見出し画像

サニー・スポット 第34回

 辺見はことばを続けた。
「私の力に及ばない点があり、よりよい解決の道があったはずだという思いはしております。その思いはこれから何か私のできる範囲で、高藤君や奥さんのお手伝いをして伝えていきたいと考えています。ですから、奥さんも高藤君が、何かおかしな考えを抱いたのではなどとお考えになったりせずに、これからの人生を高藤君ともども、お幸せに過ごしていただきたいと願っております」
 目頭を押さえ押し黙ったまま何度も頷く杏子に、辺見はさらにことばを継いだ。
「例の特別事案はほぼすべて解決しました。岸場綾音さんについては、支店にケアチームを作って、定期的にご本人を交えてミーティングを持ちました。相談があればアドバイスをし、何もなければ世間話をしていましたが、そのチームも三年で役目を終えて解散しました。岸場さんは、事案の解決した年の秋に県南リースという会社に転職して、数年後に社内結婚をされたそうです。お子さんも二人いらっしゃると聞いています」
 辺見がそういうと、杏子は肩の荷が下りたような軽やかな笑顔になって応じた。
「そうですか。お幸せに過ごしていらっしゃるんですね。何よりと存じます。実は私、当時、高藤に『魔が差した。本当にすまない。許してくれ』と謝られたんですが、最初は到底受け入れられなかったんです。でも、辺見さんたちのお力で事態の収拾が図られ、少しずつ解決の糸口が見えてきている、という主人の話を聞いているうちに、私にも何かできないかと、そんなふうに思い始めて。もともと裏表のない人ですので、過ちも含めて、夫としてもう一度受け入れてみよう、と考えることができるようになったんです。これについても、私は辺見さんにお礼を申し上げなくては、と思っております」
 そう言われて辺見は、右手を左右に振りながら恐縮の面持ちで答えた。
「いや、奥さんにお礼を言っていただくようなことは、私は何もしておりません。それに私は、高藤君も被害者だと思っています」
「え? どういうことでしょうか」
 

いいなと思ったら応援しよう!