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グラデーション 第16回
ナオミは、学校ではオリエンタルとして見られる一方で、ロサンゼルス中心部にあるリトルトーキョーの日系人祭りなどでは、日本語が不得意で、考え方がすっかりアメリカナイズされた人間として扱われた経験を話して聞かせた。
「うちにはよう分からんな。最近じゃ日本も外国から移住する人が増えとるばってん、アメリカんごつ多くはなかけんね。こん高校で外国人はナオミだけと違う? あとはみんな日本人やし」
「そこなのよ。ね、初めて会った時のこと憶えてる? 教室の後ろにボーッと突っ立ってた私に、どうかしたとって聞いてくれたじゃない」
「ああ、あん時ね。制服にびっくりしたんやって言いよったね」
「それも少しはあるけど、本当はみんなが同じ黄色い肌、黒い髪をしていることに驚いたんだ。初めて見る光景だった」
「あたりまえだけどねえ。それに肌ン色は白か子もおりゃ黒か子もおるばってんなあ」
「そりゃ色白の私みたいな子や、健康的に日焼けした典子みたいな子もいるよ」
「こらこら、はっきり言いなすな」
典子が怒ったふりをしてみせたあと、ナオミは夏休みに得た新知識を披露した。
「でも、日本人の肌の色はだいたい同じだよね。こないだサンタアナで聞いたんだけど、最近はエリス・モンクという人が作った10段階の色を使うみたい。MSTスケール(モンク・スキン・トーン・スケール)って言うんだけど、この数字を言えば、肌の色の感じが分かりやすいわけよ。日本人だと色白で2、浅黒い人で5くらいかな」
「へえ、そりゃ便利で役に立つかも」
「アメリカの教室には、1から10までほとんど全部の肌の色が溢れている。それに慣れていたから、あの日はびっくりして固まっていたわけ」
「なるほど。そうやったんか」
「そういういろんな人種や文化がごっちゃになってる国でね、日系人四世として暮らしていると、教室ではオリエンタルだし、日系人の集まりでは日本のことばや伝統もろくに知らない世代って思われたりするわけよ」
「それで、うちゃどっちってなるわけか」
初めて打ち明けた自分の悩みを、すんなりと理解したくれた典子に嬉しくなって、ナオミは話し続ける。
「そう、留学したいって思ったのはそれを確かめてみたい、自分のアイデンティティっていうか、根っこを探してみたいって気持ちがあったからなのね」
「で、見つかったと?」