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「サニー・スポット」第16回

 当時のリスク統括部では、企業活動を主に扱うコンプライアンス室とリスク管理室に加えて、人権啓発室およびダイバーシティ推進室が、新たに設立される予定になっていた。現在では人事部におかれているこの二室の発足にあたって、どんな小さなミスも避けたいという思いが勧告につながった可能性も考えられる。
だが、たとえそうであったとしても、支店長の事案処理に瑕疵があるとまでは考えられない。しかし、この状況でのリスク統括部長委嘱取締役の意向は絶対的な意味を持つ。万難を排して従わざるを得ない。
 
 会議での植田支店長の表情は落胆の色が濃く、憔悴が隠せなかった。勧告の内容を尊重して山畑副支店長が代理で議事進行を担い、勧告に従った改善策が講じられた。まず、植田支店長に代わる特別臨時支店会議の新議長には、山畑委員長代理の提案を受けて辺見が選任された。
 調査委員会の構成に関しては、公平性に欠けると指摘された田野畑調査委員が辞任し、新委員として個人営業課の四十代の中堅行員である志藤波恵が選任された。これらの人選には、若手管理職と女性行員の起用によって、心機一転して新たな課題に取り組む姿勢を示す意味合いが込められていた。
 また、議長に任命されて委員会から外れた辺見の補充を兼ねて、勧告書が求める外部からの調査委員として新たに女性弁護士を招聘することとし、辺見新議長に人選と交渉が一任された。志藤と新加入の弁護士は、女性である被害者に配慮した人事措置でもあった。
 会議の終了後辺見は一人で支店長室に居残り、舵取り役の議長の初仕事として、生まれて初めて弁護士事務所を電話帳で探した。女性であることと地理的条件を考慮して三名ほどをメモして、受話器を取り上げた。
 幸いにも最初に電話した事務所に所属する沢内香奈恵弁護士が、セクハラ案件にも少なからず実績があると聞き、早速タクシーで駆けつけ依頼内容を説明すると、その場で承諾してくれた。予想よりも随分と早く九時過ぎに新調査委員会の陣容が揃い、拍子抜けする思いで辺見は弁護士事務所から直接帰宅の途についた。

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