サニー・スポット 第31回
高藤家の居間のガラス戸越しには、道路と民家の向こうの高台にある西洋宮殿風の結婚式場が見える。その建物の玄関の上に載っている尖塔は八角形で、大人の背丈ほどの白亜の壁には縦長のスリットが窓のように入っている。八枚の細長い三角形が寄り添う明るいグレーの瀟洒な屋根が、壁の上端から六〇度ほどの傾斜で空に伸びている。辺見は、知人の娘の結婚式に招かれて、一度中に入ったことがあった。祭壇の背後の壁には、建築家安藤忠雄の代表作「光の教会」を模した、十字架の形にくり抜かれた窓があった。そこから差し込む光の神々しさに、厳粛な思いを抱いたことを憶えている。
辺見は高藤夫人の打ち明け話に、ひとしきり明るく笑ったあとでこう言った。
「いやいや、高藤らしいな。昔からそういう茶目っ気たっぷりの奴でしたからね」
「こんなこと、誰にも話せないなと思っていたんですが、辺見さんのお顔を拝見していて、長いこと知らず知らずのうちに張り詰めていた気持ちがほぐれたというか、安心してついつまらないことを申し上げました。でも、高藤の様子をお話しできて良かったです。三つ児の魂百まで、なんですかね。高齢者になってからもこの調子で、お恥ずかしい限りです」
「とんでもない。元気な様子をお聞きして私も嬉しい限りです」
自らが紹介した楽しげな話題に気持ちがほぐれたのか、杏子はあらためて、感謝とともに、辺見への気遣いをことばに託した。
「そういえば、申し遅れましたが、その節は事故扱いとなるようにご尽力いただきまして、ありがとうございました。お陰様で、依願退職に加えて労働災害の認定もしていただいて、本当に助かりました。退職金と年金に加えて労災年金、それに障害者年金をいただけることになって、訪問介護の入浴サービスなどは大助かりです。デイケアに送り出している間に私がパート勤めをして、滉平も楓も無事大学まで出してやることもできました。
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