サニー・スポット 第28回
朝の天気予報では季節外れの大寒波襲来が告げられていたが、予想外に急速に発達した低気圧の影響で、北西風が激しくなり予報よりも状況が悪化した。車のラジオは警報級の大雪として、厳重な注意を呼びかけている。最大瞬間風速三十二メートルを記録し、ホワイトアウトが襲いかかる暴風雪で渋滞する中を、高藤のハッチバックの小型車はのろのろと進んだ。フロントガラスに積もる雪がシャーベット状になって凍り付き、内側から暖気を当てて融かさないと、ワイパーだけでは視界が確保できなくなっていた。
雪は一向にやむ気配を見せない。高藤は、渋滞での長い停止時間を利用して杏子と携帯で連絡をとり、遅くなるが心配は無用と伝えた。しかし、渋滞はますますひどくなり、十時を過ぎた頃、自宅まで一・六キロほどの片側一車線の道路上で、数十台の車と連なって完全に立ち往生してしまった。
高藤はまったく動けなくなった車内で、まずガソリンの量が半分以上残っていることを確認し、靴を脱いで後部座席に移り、コートを着込んだ。さらに車内灯をつけて座席の後ろのトランクを物色し、軍手とピクニック用の小さなレジャーシートを見つけた。コンソールボックには、朝の飲み残しのコーヒーが半分入ったプラスチックカップ、グローブボックスには、一本だけ入ったカロリーメイトの箱があった。
先刻通り過ぎた二キロほど後方にはガソリンスタンドやコンビニがあり、漆黒の闇の中でその辺りの空がほのかに明るいが、歩いていくのは却って危険だろう。食べ物がほんのわずかなのが残念だが、夜が明けるまでの数時間の辛抱だ。杏子と夜半過ぎまで携帯で連絡を取り続けて状況を説明し、車内を充分に暖めたらエンジンを切って、軍手をしてレジャーシートにくるまって仮眠すると伝えた。
一度外に出て車体後部の排気口を雪が塞いでいないことを確認してから助手席に移った。カロリーメイトをかじり、冷え切ったコーヒーを飲み、リクライニングシートを倒して横になると、脚が冷え切っていて頭の芯が冴えている。熟睡は望めまい。どうせ夜半には何度も目覚める。エンジンを切るのにはその時にして、もう少し暖まろう。高藤はそうもくろみながら、時折眼を開けて窓の外に舞う雪を見ていた。
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