見出し画像

ラベンダー 第12回

 それでも、まだ半信半疑のような顔をしている翔子に向かって、千尋は話を意外な方向に展開した。
「さっき翔子が言ってた『先に言ってよ』つながりの、余震と本の片付けとか、陽向ちゃんのあっぱれなスパゲッティの食べっぷりも、その流れで考えられるかも」
「どういうふうに?」
「物事を分類して効率良く行動しようとする人間が、私も翔子もその一人なんだけど、それを越えた出来事にぶつかって、圧倒されたって言えばいいのかな。うちらの想像の範囲を超えることがあることを知って驚くんだけど、でもそれが決して嫌じゃないんだな。むしろ、なんか面白い新発見をしたみたいにわくわくするわけ」
 理屈は分からないけれど、千尋の言うことに直観的に共感した翔子は、すぐさま反応した。
「あ、それ、分かる」
「でしょ? 何かもっと大きなものにぶつかって、それでその大きなものって、不思議と居心地がいい感じもするわけよ。もちろん、災害の時はそれどころじゃないけどね。その意味では、翔子が渉君の好きな色やファッションから、余震の後片付けとか、陽向ちゃんの動物的なスパゲッティの食べ方を連想したのは、別におかしくないんじゃないかな。余震は、人間の想定を越える絶大なパワーを見せつけてくれたわけだし、陽向ちゃんは、人間の考えた合理的なマナーを超越した、根源的なミートソースの味わい方を教えてくれたのね」
「なるほどね。そうか、よかった。私なんでこんなこと連想するのかなって、私大丈夫かなって、ちょっと不安になってたんだ。安心した、ありがとう」
 少し安堵した様子の翔子に、千尋は笑顔を見せながら続けた。
「大げさに言えば、色やファッションのジェンダーを超えようとしている渉君の服装は、天変地異への畏怖とか本能的な食欲とかと同じで、先祖返りみたいなものなのかもね」
「先祖返り?」
「人間がまだ動物に近い存在だった頃、さらにその昔で、この世がまだ混沌としていた神話時代への回帰ってことかな。少なくとも男はパンツをはけ、女はスカートだとかいう、ちまちました決まりはなかった頃よ」
 だが、千尋の意図が空回りしたのか、翔子は再びさ迷える子羊になってしまった。
「ちょっと、ごめん。悪いけど、話が飛躍しすぎてついていけない」

いいなと思ったら応援しよう!