見出し画像

「生物、君と」

あの日は、雨が降っていたと思う。
定食屋天晴亭の玄関先で、私が煙草を吸っていると人を引き摺りながら車が目の前に停車した。

引き摺られているのは君だった。

運転手が車から降りると君を何度も蹴り罵声をあびせ車に乗り走り去っていく。
その車のナンバープレートを眺めながら煙をはいた。
私のまたぐらの間から目と口が大きく発達して顔の大半の面積を目と口に占領されているミイラのような猿が顔を出す。

名前をポゥという。
ポゥはいつだって私の傍にいてまたぐらから時たまに這い出てきては何かしら呟いてニタニタと笑っている。
ポゥという名前は、私の母の命名だ。

ポゥ「早くしないと間に合わなくなるよ」
うるさいだまれ。ポゥを蹴飛ばすと私は君の亡骸の所まで駆けると君を力いっぱい抱きしめていた。
君の崩れた肉の感触が体に触れて体温が私に移動していく。
それが心地よくてまた力いっぱい抱きしめた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?