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ラベンダー 第14回

 千尋の話に追いつくことができ、実感として理解できたように思えた翔子が、嬉しそうに言った。
「それで私、応援したいっていうか守ってあげたくなったり、渉君やってくれるなあとか思ったりするんだ」
「まあね、『守ってあげたい』は翔子の中の女性が、もっと言えば母性が言ってるのね。『やってくれるなあ』は翔子の中の男性が、お宅の旦那を同志として、そう感じてるってことかな」
「そうか、私の中にも女と男がいるんだもんね。なるほどね……ねえねえ、ここは私に奢らせて。お願い!」
「まあ、いいけど。じゃ、近くのスタバに場所変える? そこは私が持つ。まだ時間いいんでしょ?」
「分かった。でさ、千尋は家でもこんな話するの?」
「夫や子どもにこんな話は滅多にしないな。仕事の話は家に持ち込むなってね」
「相変わらずいい男っぷり」
「ありがと。でも、その言い方も、私は好きだけど時と場合によっちゃ、イエローカードかもね。じゃ、行く?」
「ごめん、ごめん。以後気をつけます」
 ラクロス部で、体格の良い千尋は、接触プレーにびくともしない名ゴーリーとして鳴らし、対戦チームが恐れをなした。翔子はそのことを思い出して、込み上げてくる笑いを抑えていた。
 
 その日の夕方家に帰ると、機嫌の良さそうな翔子を見た渉が「何かいいことでもあった?」と尋ねた。翔子は、ただ久しぶりに千尋と会って、旦那の悪口を思い切り言い合って清々しただけ、と答えておいた。夜、ベッドに入って渉の静かな寝息を聞きながら、翔子は千尋の話を反芻していた。
 私の中にも男性がいるんだ。そして、渉君の中にも女性がいるんだ。それは例えばきれい好きで、繊細で細やかで華奢なところとなって、表れているのかも知れない。私の内なる男性は、渉君の内なる女性のそんな兆しを愛おしいと思っている。翔子は、そんなふうにも考えられると思うと何か不思議な感覚に包まれた。そして、それが決して嫌ではなく、なぜかその夜はぐっすりと眠れた。

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