読書記録#1 屋根裏のチェリー
「屋根裏のチェリー」 吉田篤弘
一人で高層階に住んでいると、まるで世界から断絶されたような気分になる。
日が落ちた時間帯に急に人の存在を確かめたくなって、深い時間を迎える前にと大急ぎで身支度をして外に飛び出し、そのまま、あてもなく闇の中を歩き回ってしまう。
「ここから出ないと」
「大丈夫」
「電車に乗り遅れても次の始発に乗ることができ る」
屋根裏にとじこもり気味のサユリが動き出すことによって、数人の人生が、磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、サユリの方向に向かって動いた。
自分が取り残されたわけじゃない。何かの先頭になるために少し時間を使っただけ。
オーボエが、皆を引っ張っていくための一音を出すその調整に時間がかかるように。
そして、世界はいつでも、私の動きを歓迎してくれる。
そんなような気がした。