手形
「うわぁ・・・。これはちょっとガチなやつかもですねぇ・・・」
私は壁に付いたいくつもの手形を見ながら言った。
「これ、お店の誰かがつけたとか可能性ないですか?」
私は言いながらもその可能性はないなと思っていた。私の身長が180センチぐらい。その私が手を伸ばしてやっと手をつけれる位置に手形があった。それほどの身長がある人はそのお店にはいない。
その手形をつけた犯人は分かっていた。にわか信じがたい事だが怪談師としての最初のファンであり、この世のものでない女性だった。なぜそのこの世のものでない彼女が私の怪談のファンになった経緯はまた別の機会にお話しするが、兎にも角にもこの会場に被害が出てしまってるのは非常にまずい。店主側としても気味が悪いし、今後イベントをやる事自体嫌がられしてまう。
なんとなく原因は分かっていた。ちょうど昨晩イベントで手形の怪談の話をしたばっかりだった。恐らく彼女なりのアピールなのだろう。それだけでなく本番前から勝手に怪談用の照明がついたり音楽が流れたりしている。
「うーん・・・」
私は考えた。無理矢理どうこうするのもなんとなく良くない気もする。じゃあどうするか?
ファンであるなら正攻法でいくしかないか・・・
「私のファンであることは嬉しい」
私は突如誰もいない空間に向かって喋り始めた。
「しかし、これ以上お店に迷惑をかけるなら今後怪談は話ません。それが嫌ならこう言うことはやめて下さい。その代わり、私が今から怪談を語らせてもらうのでそれで納得して下さい」
私はそれだけを言うと怪談を語り始めた。誰もいない空間。見える観客1人もいないがおそらくそこに彼女がいるだろうと。
偶然なのかなんなのか、それ以降そういった怪奇な現象は私達の周りでは起きなくなった。
やはりこの世には理屈では説明出来ない何かってのはあるだなぁとその時私は思った。
*この日記に貼り付けてある写真がその時に壁に付けられた手形の一部です。