
ジグソー 第4回
唐突になぞなぞを出されたようで、貴裕はとっさには答えが思い浮かばない。
「え? なんでしょう。一番柔らかいものですか」
「赤ちゃんのお尻だよ」
「あ、そうか。そうですね、分かります。たしかに一番柔らかいですね。私もそう思います。お風呂に入れたりした時の、あのお尻の柔らかさ。ほんとにぷにゅぷにゅしてて。あの肌触りは最高でした」
「だよね。世の中にこんなに柔らかいものがあるのかって思うよね。ほんとに可愛くていたいけで愛すべき柔らかさだよ」
貴裕は、長男の知哉や長女の美乃を風呂に入れていた頃に思いを馳せた。自分も赤ん坊の頃はあんなに柔らかいお尻をしていたんだろうか。自分は憶えているわけもないが、父はそれを思い出したのだろうか。たとえ子どもの名前も顔も忘れていようとも、まだ赤ん坊の頃の、お尻の柔らかい感触を思い出しただけでも嬉しいことだろう。触れた時のあの幸せな気持ちを、再び味わったのならば……。貴裕はなぜか自分まで嬉しくなっていることに気づき、それがまた嬉しかった。
槇野は次のクールも連続で佐伯を担当した。年が明けた一月中旬の冷え込んだ日、マッサージといつものストレッチのあと、佐伯は新たなエクササイズに取り組んだ。テーブルに手をついてのスクワットと後ろ歩きだ。貴裕の手を借りて二つの種目をこなしてうっすらと汗をかいた一成が、昨晩何年ぶりかで行ったという、どんと祭の話を始めた。
「どんと祭ですか。寒くなかったですか」
「マイクロバスで送り迎えしてくれたんで、そんなでもなかった。御神酒が振る舞われてたんで、中からも暖まったし」
「それはよかったですね」
佐伯は室内用の小さな注連飾りを持っていった。大きな火柱が闇を照らし夜空を焦がす。うずたかく積まれた正月飾りが燃えさかり火の粉を飛ばす。辺りには一面に木や藁や紙の燃える熱い香りが立ちこめる。煙のくすぶる匂いが漂う。炎のはじける音と風の鈍重なうなりが渦巻く。その時、火柱から少し離れて佇む佐伯の耳に、不意に周囲の音のうねりを超えてパチパチと弾ける乾いた音色が響いた。