ブラームスはお好き? 【映画と音楽の深〜い関係】
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前回取り上げた村上春樹からの連想だが、同じく国際的評価の高い作家でありながらノーベル文学賞には無縁だった作家の一人にフランソワーズ・サガンがいる。
様々な事情があるのだろうが、つまるところ選考にあたるスウェーデン学士院の「良識的な目」にはサガンの作品が(村上作品同様に)インモラルな要素の強い「通俗小説」にしか見えなかったのだろう、というのが専らの憶測だ。
たしかにサガンの私生活はかなり乱脈でインモラルな面もあったようだが…
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ところで、フランソワーズ・サガンといえば、小説『ブラームスはお好き(Aimez-vous Brahms?)』を映画化した『さよならをもう一度(Goodbye Again)』(英仏合作)だろう。
とはいえ1961年の作品なので、さすがに僕も観たことはなかったが、ブラームスの音楽がどう使われているのかという興味から遅ればせながら原語版で鑑賞してみた。
プレイボーイの中年男ロジェ(イヴ・モンタン)と結婚を前提としない「自由な関係」で繋がっている装飾デザイナーで39歳の女性ポーラ(イングリッド・バーグマン)。そして彼女をひたむきに慕う14歳年下の青年フィリップ(アンソニー・パーキンス)との切ない三角関係が描かれる。
(う〜ん、確かにインモラルだ 笑)
そしてフィリップがポーラを初めてデートに誘う時の有名な口説き文句が「ブラームスはお好きですか?(Aimez-vous Brahms?」である。
( ただし映画の原語版では舞台はパリなのに俳優のセリフは全て英語なので“Do You like Brahms?”となっている)
つまりシューマンの妻クララと、彼女を生涯にわたって「プラトニック」に(?:^)愛し支え続けた14歳年下のブラームスとの関係が暗示されているのだが、そのエピソードを知らずに観たのでは、そもそもなぜ「ブラームス」なのかも分からない。
この映画についていえば、ブラームスは単なるBGMではなく、主題に深く関わっている。
だからこそ、映画ではブラームスの交響曲第3番第3楽章の甘美な旋律が場面に応じてクラシック、ダンス音楽、ジャズ、シャンソンと様々にアレンジされながら実に効果的に使われている。
原曲を知らなければそれとは気づかない形でさり気なく。
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ところでブラームスは生涯に交響曲を4曲しか書いていない。
3番の甘実な旋律にも心惹かれるが、人生の黄昏と寂寥感に溢れる4番には別の味わいがある。
第1楽章冒頭の第1主題、ヴァイオリンが奏でる3度下降−休符−6度上昇−休符の連続の技法は哀愁を醸し出す魔法の黄金律だ。
※ 【参考】
名演奏の誉れ高い録音