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未出版の本からの抜粋_カツ丼と5,000円の重み

上の子は、歩いて三十分は掛かる場所までアルバイトをしながら、家計を助けてくれた。暗い夜道を思春期の子が歩いて帰るにはどんなに怖かったことか。
自転車を買えばいいと思われるかもしれないが、自転車を買う余裕はなく、また、それすら頭になかったかもしれない。
 
ある日賄いのカツ丼を持って帰ってきてくれた。
嬉しかった、とても。
本人もお腹がすいていたでしょうに・・優しい娘に育ったことは嬉しかったが、不甲斐なさを覚え、今でもあのカツ丼の器を見るたびに当時を思い出し、お詫びをしたい気持ちになる。
これもまたある日の朝、私が目覚めると高校生にとっては大金であろう5,000円札が1枚と「食費に使って」と一行だけ書かれた手紙が机におかれていた。
涙が自然と流れた。申し訳なさ、5,000円の重み……おしゃれをしたい年齢でしょうに5,000円もの大金を渡してくれた。今でも手紙は手元しまってある。
 

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