプレーヤーの方・曲でした。
他にも好きな曲は数多くあるのでそのうちプレイリストを作成・公開したいと考えています。






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